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反省4:海賊領主殺っちゃいました

「町中に海賊旗がはためくというのは異様な光景に見えますね」

「慣れてないとそうでしょうね。……しかし、入ってすぐに領主様に呼び出されるとは思いませんでしたよ」

「……やはり、部下をやられた仕返しでしょうか?」

「いえいえ。先程もお伝えしましたが、彼らは海を追われた者。領主様の部下ではありませんから」


「それでも海賊であることは変わらないでしょう?」

「まあ、私は領主様ではありませんからね。真相はお会いしてみないことには」

 それもそうか。


「よっ、お前らが海賊を斬首したっていう娘共だな!」

 ……領主様らしいが、どう見ても船長の仮装をしている人にしか見えません。

「ん~? どうした? 町を見たのにまだ海賊が見慣れないか?」

「あっ、いえ……ただ領主様までそのような格好をされているとは余思わなかったので」


「若い頃はバリバリの現役海賊だったからな。まっ、その時分は領主見習いで海賊見習い。ぺーもペーペーだったもんでよ。自分の代になったら絶対にキャプテン風の服装をすると決めてたわけよ!」

「……それで? 私達をお呼びになられた理由を伺っても?」


「ガッハッハ、そう急くなよ」

「領内に入ってすぐに人を呼びつけたのですからそれぐらいは礼儀では?」

「ククク、さすがだな。ダイアナ・フォン・クインテット公爵令嬢殿? それとも今はただの聖女ダイアナとお呼びした方がいいかな?」


「「えっ、公爵!?」」


「……随分耳がお早いことで」

「辺境だからと侮ったか? だがな、辺境ほど変化には敏感なものさ。うちは特に情報には敏感なんだ。なんせ海賊だからな」

「あなたは海賊になりたかったと?」


「そうだな。なりたくなかったと言うのは嘘になる」

「それでこうして海賊ごっこを? 領民は迷惑千万ですね」

「フンッ、別にそうでもないだろ? 領民は領民で海賊の恐怖を感じることなく、新鮮な海産物を手に入れられる上にそれなりに贅沢な暮らしをしている。まさに海賊さまさまよ」


「そ、それよりもダイアナ様! 公爵令嬢というのは本当なんですか!?」

「いえ、嘘ですよ」

 きっぱりと否定する。


「だって私は元公爵令嬢ですから。ちょっとした事情で身分は返上しております」


「……俺が言うのもなんだが、公爵家に生まれた人間がそんな簡単に身分を捨てられるものかねぇ」

「捨てたわけでもありませんよ。王家の意思です。それに従うのはむしろ貴族としては当然のことかと思いますが?」

 あなたは違うんですか?


「俺には理解できんね。俺はこの暮らしを捨てたくない。それに海賊である自分も捨てなかった男だ」

「捨てなかった結果が今の状況ですか。私には何がしたいのか理解しかねます」


「理解は求めちゃいねえ。ただ、あんたには協力してもらいたいことがある」

「ようやく本題ですか」

 面倒な寄り道がなければもっと早く終わってた気がするんですけどね。


「あんた、王家が持ってた魔法道具を持ってんだろ? それは正しいものを選ぶとか」

 何が情報に敏感ですか。

 王家所有、言うなれば国宝の由来も知らない無知蒙昧が。


「だったらそれを使ってうちの跡取りを決めてくれや」


「実はな、俺は海賊時代に愛した女がいたわけよ。当然、見習いな上に本来は貴族だそんなことは許されないんだが、熱い情熱は止められなかった。若気の至りってやつだな」

「若気の至りというより……下半身に従ったというか、脳みそが下半身にあったと言うべきでは?」

 まったく、王太子といいその年頃の男は。こんな時ばかりはダイアナに同情するわ。


「辛辣だねぇ。……まあ、つまりは俺には二人の息子がいる」

「海賊時代の子供と貴族になってからの子供ですか」

 責任の取れない海賊時代の子供をそのまま貴族の子供として連れていくことはできなかったらしく、また世話になった海賊船に置いておくこともできない。将来的に貴族の身分で生まれた子供が見習いとして乗る船だからだ。


