あの男爵様がこんな末路を辿るとは
「パウロ様、男爵様のお話は耳にしましたか?」
「あーうん、細かいことはわからないけど…弟様に爵位を買われたんだってね」
「そうならざるをえない何かがあったのでしょうか」
「だろうねー、まさかあの男爵様がこんな末路を辿るとは」
「貴族でいられなくなり、お屋敷すら出ていかなければならないとは…お気の毒です」
やっぱり、神さまはよく見ていらっしゃるのだろう。
リーシュちゃんを傷付けた家族に天罰が当たった。
そして、おそらく元婚約者も婿入りの話はなくなったから勝手に破滅するはず。
「お気の毒だね、本当に。でもリーシュちゃんのことを思うと、神官としてはだめなんだけど…ざまぁみろと思っちゃうんだよね」
「パウロ様…」
「あ、怒んないでね」
「いえ、むしろわかります。リーシュ様は本当に御苦労をなさってきたのですから。パウロ様はリーシュ様を特別に愛していらっしゃいましたからね」
「んー、そうね。なんでかな、幼い頃に両親の離婚で離れ離れになった妹に重ねてたから…とか?」
ふふ、と目の前の神官は笑う。
「そうですね、妹御はリーシュ様と明け透けな物言いが似ています」
「だよなぁ、大人になってから時々会いにきてくれるようになったのはいいけどあの子リーシュちゃんに負けないくらい素直すぎるよぉ〜」
「再会できたのは何よりですがね」
「それはそう。もう会えないと思ってた。だからリーシュちゃんが余計に可愛かったのはあるし」
とはいえ、最初にいきなり結婚報告をされて赤ちゃんを抱かせてもらったのには驚いたけどね。
「ただ、新しい男爵様はリーシュ様のお父上様より余程妖獣様に敬意を払っているようですね」
「代替えしてくれて却ってよかったよ、これからの統治に問題がなければね」
「まあ、これから次第ですねぇ」
そしてしばらくすると、新しい男爵様の統治にも問題がないとわかった。
穏やかな日々が過ぎる中、新しい男爵様が俺に会いにきた。
手紙で知らされたという、リーシュちゃんのお父上の現状を教えてくれた。
俺とリーシュちゃんが仲がいいのを何処からか聞いて、リーシュちゃんに俺が今度会うときにお父上のことを話すことになった場合に備えて教えてくれたらしい。
あの人の弟と思えないくらい真面目だが、リーシュちゃんの親戚なんだしそっちに似たのかと思い直す。
「色々教えてくださってありがとうございます。リーシュちゃんにもし聞かれたら伝えますね」
「是非よろしくお願いします。姪がここまで蔑ろにされていたと、最近まで知らなかった自分がお恥ずかしい」
「いやいや、親戚づきあいなんてそんなものですよ」
別にこの人が悪いわけじゃないし。
「姪によろしく」
「はい、お任せください」
妖獣様にはむやみに近づけない。
そういうルールなので、リーシュちゃんが気になっても会いに行けないのだろう。
真面目そうで、気苦労の多そうな人だなぁと思った。




