表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

せんせい語録  第X話「最終話 ふたり語録」後編

作者: なぎさん

超短編、恋愛シリーズです。

教師に微妙な不信感を持つオレっ子女子高生と、彼女を少しずつ変えて行く、奇妙なことわざと格言を連発するイケメン新任教師の、恋のお話です。

せんせい語録 第X話「最終回 ふたり語録」後編



 ―1年後 3月12日 15:00


 私の名前は澄川真琴、美大の1年生。もうすぐ2年。


今日は、久しぶりにユキジと会って、「ちょっぴり・ピンキー」のトルネード・パフェを待っている。まぁ、この店ではこれ外せない。


セットドリンクも甘め。コーヒー苦くてあまり飲めない。



あの日、から1年か…。


あの3日後には入試の発表があって、高校に進路決定届とやらを出さねばならん日だった。


大学は、合格してた。


恋には落第したのにね。


とても行ける心境じゃなくて、頼み込んでママに行ってもらった。


ママは意外にもあっさり引き受けてくれたけど。



聞いた話じゃ、ママが「娘に伝えることはありますか?」って聞いたら、五呂久は、暫く黙り込んで。


「大学で色々なものを見てきてください」と言ったんだとか。


ありきたりな、激励のセリフ。

ママも、何故わざわざそんな話を私に伝えたのかと未だに思う。


「案の定、今日は暗いねマコ。」


「何だよ。んなことないよ。」


「うそつけこの。」


「…」



「…今まで、大学で何人振った?」


「…大学生ってさ、彼女居ないとダメとか決まりあんの?なんかもう、引いちゃうよもう。」


「…あんたの場合、忘れられないだけだよね?乙女。」


「その話、もう良いよ。大体、忘れられないとかじゃないし―。あ、ごめちょっと、お手洗い…」


私は話をそらすように席を立つ。

ユキジのため息が聞こえてくる。なんだよぉ。


――――――――――


 ユキジは、テーブル毎にセットされたTVの画面を何気なく眺める。


あぁ、卒業式だもんね…。


卒業生を送り出したと思われる、人の良さそうな中年男性教諭がインタビューを受けている。



1年前かー。


<卒業おめでとうございます!先生も肩の荷が下りた感じですか!?>


荷とか言われてますね。


<いや~ありがとうございます。苦労しましたから!でも、まだまだ気は張ります!>


ほお。なんで。


<連中、分かってないんですが!3月31日までは高校生の在籍なんですよね!すぐ、羽目を外す馬鹿が居るんですが!>


ふーん、しょーなんですか。


<先生方も気苦労絶えませんね!>


<ええ。それでも、「せんせい有難う」って言われると、オレはコイツの教師として頑張って来れたかなって。先生で良かったって思えるんですよ。>


<先生の愛の感じられる談話ですね>



………え…?


1年前、入念に計画して告白したのは…3月12日だ。


マコは何て言って告ったんだっけ!?


たしか、「せんせい、オレを彼女にして下さい」だ。


先生…せんせい…。先生で良かった…



マコから聞いてる五呂久の言葉は_?


「例え、後悔するくらい素敵な娘でも 例え、心惹かれていても」


聞いた時からずっと思ってた。俺も好きだって言ってるようなもんだよね!?



「色々な世界を、見て来て下さい」


来てください? 来る? どこへ!?



―― 戻って来てほしい?? ――


マコのママ、気づいていた!? この意味に!?


ゴロク先生のマコママへの言葉は、ありきたりな意味じゃないんだ!?