「先代の船長にちょいっとばかり伝手を探してもらって、比較的まともな海賊に預けたわけだが……自分のガキをそんな境遇にすることに納得ができなかった」

 せめて罪悪感を抱きなさい。


「俺は親父に事の経緯をすべて話し、ガキがいること。それも当主を引き継げる男だってことを伝えた。そのうえで条件を出した」

 条件というのが家の決めた相手と結婚をすること、ちゃんと子供を作ること。妻を蔑ろにしないことと前の女性のことを思い出させないことだった。


「……海賊時代に愛した相手も妻もどちらも早くに亡くなってしまったがな。俺は二人の女のためにそれ以上の女を囲うことはしなかった」

「それがあなたの誠実さだとでも?」

「どうだろうな。他に惚れる相手がいなかっただけかもしれんぞ?」


「話を戻すが、領主を継いで跡取りの息子が生まれた時、息子には自由に生きてほしいと思うようになったのさ。同時に海賊の方のガキは幸せなのかも考えた」

 それで居ても立ってもいられず、子供に会いに行った。


「心配した割にガキは立派に育ってやがった。立派な海賊にな」


 貴族になりたいかと聞いたら、そんなものになるつもりはないが海賊として目障りな海賊をこの海域から追い出し自分達の縄張りを広げると宣戦布告をされたらしい。


「ちょっとばかし予想外だったが、自由を謳歌してるみたいでそれでいいと思ったんだがな」

 ちょうど海賊見習いに出ることになっていた息子に話を聞かれてしまい、兄がいたことに驚いたのと自分の立場が脅かされる可能性があることに焦りを覚えたらしい。


「名目上は海賊退治だが、世間的には海賊同士の縄張り争いだ。あいつらの争いの余波でへっぽこ海賊は居場所を奪われてどんどん陸に上がる始末。まったく情けない」

「てっきり貴族のボンボンの方が負けてその海賊団が陸に上がったのかと思ったわ」

「ガッハッハ、代々海賊をやってるガキだぞ? そんなにひ弱なわけあるか。ただ、あまり他の海賊に迷惑をかけるとそのうち堅気にまで迷惑が及ぶもんで勝った方にすべてをやると伝えておいた」


「じゃあ、まだ争いは続いているんですか?」


「まっ、そういうこった。そこでその兄弟喧嘩の仲裁を頼みたい」

「……なんで私がそんなことを」

「聖女様だろ? それぐらいいいじゃないか。ちょっとだけその魔法道具を使ってくれればいいからさ! あんたが襲われたように他領を繋ぐ道にまでならず者が出始めてこのままじゃ王都のお偉いさんが動いちまう」

