聖女であるわたくしに逆らうなんて
「上手く行くに決まってますわ!大体、貴方のような存在は、存在自体が許されませんわ!人を喰うなんて、野蛮で邪悪な行為は許さない!」
「そう。けどおれは別に君の許しなんて求めてないしね」
「…っこの!」
なんて太々しい妖獣なのかしら!聖女であるわたくしに逆らうなんて!
「じゃあ、やってみなよ」
「え?」
「元々おれを処分したくて、わざわざここまで来たんでしょう?」
そう言って、事もあろうにわたくしを鼻で笑う妖獣。
いくら美しい男の姿をしていても、やはり獣は獣ね!
「言われなくても!」
最大出力で魔力を指先に集めて束ねて一気に放出する。
わざわざ高度な技術を使わずとも、わたくしの高濃度の魔力を大量に束ねて放出して見せればありとあらゆるものは貫かれる。
そのはずだった。
「…ふーん」
妖獣は、特に何をするような素振りもなく簡単そうに防御壁を展開した。防御壁は高い技術と高濃度の魔力を大量に必要とするのに。
「な…」
「この程度でそんなに息巻いてたんだ」
「な、なぜ…妖獣風情が防御壁を…」
「馬鹿だなぁ、神さまの作った妖獣になんの能力もないと思っていたの?まさか本当に与えられたのが加護だけだと思っていた?」
そんな馬鹿にしたような声にハッとなる。
人を喰うような野蛮な妖獣。
まして田舎の辺鄙な山の粗末な家に篭ったそれが、防御壁なんて高度な技術を持つなど想像もしていなかった。
そう、わたくしは…悔しいけれど、この妖獣を見くびっていた。
「さて、君は何度もおれの可愛いお嫁さんを貶してくれたよね」
「ひっ…」
妖獣が近寄ってくる。
わたくしは今ので魔力を使い切ってしまっていた。
抵抗する手段が、ない。
「おれのことはいくらでも好きに言えばいい。でもリーシュを貶すことは許さない。だから」
ガッと、首を掴んで持ち上げられる。
「どう落とし前をつけてもらおうかな」
恐怖に、粗相をしてしまう。
床を汚すそれに彼も気付いた。
「え、ヒトの家でおもらしとかやめてよね。まあこれからまだまだ漏らすかもしれないから、とりあえず拭くのはあとにしてお仕置きを優先しようか」
怖い。
わたくしは、思い上がっていたのだとやっと気づいた。




