彼女はおれのために怒ってくれる
リーシュとミネットがおれのために怒ってくれた。それだけで嬉しかった。聖女の言葉に傷つかなかったわけではないが、それでもそれ以上に二人の気持ちが嬉しくて。
でも、聖女がさらに言葉を重ねるとリーシュは堪らず手を出そうとしたので急いで抱きしめて止める。
そんな状況なのに、おれのために怒ってくれるリーシュが愛おしいなんておかしいね。
聖女に手を出してリーシュが色々言われると嫌だから止めるけど、なんならずっとリーシュの暴言を聞いてられるくらい嬉しい。なんなんだろう、この気持ち。不思議。ふわふわして、なんだかとても幸せになってしまう。
けれど、聖女がリーシュのことを貶めたことで幸せなふわふわ感は何処へやら。今度はおれが怒りにおかしくなりそうで、リーシュをぎゅっと抱きしめて堪える。
「おれはいいけど、リーシュを貶めるな」
「貴方のような人を喰う妖獣を庇うような方、とても同じ人間とは思えませんわ」
「そりゃあそうでしょうね、私もお前なんかとおんなじにされたくないので」
「…なんですって?」
「私はこの国を支えてくださったフェリーク様への感謝を忘れることも、フェリーク様の気持ちを軽んじることもありませんから」
ふんっと鼻を鳴らすリーシュ。まったくもってその通り。
「そうだね。リーシュは誰よりも優しくて、おれを愛して気遣ってくれる素敵な子だから。君なんかとは何もかもが違う」
「だから!それを異常だと言ってますのよ!人を喰う妖獣ですのよ!?どうして愛せるんですの!そんな野蛮な妖獣、処分しようとするのが普通ですわ!」
「…処分、ね」
「処分?」
処分と聞いて怒りに我を忘れたような目を聖女に向けるリーシュに、ああこれはさすがにまずい…リーシュの血管が切れて倒れかねないとリーシュに魔法をかける。
「あれ、眠い…」
「リーシュごめん、少し寝ていて」
「フェリーク様…」
「本当にごめんね、ありがとう。大丈夫だからね」
腕の中ですやすやと寝息を立てるリーシュを抱きしめて、ミネットに託す。
「ミネット、リーシュをお願い」
「にゃーん」
ミネットがリーシュを魔法で二階のリーシュの部屋に運んでくれる。そのまま付き添ってあげてくれるだろう。
「…で?処分って、教会全体の総意なわけ?」
「今はわたくしの独断ですわ!でも貴方をこの場で殺して、わたくしの豊穣の能力を披露すればみんな黙りますわ!」
「そんなにうまくいくといいね」
そもそもおれに返り討ちにされるとは思わないのかな。




