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反省1:王太子殺っちゃいました

 皆さん、昨今の大変な状況の中どのようにお過ごしでしょうか。

 この作品で少しでも心が和らぐことを祈っております。

「くそっ、なぜだ!?」

 焦ったように悪態を吐く声とそれを遮るように後頭部で聞こえるガンガンッという騒音に閉じていた目を開くとそこにはこちらを見つめる数多の眼があった。

 数えきれないほどの視線に見つめられ、どういう状況なのか思い出そうと身じろぎをしようとするも体を動かすことが出来ない。ますます混乱するところに――ようやく記憶が舞い戻った。


 あるいは、芽生えたというべきか。


 私の名はダイアナ・フォン・クインテット。由緒ある四代公爵家の一人娘であり、王太子の婚約者として育てられた次世代女性のトップに君臨する存在だった。過去形なののはすべてがもう過ぎたことだからだ。元公爵令嬢だし、元王太子の婚約者だ。それ以上でも以下でもない。

 申し訳ないことに私が原因で公爵家についてはすでに家も取り潰されている。


 ことの発端はカールズ王太子殿下が成り上がり男爵令嬢のブリジットにうつつを抜かしたのが原因だった。別に誰のものでもない女性に粉をかける程度なら私も黙認してあげた。

 だが、カールズはあろうことか王太子以外の者にも愛想を振りまき虜にする尻軽を魅力的とし、私を婚約者の心も掴むことのできないと周りに喧伝。それだけでなく本来なら私に使うべき交遊費やそれだけでは足りないからと国庫金を使ってまでブリジットに貢ぎだす始末。

 汚いのは金がかかるのは私だとしていたことだ。


 それには堪忍袋の緒が切れ、最終的に公爵家の力を使ってブリジットを始末しようとした。

 初めは取り巻きを使った嫌がらせやあくまで忠告に留め、それでも言うことを聞かないので毒物を送りつけたり最終的には刺客を雇ってみた。

 まあ、ことごとくを無視や無力化されてしまったのだが。


 ダイアナ・フォン・クインテットは自分よりも魅力的な女性に婚約者を奪われた挙句、家の力をもって復讐しようとする我儘な女。これが事情を知らない一般の目から見た評価になるだろう。


 なぜそんなに他人事なのかというと、実は私はダイアナであってダイアナではないからだ。

 どういう理屈かはわからないが、私はダイアナの体と記憶を持った別人ということになる。体については処刑台に固定されているので確認は取れないが、ダイアナの記憶を持っていることからたぶん間違いないだろう。


 理由なんてわからない。

 わかるのは私は生まれてからずっとダイアナだったわけではないということだけ。以前の記憶としては地球という星で会社員をしていた記憶はあるがそれが夢物語なのかは確かめようがない。地球の記憶もダイアナとしての記憶もどちらもはっきりとあり過ぎて本当の自分が誰なのかわからないのだ。


 一気に二人分の記憶が流れ込んできて正直頭が痛い。

 ——だからいい加減に人の後頭部でガンガンと音を鳴らしているギロチンを止めてほしい。


「……あの~」

 申し訳なさそうな声を出すと兵士が体をびくっと震わせた。

「そうです。あなたです。今、びくっとしたあ・な・た」


「……な、なんでしょうか?」

 そんな幽霊を見たみたいな顔をしないでくださいよ。ただでさえ申し訳ない気持ちでいっぱいなんですから。


「申し訳ないんですけど、死なないみたいなんで外してもらえませんか?」

「えっ!? い、いやそれは……」

 わかります。わかりますよ。命令された処刑を命令を下した張本人の目の前で止めていいのかという迷いは! でもね、よく考えてください。集められた観衆は一瞬で済むからと人の首がちょん切られる凄惨なシーンを我慢して見に来てるわけですよ。必死になって私の首を落とそうと何度もギロチンを下ろしてはあげている王太子殿下には申し訳ないですけど、見せられてる方としては勘弁してくださいって話ですよ。まあ、もちろん一番の被害者は私なんですけど?


