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勇者ヤマダ、スライムとたたかう

勇者ヤマダは激怒した。

かの暴虐を尽くす魔王に蹂躙される隣村を見て、正義感に打ち震えた。

勇者ヤマダには政治がわからぬ。しかし、王様や国民がひどく困っているのはわかった。勇者ヤマダは、しかし人一倍邪悪には敏感だったのだ。

勇者ヤマダは、元々平民であったが、魔王侵攻が始まった途端、鎖骨の間に勇者の証である紅獅子の紋様が現れた。ヤマダは、王様じきじきに勇者の名誉が与えられた。

勇者ヤマダは、王が揃えた四人の仲間とともに、国民に見送られついに出立した。

全ては魔王を倒すため—————。


そして、勇者ヤマダの目の前には、スライムがいた。あのスライムだ。歴代勇者が一番最初に出逢うという、水色のスライムだ。楕円の身体に一本の角のようなものが生えた、あのスライムだ。

正式名称はブルースライムと言って、魔物の中では一番虚弱な生き物らしい。勇者ヤマダは奮起した。早速、俺がこの魔物を討伐してやろう、と。


「うおおおお、覚悟っ!」

「あ、おい勇者!ちょっと待て……」


何か言おうとした重戦士コイケの制止も空しく、勇者ヤマダは唯一王様から取り上げられなかった勇者の聖剣で、ブルースライムに切りかかった。


「え?」


そして、間抜けな声を出して、勢いよくスライムにはじき返された。

ぼよんっ!と、弾力のある水色スライムの身体には勇者の剣は通らず、そのまま力を跳ね返されたのだ。勇者は、一歩下がって見ていた一行のほうまで弾かれた。ブルースライムは、ぷるぷるとした身体を震わせて、哀れな勇者を嘲笑するようにも見える。


「だから待てって言ったのに……」

「……ちょ、ちょっと待てよ!ブルースライムは歴代勇者が最初に出逢う一番弱い魔物じゃなかったのか?!」


はあ、と溜息をつく重戦士コイケと、苦笑いするその他三人。そんな重戦士コイケに、しりもちをついたままの勇者ヤマダは必死に問いかけた。


「一番弱いのは確かだ。ブルースライムは、水属性攻撃に強く火属性攻撃に弱い。……おい、サトウ。ちょっとやってくれ」

「仕方ないわね……。あたし、魔力消費するからこんなところで魔法使いたくないんだけど」


攻撃魔術師サトウは、やれやれと偉そうに了承してから、スライムに向かって杖を構える。一度深呼吸をした後、かっと深紅の目を見開き、杖に魔力を込める。


「ファイアーボール!」


杖の先から、サトウの魔力によってスライムと同じくらいの大きさの火球が打ち出される。急いで逃げようとするスライムだったが、球の方が早く、攻撃はスライムに直撃した。


「ピギャアアアアーッ!!!」

「断末魔グロッ!」


勇者ヤマダのグロ耐性のなさが露見したのと同時に、スライムは跡形もなく蒸発していた。オーバーキルである。スライムがいたその場所には、小さな青色の魔法石が遺品のように残されていた。得意そうに笑みを浮かべる攻撃魔術師サトウ。


「ね?」

「ね?じゃ無い!え?!俺の斬撃は通らなかったのに、なんで初級魔術で……」

「言ったろ、ブルースライムは火属性に弱い虚弱な魔物だ。でも、同時に斬撃には強い魔物でもある。ちょっとやそっとの物理攻撃じゃ歯が立たないが、初球火属性魔術で事足りる。歴戦の勇者なら剣の腕前でそれもカバーできるんだが……うん。ヤマダはレベル1だし、仕方ねえんだよ、うん」

「仕方ないですよ……まだまだ勇者様は発展途上ですし」

「まあ、あたしの魔法が強すぎるってこともあるしね」

「ど、どうか……気に病まないでください、勇者様っ!」


重戦士コイケの解説の後、精霊騎士タナカ、攻撃魔術師サトウ、治癒魔術師ハヤシの順でフォローが入る。そのうちの一人のフォローはフォローになっているとはいえなかったのは、誰も指摘しなかった。

しばらくの気まずい沈黙の後、いたたまれなくなった勇者は、「ちょっと用を足してくる……」と言って、近くの森の陰に入っていった。誰も、勇者の顔を見ることは出来なかった。

すべては魔王を倒すため。人々に平和を取り戻すため。勇者ヤマダとその一行は今日も戦う。頑張れ、勇者ヤマダ!その身に宿した勇者の証を輝かせ、今、戦うのだ!

一部、「走れメロス」に酷似した部分がありましたが、無関係です……たぶん。

by.筆者

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