彼女のことが頭を支配する
愛おしい元婚約者。
妖獣に掠め取られた、愛するリーシュ。
僕は結局、彼女を忘れられない。
拗れた初恋の呪縛から、解き放たれることはない。
彼女のことが頭を支配する。
「リーシュ。君に会いたい」
ぽつりと呟いては、虚しさを感じている。
素直に言えばよかった。
君が好きだ。
君を愛している。
こちらを見て欲しい。
「素直になれたら、何か違ったのかな」
ラブラブカップルになれていた?
君が妖獣の花嫁に選ばれることはなかった?
ずっと君の隣にいられた?
「…全部、もう今更だ」
結局僕が手に入れたのはリーシュではなくブルローネだ。
ブルローネを溺愛するような素振りをして自分を誤魔化すが、満たされない。
最初は騙されていた様子のブルローネだったが、最近僕の内心を見透かしている気もする。
それでも、そんな僕を利用して贅沢をするあたりいい性格をした女だとは思うが。
「まあ、僕も人のことは言えないからな」
素直になれなかった男の末路。
それに寄り添うのは自分勝手な女。
破れ鍋に綴じ蓋というやつだ。
お似合いだろうな、僕らはきっと。
「リーシュへの歪んだ想いを含めても、ね」
最近わかったことがある、ブルローネもまた屈折した想いをリーシュに向けていたのだ。
僕らはお互いに、リーシュに好意を持っておきながらそれをリーシュに伝えられなかった。
好意そのものも、屈折したもので。
「ごめんね、リーシュ」
やっと出てきた謝罪の言葉は、彼女に届くはずもなくただ溶けて消えていった。




