まじないえんぴつ
学校には往々にして七不思議が存在する。
ひとりでに鳴るピアノや徘徊する人体模型などが有名だが、「まじないえんぴつ」を知っているだろうか。
そのえんぴつで相合傘を書くと意中の人と結ばれるという、恋する生徒を全力応援するかのようなアイテムだ。真偽は定かではないが、過去にこれがきっかけで交際し、その後結婚したカップルもいるという。
「櫂くんが付き合ってるって!?」
「誰よその羨ましすぎる女子!」
昼休み。噂好きの女子達の会話に辺りは騒然となった。
櫂くんは容姿端麗、頭脳明晰。明るくて性格も良いという校内一のイケメンだ。告白された回数は数知れず。だが一度もOKしたことがないと有名だった。
そんな彼を射止めたのは誰か。
聞き耳を立てていると、一人の女子が浮上した。
「えーっ、なんで高橋さん?」
「暗いじゃんあの子」
「そういえば私前見たよ。あの子のノートに相合傘書いてあったの」
「それってまさか」
「まじないえんぴつ?」
素知らぬ顔で聞いていた私は、内心穏やかではいられなかった。
つい先日、私も櫂くんに告白したのだ。
長年の片思いだった。だが結果は惨敗。成績は常にトップでテニス部主将、周りからも頼られる私は、言っちゃなんだがいつも一人で本ばかり読み、会話にも参加してこない高橋さんよりよっぽど相応しいのに。
不意に騒がしくなり振り向くと話題の二人が歩いていた。寄り添って時おり顔を見合わせ笑いあう。
櫂くんのあんな幸せそうな顔初めて見た。どうして私じゃないんだろう?
唇を噛み締める。血の味がいつまでも消えなかった。
翌日、ペンケースに見慣れないものが入っていた。
それは真っ黒なえんぴつで、白文字で「呪いえんぴつ」と小さく書かれていた。
「ウソ……」
きっとまじないえんぴつに違いない。私はえんぴつを引っ掴むと、早速ノートに相合傘と櫂くんと自分の名前を書き込んだ。
これで彼は私の──
逸る気持ちを抑えられず笑みが浮かぶ。その興奮で手元が狂ったか、えんぴつが手から滑り落ちた。
転がるえんぴつ。やがて止まるとむくりと起き上がった。尖った芯が私に狙いを定め、先端が鈍く光る。まさか。
「ちょ、やめっ」
ググッとしなったそれが勢いよく飛び出した。
「キャァァァ!!」
キーンコーンカーンコーン
我に返るとえんぴつは消えていた。
目も見える。体に異常はない。胸を撫で下ろしたのも束の間、私はノートを見て背筋が凍った。
相合傘の私の名前が、真っ黒に塗り潰されていた。
『呪いえんぴつ』は果たして「まじない」だったのか「のろい」だったのか。
ちなみに高橋さんは例のえんぴつは使っていません。両片思いでしたが櫂くんから告白しました。