食事場
「で、ここが食事場。見る?人にはオススメしないけど」
「んー…」
「きついと思うよ、食べかけあるし。というか、お腹空いたしこのままおれ食事再開するから。リーシュは下で待ってた方がいいと思う」
気遣いは有り難いが。
「見てても良いですか」
「まじ?」
「マジです。猟奇的な趣味は一切ありませんが、夫であるフェリーク様のお食事は一度は見ておきたくて」
下手したら吐きますけど、といえばフェリーク様はきょとんとしたあと吹き出した。
「ぶふっ…あはははは!君って本当に面白いね!リーシュのこと結構好きになっちゃった」
「私もフェリーク様に好感持ってますよ、今のところ」
「にゃーん」
私もー、とミネットちゃんは手を挙げる。
可愛いの権化。
「じゃあ部屋開けるし入るし食べるけど。無理はしないでいいからね」
「はい」
フェリーク様がドアを開ける。
「わあ」
グロイ。
足とか腕とか転がってた。
頭部がないのはまだマシか。
「最近若い女性が多くてさ。食べられたくなくて必死に誘惑してくる子も多いんだけど、おれそういうのは教えられてなくて微妙にわかんないし。なんか気が引けるよね」
「まあスパイですからね…そういうタイプも多いでしょう」
ていうか私も順応早いなぁ。
吐いてないし。
気持ち悪いってほどでもない。
それはそれとしてグロイけど。
ただ、まだ気持ちが追いついてないだけの可能性もあるとは思う。
「じゃあ、早速食べるね」
そう言って食事を始めるフェリーク様。
…いや、食べ方汚いな!
人間を食べるシーンがどうとかどうでもいいくらい食べ方汚い。
フェリーク様は先程までの所作を見るに、貴族に紛れてもしばらくバレないくらい全ての動きが洗練されてたのに。
食べ方だけものすごく汚い!
「フェリーク様」
「うん?やっぱりきついかい?」
「いえ、そうではなく。食事中はあぐらはやめましょう。直食いは仕方ないというか皿に移しても無意味なのでいいんですけど、正座して食べません?」
私に言われてフェリーク様は正座した。
「こう?」
「そう。あと食べる前は手を合わせていただきます、食べた後は手を合わせてご馳走さまでしたと言いましょう」
「いただきます、ご馳走さまでした」
「命をいただく感謝と、ご飯を用意してくれた手間に対しての感謝です」
「なるほど」
フェリーク様はぱっと笑った。
「ありがとう!食事に関しては誰も教えてくれないから助かった!」
「いえいえ」
私はどうせこの一回きりのウェディングドレスなので汚れても構わないだろうと、そのままフェリーク様を抱きしめた。
「え」
「食事中にごめんなさい。なんとなくこうしたくて」
「…」
フェリーク様は餌を床に置いて、私を力なく抱きしめ返す。
「フェリーク様?」
「…」