愛する婚約者は
リーシュは冷めた子だった。
父親は浮気ざんまい、母親はそんな父を健気に愛して弱っていく。
そんな環境で育っていれば、冷めた子供に育つのも無理はなかった。
けれど僕は面白くなかった。
リーシュは口を開けば母親のことばかり。
「僕はただ、こちらを見て欲しかっただけなんだ」
けれど、リーシュが気にかけるのはやはり母親のことだけ。
僕は幼い頃から嫉妬に苦しんでいた。
リーシュは母親に似て美少女だったから、余計に。
そんなある日、リーシュの母親が死んだ。
将来義母になるはずだった人が亡くなったのに僕は喜んだ。
「やっとリーシュがこちらを見てくれる、そう思っていた」
けれど、リーシュはこちらを向いてはくれなかった。
リーシュは次は、腹違いの妹を気にかけるようになった。
気にかけるというか、怯えた目や怒りを燃やした目を向けるようになっていた。
それを癒そうとしてみたがだめ。
結果リーシュの目に僕は映らない。
「だから試しにあの娘と寝た」
嫉妬してくれるかなと期待したがだめだった。
わざと気付かれるようにしたのに、反応はなかった。
だから、僕はリーシュへの気持ちは諦めることにした。
必死に自己暗示をかける。
僕が愛するのはリーシュではなくブルローネだと。
「でも、結局はリーシュのことを想ってしまう」
リーシュの前では取り繕えるけど、リーシュと離れるとリーシュのことばかり考えてしまう。
幼い頃からの拗れた初恋は、もはや僕にとっては呪いも同然だ。
「…素直になれなかったのが悪かったのか?」
そんな日々を送っていたら、リーシュは神によって妖獣の花嫁なんかにされてしまった。
リーシュを永遠に失って、代わりに手に入れたのはブルローネ。
悲しみを払拭するようにブルローネを溺愛するような振る舞いをするが、心は満たされない。
ああ、愛おしいリーシュ。
もう一度君に会いたい。
「もう二度と、会うことはないのだろうけど」
これがきっと、拗れた初恋の罰なのだろう。




