観光3:一方そのころ
「——まさかこんな便利屋みたいに呼び出されるとは思わなかった」
「まあまあ、私のおかげでイングラス認定の海賊になったんだから良しとしてよ」
「……海賊が宗教国家公認になってどうする。そんなの他の海賊から恨みを買うだけだろうが」
しょうがないじゃない。いろんな国に行くためには足が必要だったんだから。
「言っておくがいくらイングラスのお墨付きとはいえ、海賊じゃ帝国の領海には近寄れないぞ?」
それはそうなのよね。
帝国と呼ばれるだけの警備をされている国だから。イングラスも宗教国家としての地位は高いけど、帝国は国教も違うし。
ただ、とんでもない宝があるとしたらやっぱり大国にあると考えるのが妥当なのよ。
「……とりあえず帝国の隣にでも寄ってもらいましょうか」
「そこも帝国は自国の縄張りだと主張している辺りだろうが」
「そんな建前知ったこっちゃないわ」
言ってる場合でもありませんし。
「まあ、あんたには恩があるからな。一応やれるだけはやってやるよ。……その間に最近聞いたきな臭い話でもしておこうか?」
「……きな臭い話?」
「あんたにはかなり関係のある話だぜ? 王都が騒がしいって」
「王都って王国の?」
「そう。あんたの生まれ故郷さ」
「騒がしいってどういう風に?」
「……なんでも最近アンデッドがうろついているとかいないとか?」
「……いい加減な情報ですね」
だけど、気になります。
アンデッド……それはあの忌々しいデュラハンを表す言葉でもありますし。
「——あんたに関係があると言ったのは王様がそいつと接近したってことさ」
「陛下が!?」
なぜ? 陛下もイングラスから知らせはいっているはず。最近の王国の不祥事にはアンデッドが関わっているとわかっているはずなのに……。
「考えられるのはやはりお前のことを恨んでいるからだろうな」
「……それしかないですね」
反省の旅をすると申し出た時も王妃ともども射殺さんばかりに睨んで来ましたし。となるとダイアナのご両親は無事でしょうか。身勝手な反省という理由で牢屋に繋がれているはずだし……。
「あの、私の両親については……?」
「安心しな。聖女様」
なんでそこで聖女の称号が出てくるんですか!
とてつもなく嫌な予感しかしません。
「あんたの両親は聖女の者達の手で解放された。今じゃあんた以上の犯罪者。脱獄犯さ」
「へっ!?」
「しかもどういう経緯かわからないがあんたを罠に嵌めた娘と一緒だって話だぞ?」
「はぃぃ!?」
どどどいうこと!? なんでブリジットと公爵夫妻が一緒に行動してるの!? もう訳がわからない!!
「——……本当に息子を生き返らせてくれるのだな?」
「ああ、もちろん本当だとも」
「そのうえ、あのにっくき聖女もどきも始末してくださるのですね!」
「当たり前だ。あの程度の娘など簡単に始末できる」
「あなた! 何を迷うことがあるというのですか! 私達の愛しいカールズが生き返り、カールズを殺した女を殺すと言っているのですよ!? それで十分ではありませんか!」
「う、ううむ。しかし、仮にも魔族と手を組むというのは……」
「ええいっ、鬱陶しい! あなたが踏み切れないというのならば私がすべてやります!! さあ、早くカールズを生き返らせてくださいな!」
「……フフフ、人間とは面白いものだ。よかろう。お前の息子を生き返らせてやる。さあ、死体を持ってくるがいい」
「はいっ! 邪魔です! 退きなさい!」
「ま、待てっ! 余も、私も行く。行くから……!」
「さあ、連れてきましたわよ」
「……ほぅ、罪人のように死んだ割には綺麗な姿だな」
「当たり前です! カールズは何の罪もおかしていないのですから!! 罪人のように晒されるいわれはありませんわ!!」
罪を犯したからこそそれを裁く魔法道具によって討たれたというのに、愚かなことだ。
まあ、だからこそ利用できるのだがな。
「さあて生き返らせてやるか!」
なんせ簡単な作業だからな。
「甦れカールズ!」
「「おおっ!! カールズ!!」」
「……こ、ここは?」
「カールズ甦ったのね!」
「母上? 母上なのですか!」
「ああっ、カールズ!!」
感動の場面だな。
まっ、それもすぐに終わるだろうがな。
「母――ヴぇええええ!!」
「ギャアアアアア!!」
「ど、どどどどういうことだ!?」
「……生き返らせてるとは言ったが、別にそのまま復活させるとは言っていないぞ」
一応約束は守ったことになるはずだしな。
「はは、うえ。これは一体?」
「うまい具合に首が切れていたものだが……まあ私のように高貴なデュラハンになれるものはやはりいないか。……この程度の奴に同類になられても迷惑なだけかもしれんがな」
やれやれ。中途半端なアンデッドか。意識がある分使い勝手がいいかどうか……。
「生き返らせてやったのだ。お前はこれから私の手足となって働くのだぞ?」
「——何を言っている? お前は馬鹿なのか?」
「……はぁ。こんな馬鹿とは」
あいつに同情するのは癪だが、こんな馬鹿では私も殺したくなるわ。
「愚か者! お前を蘇らせてやったのは誰だと思っている!」
忘れているのならば思い出させてやる!!
「ぐ、ぐわああああ!!」
「何を!」
「……思い出させてやるだけだ。主従関係をな」
「——も、申し訳ありませんでした」
「わかればよいのだ。まったく、役に立たない駒はいらん。とりあえずお前には王国を支配してもらうぞ」
「かしこまりました」
「そんなっ、あのカールズが誰かの下僕になるなど……!」
「黙れ虫けらども。貴様らは生きていてもいなくてもどちらでもよいのだぞ? 親子仲良く暮らしていたければこいつの命令に従っておけ」
「わ、わかりました。よいではないか。カールズと一緒にいられるのだから」
「……それはそうですが。何故よりにもよってアンデッドなどに」
「アンデッドが嫌なのか? だったら、お前自身がアンデッドになれば気にならないか?」
「ひぃ!」
馬鹿め。怯えるなら初めから従っておればよいものを。
「……さて、ようやく王国を支配下におけたか。まったく、小娘を唆して手に入れられる予定だったのに。だいぶ遠回りしたみたいだな」
その小娘は今は敵対しているし。面倒なことだ。