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反省8:甘ちゃんでした

 帝国を救うそのために私がやったこと、それは教育係への就任だった。

 やったね、異世界に来てから初めての就職!

 その見返りとして私が貰えるのは安住の地としばしの平穏、それに最大の目標である魔法道具らしきものの捜索の手伝い。表向きは籠の中の鳥だけど、その分余計な人間に会わなくていいから楽っちゃ楽ね。


 そんな生活を続けてから半月。

 今日も今日とてハズレの骨董品の鑑定を終えてから皇帝と歓談していた時、私を連れてきた兵士が部屋にやって来た。


「……やっぱり、あなたは皇帝の」

「そうですね。皇帝陛下とは信頼関係を築けていると思いますよ」

「わざわざ私を皇帝に会わせるためだけに反乱の鎮圧を?」


「そうです。属国の不満はわかりますが、陛下はまだ幼く国力を掌握できていません。それにその制御も」


「将軍は盲目的に従っているように見えたけど?」

「将軍達は皇帝という役職に従っているだけです。いや、皇帝にのみ依存している。陛下にではない。あと、陛下には反乱のことなどは内密にお願いします。まだ知るべき時ではない」

 甘やかしすぎるのもどうかと思いますけど……。

 はぁ、リンネちゃんを見習ってほしい。


「それにしても聖女様の探し物も大概ですね」

「……わかってます」

 皇帝が甘ちゃんなんて言っている場合じゃないんだよな~。今のところ私の方が貰っている恩恵が大きすぎる。しかもこちらの要望は何かはわからないけど、かつて存在した国に関する宝で古く不思議な力を持つ物を探していると伝えているだけなので今のところ国中の骨董品が集められている状態になっている。


「こちらとしては陛下が成長されるまでの時間をいただけるということでありがたいことですけど?」

「その分、国民が大変な迷惑を被ってますけどね」

 陛下が珍しく直々に発信したせいで骨董品狩りが始まっている。

 本当に、一刻も早くヒントだけでも見つけないと。


 皇帝の成長、か。

 正直ダイアナの記憶はあっても、それで一国……加えてその配下の国々の頂点に立つ人間を育てられるだけの器が私にあるのでしょうか?


 迷っていても仕方がないのはわかるんですけど、もうちょっと別の方法でお手伝いをしたいものです。


「船長さんは上手くやってくれるいるでしょうか?」

「……海賊を信頼しているあなたには申し訳ありませんが、私にはそちらの方が信じられません。今頃は逃げ出しているのではありませんか?」

 その時はその時ですけどね。

 こちらの事情にがっつり巻きこんだ形になっていますし。


「なんとか魔法道具を見つけて、ついでにさっさとここを連れ出してくれないかな~」

 そうしたら、あれですよ? なんだったら私が海賊女王になってあげてもいいですよ?


「ちょっと図々しいことを考えていませんか?」

「そんなことありません。ところで今日はどんな用件ですか?」

 わざわざ皇帝が執務でいない時を見計らってきたんだから重要な案件でしょう?


「単純にお礼を言いたかったのとこれからもよろしくお願いしますというあいさつ程度ですよ」

「……それは拙いのでは? 仮にも皇帝の私室なんですから、護衛や見張りもいるでしょうし。そうじゃなくても陛下がいない時にうろつくと私に用があると思われるかもしれませんよ? 陛下への献上品である私に?」

「その心配はありません。見張りや護衛のほとんどは味方です」


「やっぱり、皇帝の仮面を被るのは上層部に対してだけですか」

 となると皇帝の教育方針は威厳を出すのがメインですかね?


「威厳出すっていうと何をするのが一番でしょうか?」

「不謹慎な話、問題が起きてそれを陛下自らが解決することですかね?」

「そんな問題なんてそうそう起きるわけが――」


「た、大変です!」


「どうした?」

「お、王国が!」

 王国? えっ? 私のいたところのことです?


「王国が魔族の支配下に落ち、各国へ宣戦布告を始めました!!」

「「え~!?」」


「…………」

「——よぉ、辛気臭い顔をしてるな」

「……船長さん。しょうがないでしょう? だって」

 だって、王国が魔族の手に落ちた原因は『私』なんだもの。


「油断しました。まさか、あのデュラハンがこんな搦手を使ってくるなんて」

「——そんな風に頭を使えるとは思ってなかった、か? まあ、デュラハンだし頭と繋がってないもんな」

「……いつもだったら、そう言って皮肉ったんでしょうね」

「あれま。こりゃ、本格的に重症だな」


「……今は皇帝のペットとしていい子で待てをしている状況なんです。本当は無能な信奉者なんてほっといて情報だけを持ってきてほしいんですけど」

「それは出来ないだろうな。……代わりに俺が手に入れられた範囲の情報を伝えてやる。と言っても、これはあんたみたいに自由の利かない人間以外は誰でも手に入る情報だ」

「籠の鳥作戦は変なところで弊害がありますね」


「王国が魔族の手に落ちたのは間違いない。だが、王国に魔族が侵攻し奪い取ったというわけではないらしい。むしろ、王国としては表向きは変わっていない」

「……どういうことですか?」

「王……今となっては前王は新国王に魔族の息がかかったものを選んだということだ」


「どうしてですか? やっぱり、私に対する復讐ですか?」

「それもあるだろうな。だが、それだけじゃない。国王はお前の想像以上に子煩悩だったのさ」

 それは知ってますけど。

 だから逃げるように罪人として出て行ったんですから。


「——新国王はお前が殺した王子だ。魔族の手によって蘇ったゾンビだけどな」

「……は?」


「えっ、そこまでそこまで愚かですか?」

「国王は新国王の即位を宣言してからは表舞台に出てこなくなった。出てくるのは新国王とその世話をしている太后だ」

「……親バカはどうしようもありませんね」

 王よりも王妃の方が重傷だったか。


「——一刻も早く魔法道具を手に入れないと。あとサボっている場合じゃありません。すいませんけど教皇に連絡を入れてください」

「おいおい本気か?」

「大国の一つが落ちた以上はこれは世界の命運をかけた争いです。手段は多い方がいい。それに今なら帝国に口利きが出来ます」


「——それに私がギロチンの力を正しく引き出せていればおそらく蘇生されて利用されるなんてマネはされなかったはずです。言ってしまえば、私にとっても許しがたいことなんですよ」


 私は聖女だなんて認めたくないし、認めてほしくもない。

 だけど、覚悟を決める必要があるのは事実。

 この決断は人類と魔族の対立を明確にし、世界を二分する事態へと発展する。

 人類の救世主。まさに聖女の偉業を称える者は今はいない。だけど、勝って証明して見せる。私はこのために転生したのだということを。

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