「…俺は、生徒を愛するわけにはいかない」



紫色になるくらい血の気の引いた唇で


とっくに座席に戻っていたマコの呼びかけにも答えられず。


ユキジは、座席を急に立ち上がり、バッグを抱えて、マコの腕を強引に掴んで会計へ向かった。



「ちょっ!?なに!なんなんユキジ!?」


マコはユキジが泣いているのに気付いた。


「ゴメンね!マコ、ゴメンね! わたし達、大失敗してたんじゃないかなぁ!?」


「行こう、今なら出てくる時間わかるじゃん!! 行こう!1年越しのアンタの恋を、今度こそ叶えるよ!」


「何を言って…!?」


「説明は車の中でするから!信じて!お願いだから信じてよ!」


今年、取り立ての免許に、購入したての黄色い小さな丸い車。

ユキジの車は、かなり際どい運転で走り出した。


――――――――――


 3月12日、 17:30


 粉雪だ。でも、あの日よりは寒くない。


あの時の傘、そういえばどうなったんだろう。


準備は良い方なんだよ。ほら、また傘は持ってきた。


だから、五呂久が出て来るまで、少しは冷静に待てた…理由になってないけど。



扉から、礼服にコートを羽織った五呂久が出て来る。


「…マコ??」


五呂久は驚いた顔をして、それから少し寂しそうな顔をして。

「髪を伸ばしたのか…綺麗に…なったな。」そう言った。


ほんの少しはメイクしてるんだよ…。今では…。


私は、1年前と同じように、五呂久の前に立った。



「…1年経ちました。」


「色々なもの、見てきました。楽しいよ大学。魅力的な人間も、新しい世界も見てきました。」


「でも…でも、今でも、1年前に見てた景色より素敵なものが見つからない!」


「五呂久と一緒に居た時より素敵なものなんて何処にも無かった!」



「ごろくん…」


「私は、今でも、貴方が好きです…。」



五呂久は、目を瞑って、静かに私の方に手を伸ばす。


頭の方に。


ああ、1年前と同じなんだな。


急がなきゃ。急いで心を凍らせなきゃ。


今度こそ、心壊れちゃう前に。



恋が本当に終わる前に。



五呂久の手は、私の頭の後ろの方へ来て、後ろ髪を撫でて、そのまま肩に触れて。


私は、少しだけ、前に引き寄せられる。


ほとんど、立っているのがやっとの、バランス感覚も狂っている私は、簡単に前へ倒れ込む。


コートと礼服の、硬い生地の胸元へ。



息をのむ。何が起きたのかよくわからない。


抱きしめ…られてる…いつかみたいに…いや、ハッキリと両手で、きつく。


五呂久は、私を落ち着かせるみたいに、静かにささやく。



「もう、会えないと思っていた…。お前をずっと好きだった…。」


「でも。俺は教師としても全力でお前を愛していたから…お前に<先生>と呼ばれたとき、一人の男として我を通すわけに行かなかった…まだ、恋に恋しているかも知れないお前を、都合いいように愛するなんて…出来なかった…。」


「後からこの想いを伝えたくても、その時にはお前は居ないのに。分かってたのに。馬鹿な話だ…。」


「許してくれるか?マコ? 辛い思いをさせた俺を許してくれるか?」


「もし許してくれるなら…。」



「俺と一緒に居てほしい… お前が 好きだ マコ」


ずっと見たかった、五呂久の顔を見上げる。


やべ、涙で顔ぐしゃぐしゃだよ。


多分傘はまた下に落としちゃってるんだろう。

今、両手に掴んでいるのは、この人の胸元の生地だもの。



優しく、五呂久の右手の指が私の顎にふれる。


あ、これ アゴクイって奴じゃね?

第27話で北条サマが、ヒロインの鹿鹿奈のあ…

……………



突然、駐車場の扉が開く音。


慌てて、オレはゴロクの胸から離れる。



「ウチの大切な部長、泣かすなと言ったはずだが…?」


「光悦先輩…。」



大柄な美術部顧問、鷹栖光悦先生が、オレ達の横を通り過ぎる。


五呂久の横を通るときに、


「…嬉し涙なら。許してやる。」

そう言った。


「…はい。」


五呂久はオレを見つめながら言う。



「ああ、それから大事なところ忠告だが、そろそろ先生方ゾロゾロ出て来るぞ。餌食になりたくなかったら、続きは車でやれ。」


…続きってなんだよ! 見てたなこのやろー!?


オレは泣き笑いしながら、ゴロクの車に乗った。


ずっーと、手を繋いでた。 ずっと話したかったこと、たくさん、たくさんのこと話した。 



その後のことは、ヒミツ…。


――――――――――


・・・・・ エピローグ ・・・・・



 ユキジ~、今日の五呂久語録、聞きたい?


…良いから聞けよ。ノロケさせろよ。


「愛ってのはな!」って言うんだよ。


「愛ってのはな!心の下に久しいって書くんだ!永久の久だ。」


…待って、切らないでオネガイ。



んで、ちょっとドキドキ来たけど、気づいたんだよ…


「久」じゃなくね!? 飛び出し足りなくね!?って!


2人で爆笑して帰ってきたの。


…んでね? 今度二人で…旅…



…切んなや馬鹿~!!


ちぇ。もっとノロケたかったのに。



「互いに一年離れても消えなかった恋を、認めない訳にもいかないでしょ?」


ママも公認だもん、遠慮なく振り回すからね。覚悟して、ごろくん。



大丈夫、誰かに伝えて。飛ばしすぎって心配しないで。


だって私たちは、2年前からずっと恋をしてたんだから。



毎日、胸の中のノートが、ごろくんの言葉で埋まって行く。



もう、私のせんせいじゃない、彼の語録で埋めて行く。




 私達ふたりの、先を彩って埋めて行く。




                  せんせい語録 (happy)end.



お読みいただいた方、ありがとうございました。

もしどなたかでも、マコ良かったねと思ってくれたら、幸せかなって思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