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姑ですもの!  作者: K
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あちらでもこちらでも

 歩き方に気をつけてください。ミリヤに言われたのを思い出してなるべくゆっくり歩いていく。何度かつまずきそうになってオランジュが心配そうにみてきた。

 申し訳ないがともかく早く席につきたいのにつけないもどかしさで応接室の窓ガラスという窓ガラスを割りたくなる。

 ここの窓を覆っているカーテン一枚で一冬家族が暮らせるとペッシュが言っていたがなんとも贅沢な部屋だ。晩餐会用の部屋はさらに豪華で、滅多に使われないのにもったないと望実は感じてしまう。

 リヤンの王族は別邸をもたず、引っ越しもしないので修繕の度にその代の王の趣味が取り入れられ、現在の形になったと本には書かれている。

 また扉が作られ全世界の代表が四年に一度必ず来るようになってからもてなすためにも技術と資金を注ぎ込んだ部屋になったとか。窓ガラスを拭き続ける担当がいるぐらい大変なのだ。迷惑極まりない。

 伯爵が入ってくるまでオランジュと隣同士で座る。いつかは彼の王妃がここに座るんだろうと思うと顔がにやけそうになる。コルセットも萌には勝てないのだ。


「バーナン伯爵と伯爵令嬢が到着されました」


 望実とオランジュは立ち上がる。今回の主催者は望実なので、扉の前にいる護衛に片手をあげて押すようなジェスチャーをする。それをみた護衛が頭を下げ二人同時に扉を開ける。

 いつもながら人の良さそうな顔をした伯爵と、つんとした以前よりずっと元気そうに見える令嬢が入ってきた。二人は望実の前で最上の礼をし、オランジュの前でも同じようにする。王家の返礼でもって二人が返したところでグルナードの声で席につく。


「ご令嬢はすっかり元気になったようで安心いたしました」

「妃殿下のおかげでずいぶんと跡も薄くなくなりこのように人前に出ることができるようになりました。感謝しかありません」


 娘のために人をさらって働かせていたぐらいだ。よほど可愛いのだろう。ペッシュの方が十倍は可愛いので伯爵とは話が平行線になりそうだが。


「オランジュ殿下。妃殿下からお話はうかがっております。聡明で快活でいらっしゃると。五才とうかがっておりましたが、そのようには見えませんわ。お美しく、この国の太陽でいらっしゃる」

「そうか? 大人にみえるか?」

「はい」


 分かりやすい媚売りにげそっと望実はしそうになる。このまま二人したらオランジュがさらわれそうな勢いだ。望実への塩対応はどこにいったのだ。聞いていないようで聞いていたらしい。


「そなたもははうえのおかげで私と同じ病にかかったがなおったときいた。ははうえはすごいのだ」

「……そうですわね」


 媚売り失敗で心の中で舌打ちでもしているのだろうか。それにしてもオランジュは可愛いったらありゃしない、この場ですりすりしたら化粧がついてしまうと望実が拳を振るわせているとトントンとグルナードがテーブルを叩く。暴走するなと言うかのようなその音に望実はさっと手を机の下にいれた。


「お二人の仲睦まじさは本当の親子のようですな」

「そうなのだ。わたしはそう思っている」

「私もです」


 二人で笑顔を向けるとグルナードが「殿下、夕時までしばしお待ちください」と言う。これからは大人の話し合いだ。


「あら、では殿下。私に庭を見せていただけるかしら」


 振り返るオランジュに望実は言ってもいいと頷く。


「うむ、ただミラベルとミネオラが来るので一緒ではダメだろうか?」

「ティエラ家の方々もいらっしゃるのですか? ではご一緒に待たせてくださいませ」

「わかった。そうしよう」


 重々しい話し方を習っているのだとオランジュは言っていたが小さい子供が背伸びをしている感じがあってなんともかわいい。彼女と二人は心配だがミラベルがいるなら何とかしてくれるだろう。


「伯爵、人払いをしてあるので形式ばった挨拶は飛ばすわ。鉱山はどうなっているの?」

「はい。少し前にお伝えしましたが、屈強な最前線で働いていた男達は一人もいなくなっておりました。元締めの男も姿をくらませています」

「子供たちで何か聞いていた子はいないの? どこへいったか見ていたり」


 伯爵は言葉を飲み込むようにして喉をならすとグルナードをちらりとみた。グルナードが望実の顔をみて頷くと伯爵は話を再開させる。


「どうしたの? 彼らに何かあったの?」

「……鉱山で働いていた子供達は全員殺されていました」


 思わず息が止まる。確かに深くかかわったわけではない。かばってもくれなければ嫌がらせもされたが、話したことのある相手がこうも呆気なく死ぬなど望実の中では考えられない事だった。


「その他の食堂や掃除などで働いていた子供達はうちで引き取っております。神殿が落ち着かないかぎり預けるのも無理でしょうし、うちなら湾岸の警備隊になる道もあります」

「ありがとう伯爵。礼をいいます」

「いいえ、妃殿下のお心に添えず申し訳ない」

「伯爵。警備隊にはなるべくせず、神殿に預けるようお願いいたします。なんでしたら大神殿に連れてくればいい話です。大司祭様は喜んで引き取ってくださるでしょう」


 しんみりした雰囲気を壊すように冷たい声音でグルナードが言う。


「グルナード、何もそこまで言わなくても」

「私兵を急に増やすことは認められておりません。もちろん一人二人ならば私も何も言いませんが、十人以上となると」


 頭が固いなとグルナードをみると睨まれる。非常に好戦的な態度に望実はムッとする。


「わかっております。もちろんグルナード興がおっしゃる通りにしますとも」

「大神殿に来たら彼らの故郷はどうなるの?」

「帰ることもできます。あくまで一時預かりです」


 きっぱりこの話は終わりというかのように言葉を切られる。

 今後の方針や議会で必ず賛成に入れてもらうことなど話し合い伯爵が出ていく。


「なんで急に話を遮ったの?」

「この話は妙です。鉱山から半分ほど人が減ったのは事実ですが、伯爵が私兵を増やそうとしているのなら非常に危険です」

「警備隊なら国のためにもなるじゃない」

「ええ、けれど伯爵は辺境の地にいる。監視の目は緩みます。その兵を公爵に送っているのだとしたら、戸籍もない子供達は私兵をこっそりふやすのにちょうどいいのではないでしょうか?」


 グルナードの言葉に唖然として望実は頷く。政治は難しい。伯爵のような猛者とやりあうにはまだまだ知識も威厳も足りない。


「グルナード、釘を刺してくれてありがとう」

「いいえ、これぐらい当然です」



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