そして僕も破滅した
突然男爵様が弟に爵位を譲った。
いや、買い取られた。
詳しいことは何も知らない。
ただ新しい男爵様には息子が二人もいるから、爵位を継がせるのも商会を継がせるのも間に合っている。
僕の婿入りの話はなくなった。
「あの妖獣の村の婿養子になると期待していたのに、使えない子」
「もう結婚適齢期で婚約が決まっている家がほとんどで、他の家に婿入りも期待できないし…邪魔なだけだな」
リーシュの家族が破滅したことで、僕も破滅が確定した。
もう両親から期待はされない。
兄と仲良くもないから支援も期待できない。
婿養子となるためだけに努力してきた今までも全てが無駄になる。
全部、リーシュを裏切った報いだろうか。
「…これからどうしようか」
僕は近いうちに、自立しろと実家を追い出されるだろう。
その前になんとか自立を目指さなければ。
僕はこれから生きていくための仕事を、必死になって探した。
結果、家庭教師の職を得た。
…もう未亡人になったお金持ちのマダムの。
「この度は雇ってくださってありがとうございます」
「いえいえ、わたくしあまり勉学はわからなくて。今からでも色々なことを学びたいの。よろしくね」
妖艶なその人は、年齢を感じさせないほどに美貌を保っていた。
経産婦だと信じられないほどに美しい。
子供達はすでに自立していて、屋敷には僕らと使用人達だけ。
僕が雇われた理由なんて、わかりきっていた。
「どうか、色々なことを教えてね」
「はい、奥様」
ただ、意外なことになかなか手を出してこない。
本当に真面目に、色々なことを積極的に学ぼうとして普通に授業を受けてくれる。
そのうち彼女に心を許し始め、杞憂だったかと思っていた頃に…関係を求められた。
元々わかりきっていたこと。
さらに彼女のことは今では嫌いではないし、だから頷いた。
「…ふふ、満足したわ。またお願いね、先生?」
「はい、もちろんです」
微笑みを浮かべる。
けれど内心吐き気を催していた。
彼女が嫌なわけではなかった。
最初からわかっていたことだったし、彼女は嫌いじゃないし雇ってくれた恩人だ。
ただ…リーシュの顔が頭に浮かんで、仕方がない。
「…やっぱり、僕は色々拗らせすぎたな」
一人部屋で呟く。
彼女は未亡人で、倫理とか色々あるけれど…まあこれは、爛れてはいても許されないことではない。
彼女のことも嫌いじゃない。
なのにこんなに苦しくなるのは、初恋を拗らせすぎたから。
これは、初恋を消化することなく裏切った僕への天罰なのだ。
「…はは」
決して不幸ではない。
天罰こそ降ったが、したことに対しては軽い罰でしかないのだろう。
でも、それでも心が苦しい。
リーシュ、本当は君に触れたかった。




