第10話 窮地のレンジャー
「こんにちは。何日ぶりかしら? あの戦いのときは世話になったわね」
「あ、あんた、ど、どうしてここが……?」
分かったんだ、と言おうとしたが口の中がカラカラでうまくしゃべれない。
だが、オレがセリフを最後まで発するまでもなく、カノア・アルムガントは微笑を浮かべてオレの質問に回答した。
「冒険者ギルドに問い合わせたのよ。レンジャーのザムザはいまどこにいるかって。最初は『分からない』って返事だったけど、あの情報屋のポルって三十路男にお金を払って尋ねたら、ごくあっさりと教えてくれたわ」
あの野郎!
オレはやつの顔を思い浮かべ、空想の中でポルの首を締め上げた。
なにか面白いことがあったら教えてほしいと思い、やつにだけはオレの居所を教えていたのが仇になったか。
しかしまさか、この姫様がみずから町の情報屋と接触するとは思わなかった。仮にも王女だぞ、おい。
「し、しかし姫様。……なぜオレが、レンジャーのザムザだとご存知で?」
「お前が自分で名乗ったじゃない。リーネの部屋に飛び込んできたとき、『かつて毒からお助けした、レンジャーのザムザです』って」
「う……」
名乗った。
……確かにオレは名乗った。そうだった!
オレとしたことが、なんてザマだ!
くそっ、リーネ姫のこととなると冷静さを失ってしまう!!
ま、待て。
落ち着け、オレ。
そもそもこの姫様はここに何の用事があって来たんだ? それを確かめねば――
と、オレが思ったその瞬間だ。
「人探しをしているの」
「人探し、だと?」
「間者を、探しているのよね」
「間者?」
「そう。今回の戦争、アルムガント兵の弓の弦が、大量に誰かに切られていたそうよ。何者かの仕業であることは明白だけど、きっと間者が紛れ込んでいたんだわ。で、その間者の正体は誰なのか。個人的に興味が湧いてきてね……。どうせヒマだし、それを調べているのよ」
「調べる……たったひとりで?」
「ひとりが一番手っ取り早いでしょ。私より有能な人間なんてこの国には誰もいないんだから。単独で動くのがもっとも合理的で、かつ楽だわ」
仮にも王女だというのに、大胆なことだ。
まあ、あれほどの魔術が使えれば、そりゃ他人は全部無能に見えるだろうし、護衛もいらないだろうが……。
「――で、ザムザ。お前、間者のこと、心当たりはないかしら? ……ところでこころみに問うけれど、お前はそもそも、どうしてあのとき、城の中にいたのかしら? レンジャーのお前が、城の兵士の服を着て、妹の部屋に飛び込んできたのはどうしてかしら? 教えてほしいわ。私ね、それを聞くためにここまでわざわざやってきたのよ」
カノア・アルムガントは、ニヤニヤ笑いながら問うてきた――
この女、オレのことを疑っているのか……!?
どうする。殺すか。
……どうやって?
敵の軍隊を魔術ひとつで蹴散らしたこの化け物女を相手に!?
くそっ、厄介なことになってきた!!