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勇者ヤマダ、トレントとたたかう

~前回のあらすじ~

スライムの種族特性により、攻撃が全く通用しなかった勇者ヤマダは、気まずさに耐えきれず用を足す、というのを理由に森へ一人逃げてしまった。


「はぁ……マジで何なんだ。全然勇者のイメージと違うんだが」


「もっとさ、仲間を引っ張ってばしばし魔物を倒していくもんじゃないのかよ。一番最初のスライムにも負けるとか何なんだよマジで。俺ってそんなに弱いのか……」

「それは違いますよ」


独り言をぶつぶつ呟いていた明らかにアブナイ人の様相を呈する勇者ヤマダは、突然響いてきた声に驚いた。まさか、こんな恥ずかしい独り言を誰かに聞かれていたとは。


「だ、誰だ!」

「あなたは十分よくやっていますよ。とても大変な毎日を過ごしているのに、皆の期待が大きすぎるのです。大丈夫、あなたは弱くなんてありません」

「いや質問に答えろよ!」

「あなたは何より素晴らしい存在です。それは誇るべきことです。あなたは何も間違っていないんですよ。間違っているのはほかの人たちです」

「だから誰だよ!!どこに居るんだよ!!」

「しょうがないですね……わたしは、あなたの目の前に居ますよ」

「誰だって聞いてんだよ!」

「今言ったけど?あなたの目の前って言ったけど?」

「質問に答えろ!怪しい奴め!」

「いやお前……あなたのほうが怪しい奴ですけど?!」

「俺の目の前には何もないじゃないか!この嘘つきめ!」


勇者ヤマダはかっとしやすく、自尊心が強く、人の話を聞かないタイプでした。一度話しかけたら何か他のことを言わないかもう一度話しかけたり、民家に押し入って他人の壺を割ったりするタイプの勇者でした。

……謎の声もそろそろ勇者ヤマダの異変に気付いたようだ。


「さっきの独り言だけならまだ真っ当な奴だったのに……」

「この嘘つきが!嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ!泥棒!!」

「話が三段跳びしてるんですけど。誰が泥棒だよ」

「もう一度だけ聞く、泥棒。お前は誰だ!姿を現せ!」

「だから!!!お前の!!!目の前に!!!いるんだよ分からず屋が!!!」


ついに敬語を諦めた謎の声は、いら立ちを隠さずに答えた。その声が大きくなるほど、森の葉が揺れる。数枚、勇者ヤマダの近くの木の葉がはらりと落ちた。


「ええい、もうしょうがないですね……わたしはここです!」


声の主は、そう言うと勢いよく身体を動かした。

動いたのは、勇者の目の前に佇む森の大木だった。


「なっ!木が動いただとっ!……キモッ」

「誰がキモイんじゃゴラぁあ゛?!」


ついに我慢ならずキレた声……大木の魔物、トレントは、ちょうど怒った人間が血管を浮き出させるように、木の幹にひびを入れた。バケモノのような体躯を怒って揺らして、そのたびにばさばさと木の葉を身体から落とす。


「もう我慢ならねえ!お前、勇者とか言ってたな?!聞こえてたぞ!!マジで許さねえから!!」

「語彙力がむらびとレベルなんだけど。さっきのはなんだったんだ」


その一言が引き金になったのか、トレントは巨大な幹から2つ腕のように生えたこれまた太い枝の一つを勢いよく振る。その行先は、間違いなく勇者ヤマダのほうだった。


「くっ……!」


勇者は咄嗟に聖剣を鞘のまま構え、その攻撃を防ごうと身体の前に構える……

そして、吹っ飛ばされた。


「ぐはっっ!!」

「え?弱すぎじゃ……アレ?お前本当に勇者だよな?魔王様に楯突くあの勇者……だよな?」

「……そ、そうだよ!正真正銘、俺は勇者ヤマダだ!」


展開にデジャヴを覚える勇者ヤマダ。なんだかごく最近、吹き飛ばされた記憶が……

勇者ヤマダの答えに、トレントは少し申し訳なさそうに呟いた。


「あ……ごめん、そんなに防御力低いと思わなくて、結構本気でやっちゃった……なんか、ごめん」

「ぐはっっ!!」


先ほどとは違う理由でダメージを受ける勇者ヤマダ。なんというか、さっきの物理攻撃よりも威力が高い気がした。


「勇者様?!」


そこへ、ナイスタイミングで精霊騎士タナカが現れる。あまりにも勇者ヤマダが遅いので、見に来たのだろう。勇者の直線状にトレントを発見した精霊騎士タナカは、険しい顔立ちになり銀縁を指で押し上げる。


「トレント……勇者様、まさか一人でお戦いに?!」

「えっ?!……あ、ああ」

「くそっ、勇者様が一人でいるところを狙うなんぞ卑怯な魔物め!私直々に引導を渡してやろう」

「えっ?えっ?いや、誰?」


突然の乱入者に呆然とするトレントに向かって、精霊騎士タナカは呪文を唱えた。


「風の精霊王よ、我に力を与えん!風の精霊術・第三元素、発動っ!」


その瞬間、精霊騎士タナカが掲げた手に緑色の光が集まり、輝きを増し、鋭い緑の光がトレントを貫いた。


「グガアァァァァァッーー!!!」

「さっきまで人語喋ってたのに断末魔魔物過ぎね?」


トレントは翠色をした風の刃に幾重にも貫かれ、バラバラの薪のようになって消えた。もともと大木トレントが位置していた場所には、ぽっかりと空いた巨大な空間と、土色の魔法石が残されていた。


「……ふう。ご無事ですか、勇者様!」

「おい、勇者!あんまり長いと思ってタナカを向かわせて正解だったな。……当分、俺たちのまとまりから離れないでくれると助かる」

「ちょっと勇者?!まさか身の丈に合わない相手に戦闘仕掛けたわけ?!」

「勇者様!だ、だいじょうぶですか……?治癒、しますね……」


重戦士コイケの労わるような一言、いわれのない疑問を投げかける攻撃魔術師サトウ、勇者ヤマダの怪我を見て素早く治癒魔術を行使するハヤシ。勇者ヤマダは、気遣いと恥ずかしさに涙が出そうになった。すべては魔王を倒すため。人々に平和を取り戻すため。勇者ヤマダとその一行は今日も戦う。頑張れ、勇者ヤマダ!その身に宿した勇者の証を輝かせ、今、戦うのだ!

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