「……お願いします。民の心を慮ってあげてください」

 正直に疲れたというわけにはいかないので、あくまで民のためですよーと言えばハッと何かに気づき慌ててギロチンを外し始めてくれた。


「お、おいっ、何を勝手なことをしている。ダイアナの処刑を邪魔するつもりか!!」

 これに慌てたのは当然この処刑を主導している王太子だ。

「殿下、民のことをお考えください! これでは民の心は殿下から離れて行ってしまいます!」


「なっ、なんだその目は!!」

 処刑に躍起になっていたから気付かなかった?

 民衆は罪人に向ける眼差しをあなたに向けているんですよ。


 実はこの世界には魔法がある。

 魔法が生活の一部と言っても過言ではない。

 そしてこのギロチンもまた魔法仕掛けの道具だった。効果は罪状が正しければ罪人の首を切り落とし、罪状が間違っていれば切り落とすことなく弾かれる。

 このことはパフォーマンスを兼ねて説明してある。王太子と同じくダイアナに魅了された人物が王太子のでっち上げた罪状でギロチンを落とされたが、私同様に刃は首に弾かれ見事生き残って見せた。


 そのまま私が交代で処刑台に固定されたので仕掛けは一切されていない。あるいはその人物が王太子とグルで仕掛けを取り外すのを忘れて私を処刑しようとしたと民衆は考えているはずだ。だから、先程の人物は顔色が悪い。あぁ、思い出した彼は王太子のいとこだったか。これは王族全体に疑いがかかりかねないな。


「——お、おい城に行き死刑囚を連れてこい!」

 事態をようやく把握した王太子の命令で急遽早まった死刑に囚人は慌てたもののその首は私の時とは違いあっさりとギロチンの餌食になってしまった。


 そして、血も拭き取らぬままに私を固定しその刃が私の首を――落とさなかった。

 うん。もうそれはどうしようもないからさっきのやり取りを繰り返すのはやめてくれない?


「……殿下、私の無実は証明されてしまったようですね?」

 殺されかけたのに私の声は冷静そのものだ。まあ、私自身にはそもそも罪の意識なんてないんだから当然なのだが。罪があるとすればダイアナだろう。


 ただ、これは聞き方によっては『王太子の嘘が証明されましたが、どう責任を取るつもりですか?』ということになる。

 まあ、罪人とした人間が生き残ったら罪人にしようとした人間が疑われるのが当たり前だよね?


「黙れ黙れ罪人風情がっ!! ギロチンで死なないからと無罪を主張するつもりか!?」

 王太子が私を処刑したい理由はわかっている。

 単純に好きな相手と結ばれたいというのもあるし、私に罪を被せて自分の罪を隠したいというのもあるだろう。そのためにとはいえ、急ぎ過ぎた。彼は私の処刑の前に勝手に国軍を動かしてクインテット公爵家を潰してしまったのだ。