 簡単に言ってくれる。魔法道具は便利な道具じゃないっていうのに。


「わかりました。なら、一つだけ条件があります」

「おう! なんでも言ってくれ!」


「——海賊の跡取り争いをしているおバカな兄弟に告げます!!」


「なんだぁ!! 誰が馬鹿だ!!」

「——今だ!」

「ってこらあ、お前それでも貴族かっ!?」


 なんであんな馬鹿に煩わされるんだろう。

「って、そんな場合じゃないですね。——二人ともこれを見なさい!」


「——ん? ああ、ボンクラ親父じゃねえか」

「父上!? 何をなさっておいでですか!?」

「うるせぇやい!! 俺だって好きで簀巻きにされるわけじゃねえやい! おいっ、嬢ちゃんこれは一体どういうことだ!?」


「うるさいのはあなたです!」

「うげっ!?」

 なんでも協力するって言ったんですから黙って転がってなさい。


「あなた達が喧嘩をやめないというのならこの男の首と胴体が永遠にお別れすることになりますよ!」

「おいっ、どういうことだ!? 俺は仲裁を頼んだんだぞ!」


「仲裁をするとは言ってません。あなたは魔法道具で解決してくれと言ったのでそれをお手伝いしてあげます。……ただし、このギロチンの本来の使い方でね」


「あれはっ!?」

「……知ってるのか弟?」

「誰が弟だ!」


「あれは王都で話題になった国宝のギロチン。罪状を読み上げ、罪状が正しければ刃は断罪し間違っていたら命を奪わない魔法道具!」

「あら息子さんはよくご存知で」

 国宝なんだからそれぐらいの情報はありますよね。足元で父親は驚いているようですが。


「するってぇとあの嬢ちゃんの言うことは本当ってことか?」

「そうなる。ちなみに今そのギロチンの所有者は聖女と名高いダイアナ・フォン・クインテット公爵令嬢のはずだ」

 元ですよ~。


「……別にどうでもいいな」

「だな! むしろ父上が死ねば一気に領地を譲り受けられる」

「ダハハ、遺産は領地と自由か! こいつはいい!!」


「……人望ありませんね」

 私が何かしてもしなくてもたぶん変わらないです。

 だけど、このままだと面倒ですね。


「意味がないみたいなので、罪人を追加します」

「「はっ?」」

 ギロチンは念じれば即座に二人を拘束してくれた。


「ええっと下らない跡目争いで治安を悪化させたことを認めるなら助けてあげますよ。これ、ギロチンなので半端に止められないんですよ」

「ちょっと、待て! なんでこうなるんだ!」

「……う~ん、文句は父親に言ってください」

 大丈夫。死ぬときは父親も一緒ですから寂しくないですよ。


「わ、わかった。やめるやめるからそっちもやめろ!」

「そうだ。領主は今まで通り息子に継がせてやる! もう面倒なことはしねえし、子孫にも徹底させる!

 ふむふむ。素直でよろしい。


「だ~れが、そんなことに従うか!」

 と思ったら、最後の一人は強情ですね。


「嬢ちゃん、ちょっと姿が見えねえから声を張らせてもらうがな俺はそのなんちゃって親子と違って生まれも育ちも海賊よ! 海の男が欲しいもんを諦めるのは死ぬときって決まってらあ!」

「そうはいっても、あなたも兄弟喧嘩をしたわけでしょ?」

 それもかなり迷惑な。


「兄弟喧嘩!? こっちは海賊だ。海賊が海で暴れて何が悪い! 俺には部下を育てる責任があるんだよ!」

 なるほど。たしかに言い分はもっともだ。


「おいっ、馬鹿ガキ! 俺の命がかかってるんだ! さっさと謝らねえか!!」

「うっせえ! 初めて会った時も思ったがな、二十年以上も放置しといて父親面をしてんじゃねえ!! 俺の父親は先代の船長ただ一人だ!」

「そうだ! 船長はガキの頃から俺達の家族よ!」

「船長はな、貴族のガキだって命を狙われながらも海賊として立派にやってきたんだ! 今更しゃしゃり出てくんじゃねえよ!!」


 さすがは生粋の海賊。養殖の海賊ごっことは違うわ。

「ねえ、あっちの方が正しそうよ。あなたも海賊としての自由を望んだんなら海賊としていつでも命を奪われる危険と不自由を受け入れなさいな」

「受け入れられるか!」


「だったら、いっそのことあなた達が死んで彼にすべてを譲るとか?」

「は、話が違うだろ!」

「……なんの話よ」

 それこそ話が違うわ。


「んじゃ、海賊のお兄さんの海賊に略奪権を与えるとか?」

 公認の海賊として認めておけば問題ないんじゃない?


「それで今まで世話になったところには申し訳ないけど、他の海賊は傘下に付くか逃げるかを選んでもらうっていうのはどう? 彼の主張は海賊として縄張りを広げること。いわばあなた達は他人の領分に押し入っているわけなんだからそれぐらいは譲歩しないとね?」

 それが嫌なら……ねっ?


「わ、わかった。わかったよ!! 俺の負けだあああ!!」

 こうして長らく続いた海賊領主という立場は潰えた。

 これからは海に面する町の領主として頑張ってもらうとしよう。

 タイトル詐欺?海賊領主としては死にましたよ?

 クビも飛びましたね。解雇って意味になりますけど。

 次回は後日談というか観光になります。物語をちょびっとファンタジー風に動かしていく方針です。

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