私の愛おしいお姉様
私はブルローネ、男爵家の娘。
私の旦那様となる婚約者は、我が男爵家を継ぐ婿養子となる。
父は優しくて私を溺愛してくれる。
母は私そっくりの美人で私を愛してくれる。
完成された完璧な家族。
「なーんちゃって」
私は不義の子だ。
父と愛人だった母との間に生まれた婚外子。
父には生まれながらに決められた婚約者…やがて妻になる人がいた。
なのに母と運命の出会いを果たしたとか言って一人でラブロマンスに浸っていた。今もそう。
母は母で、罪悪感より愉悦を感じる方が勝っているらしい。今では悪化している。
「気持ち悪い…」
父も母も、二人の罪の象徴である私自身も気持ち悪い。
それでも生き抜くために、死にたくはないから…自我が芽生えて気持ち悪さを感じるようになってからも、父と母の前では無邪気な娘でいた。
そんなある日のことだった。
父の前妻が死んだと訃報が入った。
父も流石に葬儀には出て、お墓も作ったらしい。
「でもその後が最悪」
父は母を後妻として迎え入れた。
前妻が亡くなってすぐの話だ、反吐がでる。
そして私も魔術で血縁を証明されて、戸籍に登録された。
これで私は正式に父の子となった。
気持ち悪い。
「でもそのおかげで、私は父の言う運命の出会いを知ることになった」
私の運命の出会いは、屋敷に招き入れられてすぐ。
美しい女の子だった。
『…リーシュです。よろしくお願いします』
何もかもを諦めきった目。
私だけのお姉様。
それから、私はお姉様を虐めるようになった。
周りは私がお姉様を憎んでいるのだと思うだろう。
お姉様もきっと、そう誤解している。
「でも違うの。私は心から、お姉様を愛しているの」
お姉様は可愛い。
お姉様は美しい。
お姉様は愛おしい。
だから、虐めた。
お姉様の諦めきった冷たい目が、時々私を憎むように燃えるのがたまらない。
「特に形見を奪った時は凄まじかったなぁ」
あの時のお姉様は本当に可愛かった。
お姉様大好き。
「婚約者を寝とった時は意外とあっさりしてて拍子抜けだったけど」
お姉様を裏切ったあの男は私にご執心。
反吐がでるが、お姉様が妖獣の花嫁なんかにされてしまったから私との婚約が決定。
まあ、使い道はある。
我が男爵家を継ぐ男なのだし、せいぜい馬車馬のように働いて贅沢をさせてくれればいい。
問題は。
「愛おしいお姉様を妖獣なんかに奪われたことだけれど」
でも、お姉様のことはすべて頭の中のメモリーに入っている。
お姉様の声も匂いももちろんお顔も、絶対に忘れることはないから大丈夫。
会えなくても、人を喰う妖獣なんかに嫁がされたお姉様の絶望した顔をありありと想像できるから寂しくはない。
「本当は会いたいけれど、むやみに妖獣に近寄ることは禁じられているから…歯痒いけれど」
会いたいなぁ、大好きなお姉様。
綺麗な心、私が初めて気持ち悪いと思わなかった人。
会いたいなぁ。




