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ブリジット&公爵夫妻2:合流

「……上手く行き過ぎてる気がする」

 囚われの身になってからの情勢はわからないが、私にとってここまで都合よくいくだろうか?

 相手の方が悪とは言え、私だって公爵家の令嬢を断罪しようとした一味でありそれが冤罪となった以上王族の罪を公にできないことを考慮すると世間的には主犯格扱いをされていてもおかしくない。

 王太子であったカールズが死んでいることから仮に国王夫妻が親バカであったとしても私に向ける感情は良いものはないはず。それなのに、ダイアナが助けた……たったそれだけの理由でこうも簡単に脱獄が出来ていいのだろうか?


「上手く行き過ぎている時は逆に気を引き締めないと……!」

 牢屋というか城から抜け出すことはできた。あとはここからどう逃げるか。

「情報収集をしておきたいけど、今の状態じゃ難しい」

 逃がしてくれたお人よし達からは僅かばかりの路銀と不振に思われない程度に整った衣服を貰っているが旅をするには心許ない。


 真っ先にすべきなのは路銀を稼ぐこと。


 ここで問題なのはどうやって路銀を稼ぐか。

 普通に働く・犯罪をする・情に訴えかけるというのが簡単に思いつく方法だが……。

「まっ、普通に働くのはまずなしね」


 端くれ貴族だからダイアナなんかよりは市民の生活を知ってるけど、それでも働くのはなし。

 働きたくないっていうのはもちろんあるけど、理由としては路銀を稼ぐためには王都の近くで働く必要があるから。歩いて行ける距離で働くにしても住み込みじゃなければ宿代に食事代とかかる費用は多大だ。逃亡資金を稼ぎたいのに時間のかかることをしていたらすぐに身元がバレて捕まってしまう。


 罠である可能性もあるんだから出戻っても兵士が出してくれる……そんな甘い考えは持つべきではないわ。


「……となるとやっぱり何かしらの犯罪をするのが手っ取り早いか」

 情に訴えかけるのは素性がバレた時に逆効果になるうえに、すぐに効果が出るとは思えない。

 それに相手が善意でやっているなんて本当のところは判断ができないのだから寝込みを襲われる可能性もある。

 そんなビクビクした生活は真っ平ごめんよ! 私は一時的にとはいえ、この国の女性達のナンバーツーにのし上がったんだから!


「犯罪は捕まる可能性はあるけど、それは元からだし……それにやりようによっては一気に問題解決だわ」

 フフフ、ダイアナを嵌めた時にも思ったけど悪巧みはどうしてこうも胸が高鳴るのかしら。


「——もし、私を買ってはいただけませんか?」

「ああん?」

「お願いします。とある貴族の屋敷から逃げ出してきたばかりで持ち合わせがないのです。買っていただけるのでしたらなんでもいたします」

「ほ~う、なんでも、ねえ~」

「はいっ! ですからどうかお情けを……!」


「へへっ、いいだろう。お前の態度次第では俺が使った後にもっと稼げる仕事を紹介してやる」

「ありがとうございます!」


 ふふっ、成功ね。ちょろいもんだわ。

 貴族から逃げてきたとそこら辺のチンピラに言えば、相手は私が訳ありだと勝手に勘違いしてくれる。そうなれば下半身と脳みそが直結している単細胞の考えることなんてわかりきっている。

 まずは単純に欲望を満たし、一通り満足したら今度は厄介払いと小遣い稼ぎってね。

 私の狙いはその小遣い稼ぎ先に取り入ることなんだけど……その前にこいつをどうにかしないといけないわね。


 私、面食いだからブサイクは基本的にお断りなの。

 ということであなたにはちょっとだけ痛い目に遭ってもらうわね。


「——何をしておるかああああ!!」

「ぶべぇ!?」

「貴様、この娘に手を出すようなら私が承知せんぞ! この女は大切な存在なのだからな!」

「……あなた、手緩いですわ。もっと下を重点的に狙いませんと」


「なっ、なっ……!?」

 なんなのっ、この二人!?

