さがしもの
僕のねこが、いなくなった。
「ミケー」
おうちの庭も、おばあちゃんちの庭も、学校に行くいつもの道も、ミケを拾った公園も、全部行ってみたけど全然見つからない。
「ミケー、どこー?」
お母さんはそのうち帰ってくるって言うけど、もしも迷子になっていたらどうしよう。他のねこにいじめられていたらどうしよう。
「ミケー……」
途方に暮れて公園のベンチに座っていると、ひとつ隣のベンチにのっぽの男の人が座った。
大きなカバンから新聞と、メモ帳みたいなのと、ペン、それにサイズがばらばらなたくさんの紙を取り出して、交互ににらめっこしては何か考えている。
今は秋になったばかりだけど、もう長袖のセーターを着てブーツを履いて、おまけにマフラーも巻いて、なんだか暑そうだ。すごく寒がりなのかな……と考えているその間にも、男の人は更に紙を取り出したり、しまったり、忙しそうだった。
「こんにちは」
あんまり僕が見ているからか、男の人がこっちに気がついて挨拶をしてきた。
「あ、こ、こんにちは……」
見ちゃ、だめだったかな。慌てて視線を逸らして、そのままミケ探しの続きをすることにした。茂みの中、木の上、ぞうさんの形のアスレチックの中。本当に、ミケはどこにいってしまったんだろう。僕はミケがいるほうが、夜、よく眠れるのにな。
「何か探してるの?」
振り返って見上げると、さっきの男の人だった。
いつの間にか持ち物はまた全部カバンにしまわれていて、代わりにさっきは着ていなかったコートを肩にかけていた。おかしなくらいたくさん、ポケットがついているコートだった。
「あ、えっと……ねこが、いなくなっちゃって」
「君の猫?どんな猫?」
「三毛の柄のねこ。だから名前はミケ」
「そっか……いつからいないの?」
男の人はその他にもミケの大きさとか、性別とか、いろいろなことを聞いてきて、最後にこう言った。
「うん、うん……なるほど。わかった。僕が見つけてあげるよ。僕ね、探偵なんだ」
「そうなの?ほんとに?ほんとに見つけてくれる?」
「本当。3日後の金曜日、今と同じ時間にここへおいで」
本当に見つけてくれるのか心配だけど、もう他にどこを探していいかわからなかったから、僕はそのままお願いして家に帰った。
3日間はとても長くて、毎日あんまり眠れなかった。本当に見つけてくれるのかな。やっぱり無理だった、って言われたらどうしよう。次はどこをどうやって探したらいいのかな……
そうしてやってきた金曜日、恐る恐る公園へ行くと同じベンチにあの男の人がいた。本当にミケを抱えて。
「ミケ!」
思わず駆け寄ると、ミケは僕を見てにゃーん、と鳴いた。男の人の腕の中で、何事も無かったようにくつろいでいる。
「ミケ……よかったぁ」
思わず涙が出た。本当によかった。このままずっと見つからなかったらどうしようかと思った。
「よかったね」
男の人はにっこり笑って、こう続けた。
「もう君を心配させないようにね、勝手にいなくなったらダメだよって言っておいたんだ。だからきっとこれからは大丈夫」
「え?ミケとしゃべれるの?」
返事の代わりに「ないしょ」のポーズをして、男の人はミケを僕に差し出した。
「そしたら、申し訳ないんだけどお代をもらってもいいかな」
「あ、うん」
ミケを落とさないように気をつけながら、慎重にポケットからそれを取り出して男の人に渡した。
「これが君の宝物、か」
小さな地球儀。おじいちゃんがまだ生きていたころ、僕はおじいちゃんの膝の上でこの地球儀を眺めながらいろんな国の話を聞いたんだ。だからとっても大切な、僕の宝物。だけどミケといたいから、しかたない。
「うん……いいね。たくさん、想いが詰まってる……」
男の人は目を細めながら何やら呟いて、そっとコートのポケットにしまった。
「ありがとう。大切なものを、ごめんね」
ううん、と首を振ると、男の人は嬉しそうな寂しそうな不思議な表情で静かに言った。
「僕も探し物を……人をね、探してるんだ。みんなの宝物を分けてもらったら、その人を見つける手がかりになるから」
「誰を探してるの?」
「僕のお嫁さん……だった人。生まれる前にね」
「生まれる前なのにおよめさんがいたの?」
「そう。だからこの世界で、また探してる」
「会えそう?」
「わからない」
「会えなかったら、どうするの」
「どうもしないよ。会えるまで探すだけ」
それってどれくらいかかるのかなぁ、って考えても全然想像がつかなかったけど、ミケにまた会えた僕はきっとすごく幸運なんだな、と思った。
「会えるといいね」
「ありがとう。そう言ってもらえると、とても嬉しい」
「僕、ミケが見つかってすごく嬉しいから。本当にありがとう!」
どういたしまして、と男の人は僕の頭を撫でた。ごつごつした手は、びっくりするくらい暖かかった。
「帰ろ、ミケ」
今日はきっと、たくさん眠れる。夜ごはんを食べたらほかほかのお風呂に入って、ミケと一緒にたくさん眠ろう。ミケがいなかった時の分まで。お母さんに怒られるくらい、たくさん、たくさん。




