プロローグ・オブ・シスターズ
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ」
隣の幼馴染が叫ぶ。
「会いたいよう、お兄ちゃん」
この少女の名は義経 響夏、まごうことなき美少女だ。
「ねえ、ひーちゃん」
「あ、知り合いだと思われてしまうので話しかけないでください」
「そんな~」
ひーちゃんというのは、幼馴染と違い極普通の女子中学生である私、詩季 柊のアダ名である。正直やめてもらいたい。
「さっきから何?近所迷惑なんだけど」
「だってさ、だってさ、お兄ちゃんと8時間14分23秒も会ってないんだよ~」
「数えてたの?」
さっきから言っているように、まあ、アレだ、彼女は俗に言うブラコンなわけだ。
しかもただのブラコンではない、恋愛感情までもっている。一応義理の兄妹だから結婚は可能なのだが、あくまで法律上のことであって世間体というものもあり、事実結婚など普通はありえない。それでも彼女は狙ってる……今のはちょっとしたジョークだ。いろんな発音をためしてほしい、きっと気付く。気付かない場合は……まあ、私が3コンマ2秒ほど落ち込めばすむ話だ。
すまない、話がそれた。とにかく、彼女には秋水という名の愛おしい兄がいる。どちらかというと、秋水先輩だからこそ超ブラコン妹がいるのだと思うのは私だけだろうか。
私もブラコンという評価を付けられても否定出来ない人種であり、兄妹での恋愛はリスクの高い恋愛と認知しているので、彼女の恋に対して反対はしない。応援もしないが。
「お兄ちゃん成分がたらないの~」
「あ、ちょと離れてください。お兄ちゃん成分などという単語を発する者と同じ種類の生物だと思われたくないので」
「例え地球の裏側にいたってボクは君と同じヒト科の人間だから!」
このボクッ娘ブラコンとのお兄ちゃん話は、まことに不本意ながら日常のこととなっている。
「ひーちゃんもだけど、ひーちゃんのお兄さんも変ってるよね」
「……一般的思考を持っていないのは認めるけど」
「ホント変な人だよね。お兄ちゃんもなんであんな人と仲がいいんだろ?」
『人の数だけ正義はある』と誰かが言った、兄さんはそれに賛成の議を唱えている。
兄さん曰く、人はそれぞれ自分の正義を持っており、意識的であっても無意識的であってもそれに基いて行動しているとのこと。
『ある人から見た正義』は、『ある人から見た悪』にとっては悪であり、『ある人から見た悪』は、『ある人から見た悪』にとって正義である。
要は、自分自身が正義なのだ。そもそも正義とは正しいことであり、『その人』が正しいと思えば『その人』にとって正しいということになる。
自分が正しいと思えば正義であり、自分が正しくないと思えば悪である。それだけ聞くと幼稚で身勝手のようだが、はたしてどうだろうか?
極端な例えを出そう。人を殺すことは正しいか、正しくないか。多くの日本人はいけないことだと答える。ではそれは何故か?「法律で禁じられているから」、では禁じられてなければいいのか?「人権が尊重されないから」、では人権がなければいいのか?答えは単純明快、いけないことだと思っているからだ。
クイズだとしたら文句を言われそうな答え、だがどうだろうか?
戦争中、敵国の兵士を殺すことは名誉なことであったが、それは人殺しである。この時はそれが正しいと教えられ、つまり思わされていたのだ。
今、人殺しがいけないとされているのは、教育という形でそう信じ込まされているからである。それがいけないことかどうかも、どう思うかによって変わってくる。
つまり、ある程度限定した中(数学など)でなければ絶対に正しいなどということはない、人によって答えが違うから。
また、兄さんはこうとも言った、「このことも正しいかどうかを決めるのはその人しだい」と。
なんとも曖昧な考え、ゆえに外れも当たりもしない。だからこそ、私は信じてしまう。
だから、響夏が兄さんの悪口を言おうとそれは響夏の正義であり、私が知る所ではないのだが、それに対して私が怒るのもまた私の正義であると承知していただきたい。
「きょーうーかーちゃん」
「ちょ、痛い痛いっ、作り笑い浮かべながら関節きめるのやめてっ、すごく怖いからっ」
すまない、長くなってしまった。恨むならこのボクッ娘ブラコンを恨んでくれ。
「痛ててて、ひーちゃんってばブラコンだったの? この歳にもなって」
「オ前ダケニハ言ワレタクナイ」
「え?いだっ、ちょっ、ギブギブっ、お兄さん素敵な人だよね尊敬しちゃうなっ」
しかたがない、反省しているようだからこのくらいにしてやろう。