 私の後ろで未だに拘束されたままの元公爵と公爵夫人。つまりはダイアナの両親はどん底に落とされた絶望がまだ抜けきらないのか状況に頭がついて行っていないようだ。


「……無罪を主張するつもりはありません」

 喚く王太子は予想外の返答にぎょっとしたものの、すぐに喜色を浮かべ兵士に罪人を捕まえるように指示を出す。

 兵士が戸惑う中、私は自ら近付き彼らに拘束を促した。


「殿下、私自身は罪は罪と考えております。ですが、魔道具であるギロチンが正常に働かない以上王子の無実を証明する必要もあるのではないでしょうか?」

 私を拘束する力は緩い。

 兵士の迷いがそれを緩めているのだ。

 このままでは国が割れてしまう。そうなったら、困るのは国民だ。それだけは避けなければ。


「……恐れながら、殿下の無実を証明できるのは私一人だと思っております」

「なんだとっ!? 罪人風情が余の無実を証明するだと!?」

 怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶさまはまさに駄々っ子。とても為政者の顔ではない。


「殿下は私に罪を問われました。そして、私の罪は罪とは認められなかった」

 魔道具は魂にでも反応するのか正真正銘ダイアナの記憶を持っていても自己が異なる私をダイアナの罪で裁くことはできないだろう。

「そんなことがどうした。ギロチンが不具合を起こしただけだ。首を刎ねるのにあんなものを使わずとも剣を使えばよいそれだけだ!」


「それでは殿下の疑いは晴れませぬ!」


「ですから、殿下には申し訳ないですがあそこに上がっていただきます」

 私と入れ替わりで。

「ば、ばかなっ! 王太子であるこの余に、罪人の真似事をしろというのか!」

「そうです! 殿下は不具合と申しましたが、二人も実験を行ったのです。あれが不具合だとは思えませんし、誰も信じません。そうなれば民衆の心は王家から離れ、国が分断されます!」

 それを避けるためには殿下が証明しなければなりません。


「罪状は、『ダイアナ・フォン・クインテットの処刑内容に虚偽を並べた』。これならば殿下の首が残れば改めて私をお斬りくださればいいのです」

「ふざけるな! この期に及んで余を嘘つき呼ばわりとは、なんたる侮辱! その不敬で処刑すればよいだけだ!!」


「自分に不都合な臣を処断する独裁者に従うものはおりません!! 上に立つ人間ならばそれなりの態度をお示しなさいませ!!」


 気迫が伝わったのか、気付けば拘束は解かれていた。

 それどころか、両親の拘束も解かれ王太子の包囲が始まっている。


「き、貴様ら何をする! やめんか!!」


「——覚悟を決めなさいませ」

 固定された王太子の横に立ち、ギロチンをゆっくりと下ろす。

「罪状――ダイアナ・フォン・クインテットの処刑内容に虚偽を混ぜ、私利私欲のために処刑を行ったことによる斬首」


「や、やめっ――」


「……へっ?」

 コロッと目の前を転がっていく首。

 こんなはずじゃなかったのにと呆然とする私をよそに民衆はワッと湧き上がり、つぶやきは歓声に打ち消されてしまった。


「素晴らしい! 自らの命を顧みずに臣下としての姿勢を貫くその態度。感服いたしました」

 力強く私の手を握り、上下に激しく振り回す兵士の言葉に戸惑いを覚えながら、どうしてこうなったのかと考えを巡らせる。


 内容? 内容がまずかったの?

 だけど、ダイアナ・フォン・クインテットの処刑内容に虚偽を述べたでしょ? 処刑内容自体は間違ってなかったんはずだから、あれで首が落ちるわけが……。


 ちょっと待って。

 あの時、テンションが上がっちゃって余計なことを付け加えたような……?

 そうだ! 『ダイアナ・フォン・クインテットの処刑内容に虚偽を混ぜ、私利私欲のために処刑を行ったことによる斬首』そう言ったんだ。あれ? 何がまずかったかな?


 あっ、そうか。虚偽を混ぜってところか。実際に国のお金を横領したのは王太子だからその点は私の罪じゃないもんね。

 処刑の時はうまいこと誤魔化して、ブリジットの殺害をメインにしてたから本来のダイアナは死ぬはずだったんだ。


 さて、でもこれどうしようか?

 流れとは言え、王太子を殺しちゃったんだけど!?

 こうやって勘違いから周りに持ちあげられて聖人君子なんてものは出来上がるんだと思います。ダイアナ(偽物)は王太子が助かった=ダイアナの罪は本物だ。それで自分が死ねば。そんな風にしか考えてません。彼女の心は流されやすくメンタルはぶれぶれです。だからこそ物語は続くわけですが・・・。

 元のダイアナがどうなったのかも後に登場する予定ですのでお楽しみに。


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