反省9:迫りくる過去
「聖女ダイアナ。海底遺跡からの出土品だという物が届けられた。教皇殿と一緒に確認してもらえるか?」
「はい。皇帝陛下」
「ふふ」
「どうかしたか?」
「いえ、たった四年で陛下は格段に立派な皇帝になられましたと思いまして」
「そなたのおかげだ。甘やかさず厳しく鍛えてくれたおかげで今の朕がある」
「……いいえ、陛下御自身が努力をされたからです」
幼かった少年は青年に変貌しつつあるが、凛々しさは大人顔負けだった。
これは努力もあった。だけど、魔族が支配する勢力圏との争いが本格的になったこと……それが彼を予想以上に成長させた。
私が戦線に出るため、陛下は自らが初陣を果たし戦場を知ったことで甘さを捨て将軍達にも言いたいことを言えるようになり今では人望で配下を従えるほどになっている。
まあ、私だけでなくお師匠――教皇様も一緒に厳しく指導しましたからね!
ええ、意気込んだものの師匠の厳しさにそれを分散させる手段なんて思ってませんよ。まったくこれっぽちもね! 単純に師匠が私にはそんな暇はないと張り切ってしごいていたんですけど……。
「——陛下!!」
「どうした? 騒々しいぞ」
「そ、それが民間から出土品の提供があったのですが……」
「……それぐらいいつものことだろう。いちいち騒ぐほどのことかお前らしくもない」
「それが今回はいつもとは違うようで! 教皇様も手を焼いておられます!」
そんな馬鹿な!? あの師匠が手を焼くなんて!
私なんかよりも遥かに魔族を屠っている戦闘狂って言われている教皇様ですよ!?
「トレース! それは本当なの? とても信じられないわ」
「残念ですが事実です。あと驚くべきことに相手は生身の人間です」
私と一緒に皇帝を支えてきた彼がこんな出まかせを言うはずがないですし。
「でも一体誰が……?」
「その答えなら会えばわかる相手と伝えてあげるわ」
ま、まさか!
「嘘でしょう!? あなた、あなたは……」
「さあ、声高に呼びなさい――お母様と!!」
クインテット公爵夫人!?
えっ? えっ? 出国するときには確か捕まっていたはず……いや、逃げ出したってことですか。そりゃあそうですよね。今魔族に支配されている国ですもの。そんな国の支配者を殺した娘の親が無事でいられるわけがありませんもの。
「ガッハッハ、よもや時の皇帝陛下のお傍にいるとは思わなかったよ。おかげで会いに行くのになかなか骨が折れたじゃないか」
「ちょっと暴れないでよ!」
「いやー私をどうする気!?」
「ブリジットまで!?」
あと、なんか女言葉の男の子?
「……ダイアナ、あなたの家族とご友人はなかなか過激ですわね」
「あっ、師匠無事でしたか」
「当たり前です。いくら手加減が難しくても魔族に比べたら楽な相手ですから」
師匠はこの数年ですっかり戦いの癖が出来ちゃいましたね。本当に師匠だけで魔族なんて倒せそうな気がするんですけど。
「ダイアナ、ここにいる方々は信頼している方ですか?」
「え、ええ。お母様。ですが、せっかくの親子の再会ですもの少しばかり時間を取ることは出来ましてよ?」
「そう? だったら、そうしてもらいましょうか。皇帝陛下わたくしダイアナの母をしておりましたジュリア・フォン・クインテットと申します。以後お見知りおきを」
「——どういうおつもりですか? わざわざこんなところにやって来るなんて」
「そうね。色々言いたいことはあるのですが、まずは最初にこれを伝えるべきでしょう。——娘の不始末をさせてごめんなさいね。ダイアナの中の人」
「!?」
「……どういう意味かな? 彼女はあなたの娘のダイアナでは?」
「陛下、複雑な事情がおありなのですよ。彼女が出国する時にはそれこそ世界を巻き込む事態になったのですから」
「——残念ながらそれは違うのですよ」
「私共も当然これは現実ではない。夢か幻だと疑いました。それほどに荒唐無稽なお話です」
「ですが、これからお話しするのはすべて真実です」
「なんとこちらにいる男の子、この子こそがダイアナ・フォン・クインテットなのです!」
「「「はっ??」」」
「申し訳ございませんでした!!」
皆が呆気に取られている中、私はすぐさま身を投げ出した。
「勝手に身体を奪った挙句に大変な騒動を起こしてしまいました~!!」
尋常じゃない様子にただ事ではないことはわかってもらえたでしょう。
突拍子もない話ですけど、こうでもなしないとわかってもらえないでしょう。
「……まさかそんなことが本当に起こったというのですか?」
「だとすればあなたはまさに神が遣わせた御使いと呼ぶべき存在なのでは?」
「まあ今になって思えば私は世界が混沌に落ちてから生まれて世界を救う存在だったのかもしれませんね」
とんだファンタジー小説ですけど。
「そのためには世界を救うための武器が必要ですけどね」
最後の魔法道具はどこにあるんでしょうか。
「? ああ、そういえば君も骨董品を集めているんだろう。私も骨董に目覚めてね。娘の不手際の始末をさせたお詫びとして気に入った物をなんでも提供しようじゃないか!」
「ありがとうございます」
別に骨董に目覚めたわけじゃありませんけどね。
「そうですね。せっかくですから見せてもらいましょうか」
「よし、では私の一番のおすすめをお見せしよう!」
「——あら?」
「あれ? これって」
私と師匠は見た瞬間に違和感を覚えた。違和感、というか確信に似たものを。
「「これって魔法道具じゃないですか!?」」
棚から牡丹餅じゃないけど、予想外のところから出てきたもんですね。