表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/24

第9話 魔術師、接近

 数日が経った。




 やっと戦争の混乱がおさまった城下町では、新聞が発売されたのだが、それを手に入れて見てみると――




 アルムガント王国は、今回の戦争の死者をおおいに弔った。

 そしてその合同葬儀の場で、国王レイガント・アルムガントは高らかに宣言したのである。

 ――すなわち、ベールベール王国への報復を!


『かの醜き獣人ども、言いがかりをつけて我が国に攻め込み、尊い人命を奪ったその罪、必ず思い知らせてくれる!』


 威勢のいい宣言に、貴族や城の騎士たちはおおいに盛り上がり、必ず復讐戦争を成し遂げてみせると叫んだのだった。

 ところで、戦勝の大功労者たる第一王女、カノア・アルムガントの名前は、王の口からはついに出なかった。

 不遇である。第一王女にして天才魔術師のカノア・アルムガントが、これほどの仕打ちをうけようとは。


 他人からの冷酷な扱いを受けまくってきたオレは、その点、ひそかにあの銀髪の王女に同情したのだが――

 しかしすぐに、やはり腹立ちのほうが強くなってきた。あの女さえいなければ、アルムガント王国は滅亡し、そしてこのオレはきっといまごろ、どこか遠い山の中で、リーネ姫の甘い蜜を吸えていたものを!


「くそっ……」


 こういうとき、ヤケ酒を飲めたらどれほどいいことか。

 しかしオレは酒が苦手だ。【黒の牙】にいたときも、それを理由に、大酒飲みだらけのサバトたちからずいぶんからかわれたものだ。


 当時のオレは、なんとかまっとうな人間になろうとしていたから、やつらの侮辱もずいぶん我慢したものだったが――

 酒は飲めずとも腹は減る。オレは酒場に赴いて、テイクアウト《もちかえり》で食事を注文すると、宿泊している安宿へと戻った。自室で食事を摂るつもりだった。


 ところが宿に戻ると、女将から声をかけられた。

 ふだんはオレのことを気味悪がっていて、声などめったにかけてこない女が、


「ザムザさん、お客さんが来ていますよ」


 と、愛想のかけらもない声でそう言ったのだ。


「客? ……誰だ、なんて名前だ」


「知りませんよ。あたしゃ、おたくの小間使いじゃありませんからね。自分で確認しなさいな。……ほんと、気持ち悪い顔……」


 最後のは小声だったけれど、ちゃんと聞こえた。

 死ね、と心の中で相手を罵倒しながら、オレは無言で自室に向かった。

 それにしても、客とは誰だろう。もしかしてサバトたちか? しかしやつらは、オレがここにいることを知らないはずだが……。


 とにかく警戒しながら、オレは自室の扉をそっと開いた。

 するとオレはそのとき思わず、馬鹿みたいに口を開いた。


安普請やすぶしんの宿ね。ベッドにシラミも多いわ。お前、こんなところでよく寝られるわね」


「カ――カノア……アルムガント……!?」


 薄汚い皮のマントこそ羽織っているものの、そのマントの下には高級そうな赤い貴族服。

 そして、その華麗な銀髪を翻した、美しい容貌は間違えようもない。


 間違いなく、あの第一王女、カノア・アルムガントがオレの部屋の中に佇立ちょりつしていたのだ。

 ――なぜ王女が、オレの部屋にいるんだ!? さすがのオレもこれには余裕を失った……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