「ふー、何か疲れた。しっかし意外だったな、ひーちゃんがあんな……に素敵なお兄さんが好きだったとは」
よろしい。
「まあ、今は恋愛対象ではないし、将来の夢は兄さんと結婚することです、って昔作文に書いたくらいだけど」
「え、そんなかわゆいことしたんだ」
「中2の時に」
「一年前! てかほとんど最近じゃん! ボクビックリだよ」
!が三つもあるのだから相当のことなのだろう。
「現在進行中で狙ってる人が何を」
「てへっ☆」
頭を小突いて舌をちょこっと可愛らしく出しても、女の私にとってはウザいだけだ。
「ウザッ」
思わず声に出してしまった。
「ひどいっ、ボクとはお遊びだったのね」
よよよ、とワザとらしすぎる泣きまねをするボクッ娘ブラコンに拳骨、もとい制裁を下す。
「痛っ、もう、アナタの暴力的な所が嫌なの」
どうやらおかわりがほしいらしい。
「ひ、柊さん。何故拳を振り上げているのでしょうか?ボ、ボクが悪いなら謝ります」
「昔の偉い人は言った、ごめんで済めば警察はいらない。と」
「それたぶん偉い人じゃないからーーーー!」
そう言って逃げるボクッ娘ブラコン。私が見逃すとでも思っているのだろうか?だとしたら愚かなことだ。
「今なら二発で許してあげないこともない」
「増えてるよねそれ!それ絶対増え」
突如、ボクッ娘ブラコンの姿が消えた。
「はて、この穴は?」
どうやら穴に落ちたらしい。不自然な穴だが、私の知ったことではない。
「まあ、あいつが秋水先輩の童貞を奪う前に死にはしないか」
さらっとまずいことを言いながら、殴るかわり……もとい制裁として、あることないこと秋水先輩に暴露しようかなどと邪なことを考えながら帰ろうとしていると、誰かが私の足を掴んだ感触がした。
「へえ、いい心掛ね。その心意気に応じて三発にして……え?」
その手は幼馴染のものではなく、死人のような手で穴から出てきている。私とて女の子、このような物を目にして怖くないわけがない。
「キャ、キャアーーーーーー」
何年ぶりかの悲鳴を上げ、穴の中に引きずり込まれるのを感じながら私の意識は落ちていった。
〓
「起きて、起きて、ひーちゃん起きてっ」
「ん、ここは?」
「わかんない。ひーちゃんから逃げていたら穴に落ちて、その後ここに」
穴?そういえば手に引っ張られて……思いだしたら怖くなってきた。今はとりあえず溜めといて、兄さんの胸の中でおもいっきり吐き出すとしよう。
「ああ、そういえば」
「ん?」
幼馴染を四発ほど殴っておく。
「痛っ、今、今やるの!しかもさらに増えてるんだけど」
「秋水先輩が寝ている間に、おおよそ18歳未満に見せられないことしているとばらさなかっただけまし」
「な、なななななななななな何で知ってるの!?」
マジで、マジなのか。
「ちょ、そんな軽蔑しきった目で見ないで」
「あ、気安く話しかけないでください」
「Nooooooooooooooo!誤解だよ、誤解じゃないけど誤解なんだよ」
「そういえばここはどこだろう?」
「無視はやめて!ボクの立ち位置とかまずくなるから」
「うっさい」
「ほんっとーにすいません」
さて、ここはどこだろう。
「貴女達が勇者様ですか」
すかした感じのイケメンが話しかけてきた。何か痛いこと言ってるんだけど。
「ようこそ勇者様、我が『バンシース』へ」
これが、私達の非日常の始まりだった。
名前 詩季 美冬 義経 千夏
職業 中学三年生 中学三年生
性格 マイペース 基本クールビューティー兄が絡むとぶっ飛んだ感じ
容姿 普通にかわいい 和風美人
趣味 料理 兄とのコミュニケーション
一人称 私 わたし
スタンス クーデレ 超絶ブラコン
備考 主人公をそのまま女にした感じ 兄ほどではないがモテル(男女共)
主人公の妹 部長の妹
兄のことは尊敬している 兄には兄妹の一線を越えた感情を懐いている
女子剣道部副部長 女子剣道部部長
基本ボケ担当 基本ツッコミ担当
若干ブラコンのけがある 完璧超人
初恋の相手は兄 貧乳
これが柊さんと響夏ちゃんの初期設定です。
柊さんはこんなにお兄ちゃんっ子のはずじゃなかったんですけど・・・ま、いっか。
響夏ちゃんはもはや原型がありませんね。クールビューティーとかなにそれ美味しいの?状態ですし。
今回は書いててとても楽しかったです。正義うんぬんの所は大変でしたけど。
笑いの基本ボケとツッコミ、どちらかは淡々として、が作者的に好きです。主人公や部長の方もそうしたいのですがどうも。
柊さんとても使いやすい、でも響夏ちゃんがいないと主人公みたいになりそう。やっぱり主人公は二人組がやり易いですね。