転生1:過去の自分を知る
ちょっと未来編?
「——あぶ?」
「あなた、目を覚ましたみたいですよ」
「おおっ! 可愛いな~、俺似かな? それともお前似かな?」
「そうですね、ちょっとだらしない感じはあなたに似てるかもしれませんよ?」
「おいおい、それを言ったらこの丸っとしたところなんてお前そっくりじゃないか」
……この二人は一体?
高貴なわたくしの寝顔を見ておいてやれ自分達に似ているだなんて、恐れを知らないどころか顔すら知らないようですわね。
まあいいでしょう。どういうわけかわかりませんが、処刑寸前のところを助けられたかしたみたいですし多少は大目に見てあげますわよ。そうね……鞭で百叩き程度の罰で許してあげますわ。
「ああ~う」
それにしても眠い、ですわ~。
「あら? また寝ちゃった」
「お寝坊さんだな。あ~あ、羨ましい」
「しょうがないでしょ。赤ちゃんなんだもの。寝るのだって立派な仕事よ。あなたより仕事熱心なんじゃない?」
「ちげぇねえ! じゃあ、父ちゃんもひと仕事してくらあ! それまで母ちゃんを頼んだぞ。坊主!」
「ちゃんと名前で呼んであげてくださいな。ダイナと」
「——コラーッ、ダイナまた喧嘩したわね!!」
「へへ~んだ! 負け犬の言葉しか信じない母さんに俺が捕まるもんか~!」
「待ちなさい!! まったく、どうしてあんなひねくれた性格に育っちゃったんだか……」
「おっ、大将!」
「ガキ大将のダイナ! ま~たおふくろさんを怒らせたな」
「へへ~んだ! 俺が偉いから母さんも手を出せないのさ!」
「あんま悲しませるなよ!」
「あ~楽しいっ!!」
元公爵令嬢ダイアナ・フォン・クインテットともあろう者が、まさか男の姿になった挙句に野原を駆けずり回るなど誰が信じましょうか。わたくしを見た者は全員が何の変哲もない田舎の少年ダイナであると信じることでしょう。
生まれ変わったことに気づいたとしても誰もそれを責めることなんてできません。だって、わたくしがダイナとして過ごしてきたのは紛れもない事実。つまり、ダイアナでありダイナである。これこそが答えなのですわ!
おかげで貧乏な割には悠々自適な生活を送れていますわ!
まだまだ幼いとはいえ、周辺に住む子供は全員掌握済み。あとは大人連中を屈服させればこの辺りはわたくしの支配下に置かれますわ。
以前と違って、金をばら撒こうにも肝心の金は家のどこにもおいていませんし、腕っ節で従えるしかなかった分時間はかかりましたけどね。
それにしても謎ですね。
どうしてこんなことになったんでしょうか。
処刑されそうになったことまでは覚えているんですけど……。
「そういえば、知ってるか? 都には聖女様がいるんだってよ」
「ああ聞いた聞いた。なんでも数年前に冤罪をかけられてそれから国中を巡って救済しているんだろ?」
「……魔族に対抗する聖なる少女か。さぞかし美人なんだろうな~」
「その美聖女の名前は?」
「確か……ダイアナだったかな? 元は貴族でダイアナ・フォン・クインテット?」
へぇ~似た名前の人間もいるものですね。
わたくしの前世の名前だったダイアナ・フォン・クインテットが。そうですか、今は聖女。ふ~ん。
「はあああああっ!?」
「「「うぉっ!?」」」
「ど、どうしたんだ? って悪ガキのダイナじゃねえか」
「そんなことどうでもいいわ! 聖女の名前が何だって!?」
「どうでもいいって……てかお前聖女に興味があんのか?」
「どちらかというと勇者に憧れるもんじゃないの?」
「どうでもいいって言ってんだろ!! だから、聖女の名前を言えってんだよ!!」
そのうち殴りますわよ!
「だ、だからダイアナだよ。ダイアナ・フォン・クインテット!」
「元公爵家のクインテットか! そこの長女のダイアナなのか!?」
「お、おおう。お前妙に詳しいな?」
「名前が似てるからか?」
「……いやいや。あの悪ガキにそんな知恵があるわけないだろ」
「ど、どうなってんだー!?」
おかしいですわ!
わたくしが、死んだはずのわたくしが生きていることになってますわ!
それも処刑もなかったことになって冤罪?そのうえ聖女!? もう何がなんだかわかりませんわ!
……というかなんで冤罪になってるの?
自分で言うのもなんだけどわたくし間違いなくがっつりとあの浮気男とその相手を殺そうとしてましたよ? もう生まれ変わってからはどうしてあんな屑に惚れていたのかわかりませんけど、あわよくば浮気男も殺そうとしていました。
人も自分で雇って。
あの女についてはこの手で殺そうとまで画策していたのに!?
なんで!?
——もしかしてわたくしの秘められた力が?
魔力がある人間は予期せぬ形で魔法を使うことがあると聞いたことがあるけれど……。
死にかけていた時に力が発動し、魂だけをこの体に移したってこと?
だとしたら……本当はこの体に生まれ変わるはずだった魂が今はダイアナになっているってことになるのかしら? それは胸糞悪いというか後味が悪いというか。
どちらにしても一度会ってみないといけませんね。
問題はどうやって行くかということと今は世界的な要人になっているダイアナ(元わたくし)に面会できるかということ。
体を奪っておいて申し訳ないけど、今世は裕福ではないですから移動費すら覚束ないような身分ですよ?
「——こんなところにまでダイアナの噂は出回っているんだな~」
「……あなた、何を呑気な」
「そうですよ! 彼女の噂が広まっているということは私達のことも広まっている可能性があるんですからね! 安住の地を見つけるまで油断は大敵です!」
……なんでしょう? とてつもなく聞き覚えのある声なんですけど?
「そうは言うがね、私達が安住の地を求めて彷徨っているのは君が原因だからね?」
「え~そうですか?」
「だって、良さそうなところを見つけても観光をしては美味しいグルメの情報や観光地の情報を集めて来るじゃないか。そんなもの行きたくなるに決まっているだろう?」
「そうですよ。この辺りは上質な毛皮が安価で手に入るとか言われたら欲しくなっちゃうじゃないですか」
「だってどうせなら楽しく暮らしたいじゃないですか!」
「おいーどうなってんだ!? お父様、お母様そして憎ったらしい浮気女のブリジット!!」
「「「へっ!?」」」
「わたくしはダイアナ・フォン・クインテットですわ~!!」
わたくしの絶叫が響き渡りますわ。
もうダイナとして生活がすべて崩壊してもおかしくない状況じゃないですか!
なんでわたくしと一緒に処刑されそうになっていたお父様とお母様が憎いブリジットを連れて旅してますの!?
もう何がなんだかわかりませんわ!!
逃亡したブリジットと公爵夫婦が怨敵と実の娘との再会です。
書いててどうなってんだと自分で思っています。ダイアナ(本物)——ややこしいのでダイナの話はやりたかったんですが、3人と合流はしない予定でした。だけど、ここで出さないと3人を出しにくいと思ったのだここで出しちゃいます。3人がどのように生活していたかは気が向いたときに。