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皐月の頃に

作者: 武田道子
掲載日:2023/06/07

皐月の頃に




若葉が萌える

私はその中へ

吸い込まれていく

五月



母は五月に生まれ、十一月に死んだ

五月、何もかもが生き生きと萌える季節(とき)

十一月、何もかもきっぱりと捨てて地に帰る季節(とき)



私はその母から命をもらった

二月の雪の深く降り積もる岐阜で

春の足音に耳をそばだて

小川のせせらぎを深い雪の下に感じて



槍ヶ岳、駒ヶ岳

父が登った山

群青色が描く峰の上の

すっきりと広がる青い空

さわさわと揺れる雑木林

山の上の家

いらかの波はなかったし

鯉のぼりも泳がなかった



青い山脈の上に広がる大海を

白い魚や動物が気持ちよさそうに泳いで

近くの野辺では

ちょうちょうが花びらのように緑の風に揺れ

トンボの透明な羽を虹色に変える魔法のような光は

揺れ動く波のような原っぱに拡散していた



熱い思い出

新緑が目に染み入る

新緑の香りを胸いっぱいに吸い込む

熱い思いが心にひたひたと溢れる

皐月の頃思い出は

新緑のように蘇る


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