ある神官の独り言
俺はパウロ。
聖神教のしがない神官。
それもとある男爵領の田舎村で育ち、そこの教会で神官をやっているので他の神官たちからは出ずっぱりだと思われている。
だがこの村の教会は特殊で、やることが他の地域の神官より責任が重い。
なんてったって、この国を支える『妖獣様』に餌を与える任務があるからな。
「男爵家が買った死罪に値する罪人を、妖獣様の元まで届けねばならない」
神が創りたもうた妖獣様は、加護増し増しだからこの国には無くてはならない存在だ。
妖獣様がいるからこの国は存続していると言っても過言ではない。
妖獣様の存在を知る者はほとんどが畏怖の念はあっても敬愛の念は抱かない。
だが俺は神官として、神が創りたもうた妖獣様には敬意を払っているつもりだ。
そしてもう一人、敬愛とは違うが妖獣様を気にかけていた女の子がいた。
「リーシュちゃん、元気かなぁ」
妖獣様のお嫁様になったリーシュちゃん。
リーシュちゃんはこの男爵領を治める男爵様の娘御なのに、幼くして母を亡くし腹違いの妹に虐められていた。
俺は知っていたのに助けてあげられなくて、でもそんな俺が自分が情け無いと泣いていたらリーシュちゃんは慰めてくれた。
優しい子だった。
だから妖獣様の話を聞くといつも可哀想だと気にかけていて。
「神様がリーシュちゃんを妖獣様のお嫁様に選んだ気持ち、わかるなぁ」
リーシュちゃんほど純粋で優しい子だったら、自分の愛し子を任せるのにぴったりだと思うのも納得。
それにリーシュちゃんは妖獣様に嫁いでしまえば虐待してくる父親や妹、止めてくれない継母から離れられる。
浮気者の婚約者ともおさらば出来るのだから損はないはず。
妖獣様とは餌を渡す時に軽く挨拶する仲だから、そんな思われているほどおっかない人ではないと知っているから俺としては安心。
「あとはリーシュちゃんと妖獣様の相性次第だけど」
妖獣様は穏やかで大らかだし、リーシュちゃんは物言いが素直だけど優しい子だし。
まあ、大丈夫だろう。
「…ってことで、今日も張り切ってお仕事しますか」
今日は妖獣様に餌を届ける日。
餌は定期的に数人ずつ与える。
罪人たちを縄で括って連れ出す。
いやだ離せと喚き声が聞こえるが無視。
俺と同じく男爵領の教会で働く他の神官たちも協力してくれて、罪人たちの抵抗を許さず山を登る。
「やっとついたー」
妖獣様のお家にやっとの思いでたどり着く。
玄関のドアをノックする。
「はーい」
返事がして、出てきたのはもちろん妖獣様。
子猫のミネットちゃんもいつも通り出迎えてくれる。
そして、もう一人。
「あ、パウロさん。他の神官様も!」
リーシュちゃんも、元気そうな顔を見せてくれた。