 男を片付けようとしてたらどこからともなく現れた明らかに平民ではない二人組が男をフルボッコにし始めたわ!

 ……というか夫人の方は結構えげつないわね。旦那さんがボディーや顔といったわかりやすい箇所を殴っているところで足や急所を狙えと木材を渡しているじゃない。


 この二人、身分は高そうなのになんて野蛮なのかしら……。


 あっ、だけどチャンス?

 助けてくれたってことは良い人よね?

 んじゃ、そのまま情に訴えかければお金ぐらい貸してくれるかも!


「ふぅ。やれやれ。最近のチンピラには困ったものだ」

「あっ、あの危ないところを助けていただき……?」

 あれっ? この二人どこかで?


「ふふふっ、礼には及ばんよブリジット君。君は私達の無実を証明するための大切な証拠なのだからね」

「そうですわ。あなたにはクインテット公爵家の汚名を雪ぐために是非とも協力してもらわなくてはなりませんからね」


「クインテット? あっ!?」

 こ、この二人捕まってるはずのクインテット公爵夫妻! つまりはあのイカれ女ダイアナの実の両親じゃない!


「……こんなところで脱獄囚と出くわすなんてね。王都も物騒になったものだわ」

「それは君も同じことだろう?」

「そもそも私達はあなたの脱獄に合わせて逃げてきたわけですからね」

「なるほど。情報は筒抜けというわけね?」

 さすがは公爵。最高位の貴族ともなれば牢屋にいても情報は入って来るってことね。


「それで? こんなところまで追いかけ来て私に復讐でもするおつもりですか?」

「ふふふ、あらあら私達がそんな野蛮に見えるのかしら?」

「どうでしょうね? 少なくとも温厚には見えませんけど?」


「まあ、そう殺気立つな。我々の目的はただ一つだ」

「へえ、どんな目的でしょうね?」

「それは……」

「そ、それは……?」


「「金を貸してくれ(寄こしなさい)」」


「……んっ? すいません。長い囚人生活で耳がちょっと変になったみたいで。もう一度言っていただけません?」

「だから金を貸してくれと言っている。恥を忍んで君に頼んでいるんだから「有り金全部お出しなさい」」


 ……夫人の言葉は無視するとして、えっ私がこの人達にお金を貸すの? 普通逆でしょう? 


「公爵ともあろう方がこんな小娘にお金を無心するなんて……恥ずかしくないんですか?」

「しょうがないだろう。聖女ダイアナの親が貧しい心を持っているわけがないと兵士達が金を渡してくれなかったのだから」

「本当ですわ。安物の服を買ったらそれで尽きる程度のお金なんて貰ってどう生活していけというのか……」


 安物って。

 二人が来ているのは平民が一年間は働かなければ着られないような服なんですけど?


「言っておきますけど、私もこれだけしか手持ちはありませんよ?」

「まあっ!? そんなお金で何が買えると言うのですか!」

「……君ね、誤魔化そうとするにも無理があるよ。その程度ではパンの一つも買えないではないか」


 いやいや、普通に生活するだけなら少なくとも一週間は持ちますよ。

 パンも買えないって……そりゃ公爵ともなるとそれぐらいなのかもしれませんけど。


「お二人ともよくそれで脱獄しようなんて思いましたね」

「……やってもいないことで捕まっている理由がないだろう?」

「あんな狭いところに閉じ込められて退屈でしたの。刺激を求めなければ楽しくはならないでしょう?」


「わかりました。お二人に何が足りないのか。それはお金ではなく、常識と生活力です。ということで相談なのですが、お二人の手腕を見込んで一緒に逃亡しませんか?」

 腕っぷしと容赦なさ。この二人といればそう簡単に捕まることはないわ!

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