あれがいなくなってから
私は男爵家の長男として生まれた。
我が男爵家の治める領地はすごく小さいが特殊なところで、それ故に領地は少なく爵位も低いのに我が男爵家は王家とも繋がりを持つ。
そしてその領地は小さな村一つ。だがその村はこの国を支える根幹とも言える、美しき妖獣を飼う村だ。
この国の農業も漁業も支える村。金鉱も枯れることがない。何も知らない相手からはやっかみを受けるほど恵まれている。
何もせずとも恵まれた環境でそれでもストレスが溜まるのは、村を必要以上に発展させることを禁じられていることと妖獣に与える餌を買わなければいけないこと。
「だが、それも必要経費だからな」
我が男爵家は妖獣のおかげでかなり潤っているので、文句を言うのも違うだろう。
実際、お金は有り余っているので贅沢三昧ではある。
そして最近、光栄なことが起こった。
要らない子だった娘が、神によって妖獣の妻に選ばれたのだ。
国のトップ層は妖獣の存在を知っている。そしてその妖獣の妻に娘を与えた私はより名声を得た。
「要らない子だったが、役に立ったな」
あの娘…リーシュは、前妻との子だ。
私は若き日に愛する人…グラツィアと運命の出会いを果たし恋に落ちたが、前妻との婚約があり結ばれることが出来なかった。
しかし私は諦めなかった。
前妻との間にリーシュを作り、役目を果たしてからグラツィアの元へ行った。
前妻には悪いことをしたが、元々彼女がいなければよかっただけなので後悔はしていない。
「その後、運良く早くに死んでくれたからグラツィアを男爵家に迎え入れられた」
グラツィアは優しく可憐で、愛らしく淑やかな女性だ。
私は彼女を抱きしめている時が一番癒される。
グラツィアとの間に生まれた娘、ブルローネもまた可愛らしい。
ちょっと悪戯好きで、無邪気で愛らしく誰からも愛される女の子だ。
完成された完璧な家族。やはり前妻とその娘ばかりが異物だったのだ。
「だが、最後には役に立ってくれた」
妖獣の妻として嫁いで行った娘に初めて感謝する。
娘の婿になるはずだった男は、ブルローネの婿になることも決まっている。
彼は元々我が家に婿入りする予定だったので、問題なく婚約を結び直せた。
あれがいなくなってから何もかもが上手くいっている。
幸せを噛みしめつつワインを飲む。どうかこの幸せが続きますように。
「…そういえば、妖獣の妻となったあれは今頃どうしているだろうか」
恐怖に怯え泣き暮らしているのだろうか。
私たち家族の邪魔をした存在なのだから、ざまぁみろと思ってしまうのもご愛嬌だろう。




