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第18話 アルムガント王国の軍議

 カノアから聞いた話によると。――

 この日の朝から、アルムガント王宮の一室にて開催された軍議では、まず、


「ベールベール王国との今後の外交をいかにするべきか」


 というテーマが、まず議題として立ち上がった。

 国王をはじめ、参加者のほとんどは、


「すぐさまベールベール王国に攻め込むべし」


 と、戦争拡大論を声高らかに叫んだ。

 あの汚らわしい獣人どもが、言いがかりをつけて我が国に攻め込んできた以上、国家の威信にかけても反撃するべきである。そうしなければ、我らは獣人どもだけでなく、他の国からもなめられる――そういう理屈だった。


 この流れはある程度、当然と言えた。

 そもそも国王は以前、復讐戦を高らかに叫んでいたし、それに、ハゲ頭の大臣であるフェルト・オーデナリーが言うには、


人間種族われわれが弱みを見せた日には、亜人国オストガルドはともかく、魔人国デスザッカルなどどういう行動に出るか、知れたものではない!」


 なるほど、無欲で、そもそも他種族との関わりをもとうとしない亜人種族エルフたちは、基本的に外国の動きはほぼ傍観しているだけだ。


 しかし、欲深で戦闘能力に優れる魔人種族は、人間が弱っていることを知れば、いまこそ好機とばかりに侵略の手を伸ばしてきかねない。


魔人国デスザッカルに対するけん制のためにも、我らは獣人国ベールベールに対して負けっぱなしでないことを見せねばならぬ。人間は獣人如きに屈しないという姿を披露しなければなりませぬ。よって、ただちに一軍を編成し、ベールベール王国に攻め込むべし」


 フェルト大臣が吼えると、他の貴族や将軍たちも、そうだ、そうだとその意見に続いた。

 景気のいい出兵話に花を咲かせる将軍たち。その光景を見てカノアは、小さくため息をついた。

 ――カノアは、最終的に玉座に座るために、この戦争を利用したいと思っているから、主戦論で進む軍議そのものは内心満足に思っていた。


 ただし、軍議の空気そのものには、内心おおいに苛立っていた。


(先日の戦いで、王宮は陥落寸前だったじゃないの。私がいなければこの国は確実に敗北していたわ。それなのに、戦いの傷も癒えぬうちから、復讐だ、やり返せ、さあ戦争だって――こいつらは馬鹿じゃないかしら)


 王国首脳陣が馬鹿であればあるほど、カノアとしては楽に出世できる。王位に就ける。

 しかしそれはそれとして、目の前で間抜けばかりが雁首を揃えて、ピーチクパーチクとニワトリにも似た中身のないさえずりを繰り返されては、感情としてはどうにも腹が立ってくるものだ。


「陛下。ベールベール王国に攻め入る折には、どうかこのガルガンティアに先鋒をお任せくだされ」


 そう発言したのは、ボルトチック・ガルガンティアだった。

 軍議に参加した7人いる将軍のうちのひとりで、筋骨隆々とした50歳の大男。

 名家の出身で、国内に多大な領土と財産を有する領主でもある。


 勇猛ではあるが馬鹿で傲慢という噂の――カノアに言わせれば「呆けたいのしし」という、図体だけは人様の倍はあるその巨漢は、おもむろに席から立ち上がり、


「ベールベールの醜き獣人どもを、このガルガンティアがちぎっては投げ、ちぎっては投げ、ひたすらに蹴散らしてご覧にいれましょう。武人の気高き心意気、恐れを知らぬ肝っ玉、必ずお目にかけましょうぞ」


(将軍のお前が、みずからちぎっては投げることないでしょうに)


 数百数千の兵士を率いる将軍が、この程度の認識で開戦しようとしている事実に、カノアは胸焼けにも近い気分の悪さを感じた。脳みそに虫でもわいているのかと怒鳴りつけたい気分だった。


 このガルガンティア将軍は、家柄が良く国王ちちおやとも仲がいいため将軍の立場にいるともっぱらの評判だったが、それにしても軍議の場でここまでズレた意見を口にするとは思わなかった。勧善懲悪の子供向け小説でも、悪役はもう少しまともな考えをするだろう。まったく、事実は小説より馬鹿だらけだ。


 繰り返すが、カノアからすれば、戦争をうまく利用して、自分が少しでも玉座に近づければそれでいいのだ。軍議や出兵が雑であればあるほど、カノアとしては付け入るスキができて好都合というものだ。――しかしながら、あまりに粗雑すぎて敵に大敗されても困るのである。支配するべきアルムガント王国が亡びては元も子もない。


「恐れながら、わたくしは反対です」


 そのときだった。

 挙手と共に発言したのは、貴族のひとり、公爵家のレウルーラ・リッテンマイヤーだった。

 20歳。腰まで伸ばした、ウェーブがかった栗毛が印象的な美女である彼女は、父が病身であるために当主代行としてこの軍議に参加し、これまでずっと沈黙を保っていたが、ここに来て彼女は反戦論をぶちまけた。


「ベールベール王国に対して国家の威信を示す、その言や良し。……しかれどもこの戦い、開催するべきではないと存じます」

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