転生2:今の自分を知る
「ブハハハハハッ!!」
「ヒィ~、ヒッィヒッ! お、お腹、お腹ヤバイマジでねじ切れる!!」
「こ、これはふふっ!」
「……笑い過ぎじゃねえか? 特にお父様。後で絶対に後悔させて差し上げますわ!」
目の前で本当に壊れそうなぐらい笑い転げる三人組を見ていると怒りしか沸いてこない。
それが自分を殺すとした相手と実の両親だということがなおさら腹立たしい。
「ぶはっ、いやぁ悪い悪い。でも、まさかダイアナがそんなそんな姿ブブゥ!」
「だから笑い過ぎだって言ってますのよ!!」
「ちょっ、やめて! その姿でそんな女言葉使わないで~」
「……あなた、よく私の前で笑っていられますわね?」
正気を疑いますわ。
「だって、そんなの笑うじゃん? あんた思いっきり変なことになってるじゃん!」
「そこですわよ!」
そもそも自分で言っておいてなんですけど、よくもまあすぐにこの状況に理解を示したものですわ。そこからして信じられないのですわ。私の知っているこの三人はこんな単純な人間ではなかったはずですもの。
少なくともブリジットが今の状態だったら私は処刑されるところまで行くはずがありませんわ。
だけど、彼女達の言うことも一理ありますわね。こんなヤンチャボーイな姿でお嬢様言葉を使っていたら笑いたくなりますもの。というか絶対に笑いますわ。
「……少し動転していたようです。言葉遣いは気を付けます……」
こんな姿、今世の私しか知らない者が見たら病気を疑われますわね。
「とりあえずわた、俺の状況を説明するには不明な点が多すぎますから先にそちらが教えてくれませんか?」
「——いいだろう。ええっとまずはどうして一緒にいるのかというところか?」
「そうでしょうね。それにしてもおかしいと思ったらダイアナはやはりダイアナのままだったのですね」
「ですね! 少し安心しました。別人だったらそりゃあ聖人君子になりますよ。だって別人なんですもの」
「そう考えると急にダイアナになった彼女、それとも彼かな? あの子にはとても申し訳ない気持ちだよ」
「そうですねぇ。だって私達の分までいろいろおっ被せてますからね」
「お前がどこまで覚えているのかはわからんが、簡単に言うと処刑はなくなった。お前、いやお前の身代わりとなった聖女ダイアナのおかげでな」
「……別人だと考えると彼女はまさしく命の恩人。これまで抵抗があった『聖女』という敬称もすんなり言えますわね」
「疑いようがありませんからね」
「そして、私達を助ける際聖女ダイアナは王太子殿下を殺害。それを反省するという名目で自ら刑を受けるために旅立った」
「私達は息子を失った怒りに突き動かされる国王夫妻によって囚われのままだったが、まあそれも聖女ダイアナのおかげで逃げることが出来たのだ」
「あれはまさに聖女ダイアナのおかげでしたね」
「それでどうしてそいつと一緒に行動してるんで……だ?」
「それは思惑が交錯した結果としか言えないな。聖女が助けた人物は助けるべきという考えと聖女を嵌めた悪人を許すなという思惑が上手い具合に重なって聖女の親である我々が彼女の監視という名目で同じく脱走したのだ」
「それからは紆余曲折あって一緒に行動してるの」
「端折り過ぎだ。初めは彼女がまた囚われの身になりそうなのを助け、ついでに悪漢のアジトを襲撃の後金品を強奪。最初の活動資金とした」
「それからは若干義賊のような立ち回りをしていましたね。……もしかして私達の行動って聖女の後押しになったんじゃありません?」
「今更ながらに考えるとそうかもしれんな。となると我々の素性はとっくに世間にバレていたということか?」
「だとしたら聖女の噂が一気に広がった原因の一因ですね」
「——で? お前はどうしてそんな愉快なことになっているんだ?」
「ダイアナとしての人生を振り返るのにちょっと口調を戻しますわよ。もう笑わないでくださいましね?」
「努力しよう」
そこは嘘でもわかったというところですわよ!
「……こほん。私はまったく反省してませんけども、そこの女を殺そうとしましたわ。ええ、間違いなくしました。だけど予想外に頑丈だったせいで計画は頓挫。それどころか私は処刑されることになりました。ここまではご存知の通りでしょう」
「ただ死を前にした私はこんなことで死ぬのは嫌だと心底思いました。だって、私は悪いとは思ってませんもの! あの時点ではその女を殺すことは絶対に正しい行動だと信じていました」
今になって思うとどうしてあそこまで信じていたのかわかりません。妄信にも似た脅迫概念のようなものがあったとしか。
そういえば、計画を開始する前に誰かとあって準備をしていた気がするんですけど……。誰だったかしら?
「——で、気付いたら生まれ変わってました」
「いやいやいや! おかしいだろ! 一番大切な部分を省略しなかったか!?」
「だってどうしてこうなったのか全っ然、これっぽちもわかりませんもの!」
「……自信満々に言うことじゃないでしょうよ。ってことは今の聖女様の中身も誰かは知らないってこと?」
「知りませんわね。ただ推測するにこの肉体に入るはずだった魂なんじゃありません? うろ覚えですけど、処刑寸前のところで誰かを押しのかけたような覚えがありますもの」
「いろいろ不思議なことばありますね。……もし神がいるのだとしたら、神はダイアナに何かをさせたかったということでしょうか? だけど、本来のダイアナではそれをさせるのには不十分と考え別の人に託したということ?」
「……お母様、やらかしたことは間違いないですけどそんな困った子扱いされても困ります」
「それじゃあ、そろそろ可愛いダイアナに会いに行きましょうか」
「「「えっ??」」」
「お、お母様何を言って?」
「だって私は元々そのつもりで脱獄しましたし?」
「聞いてないぞ!?」
「言ってませんから」
「会ってどうするんですか? そもそも今の私達が会えますか?」
「親が娘に会うのに障害があるというのなら排除すればよいのです。会ってどうするかって親が子に会いに行くのに大層な理由がいりますか?」
「……お母様、相変わらず過激ですわ」
絶対に私はお母様に似た自信があります。
「……それにしても元からそのつもりだったとは。それにしては随分旅を楽しんでいたな?」
「それはそれ。これはこれ。とりあえずダイアナに会いに行くのは決定しましたけど、手土産の一つぐらい欲しいところですわね?」
「? それなら旅の間に買い込んだものの中から上等な物を渡せばよくないか?」
「それもいいでけど、大半はあなたが無駄に惚れ込んだ骨董品でしょう? それよりは新鮮な者がいいと思います」
「新鮮なもの?」
「ええ、生きがいいものがいいですわ」
「ですけど、そんなもの持っていても会う頃には腐っているんじゃ?」
「腐らせません。なんなら腐る度に直します」
えっ? お腹を?
「ということでさっさと行きますよ。早く準備をしなさい」
「……へっ?」
「あなたに言っています」
「あ、あのぅもしかしなくても新鮮なものって……」
「ええ、新鮮な元娘です」
手土産って私のこと!?