第18話 入学式に向けて
王都からの手紙から数日後魔法学院から入学式の案内状が届いた。
入学式は4月らしいので、およそ1ヶ月後だ。そのためスミレは準備を始めた。といってもやる事は変わらない。鍛錬して、風呂に入り、食べて、寝る。時々勇者アルベルトと共にお出かけもした。
スミレが学院で必要とするものを買い集めるためだ。しかし、衣もメイスもあるので必要なものは召喚術に関する本や魔王史、王族の歴史などの歴史書、後は「使える薬草、使えない薬草〜薬草学の基礎〜」という冒険に役立つ教科書だ。
これを買ってからというものスミレは魔王図書館に入り浸り、召喚術、さらには精霊召喚、武器への精霊付与までの本を読みきり、薬草学では使える薬草を覚えるだけでなく、実際に採取し、薬などの合成を考え、新薬開発を考えたり、魔王史は魔族側の本は読みきった。
そんなこんなで入学式の10日前になり、スミレの旅立ちや勇者達の帰りのお別れ会を魔王城で行った。
お別れ会での料理は、近くで取れた白身魚の刺身とスダチに、寿司、味噌汁、焙じ茶である。そう、和食。巣立ちだけにスダチをかけたのだ。これを食べながら勇者アルベルトやベンジャミン達とこの先どうするのかとか、真に討伐すべきはなんなのかとかを話した。
そうして、ご飯を食べ終えた後、風呂に入り、スミレが眠ろうとした時、スミレの部屋にアルベルトが入ってきた。スミレはアルベルトが真剣な顔つきをしていたのを見て、何か良くないことかと思っていた。すると、アルベルトが口を開いた。
「スミレ。改めて大好きだ。愛している。将来結婚しよう」
アルベルトが言った。
「アルベルトさん。本当に私でいいですか?私も貴方が大好きです。将来はわかりませんが、結婚はいつかしましょう」
スミレがこう返す。こう言い合い、2人はハグをしていた。お互いの体温を感じ、心まで温まるのを感じる。まだ、少し肌寒い日もある4月のことである。流石にエイプリルフールではない。
翌日、馬車で王都へ向かうことになった。ベンジャミンは馬車の中でやたらとアルベルトとスミレがくっついているのを見て、自分の居場所のなさを感じていた。
しかし、せっかく友達になったはずなのに、裏切るのは良くないと、我慢していた。夕日も沈みかけもうすぐ町に入るというところで盗賊にあった。
「スミレ殿の馬車とお見受けする。スミレ殿を出してもらおうか」
盗賊達が叫んだ。それに応じて出て行こうとするスミレを止めアルベルトが出ようとするが、スミレが止めた。結果的にベンジャミンが出ることになった。
「目的はなんだ。金か?」
ベンジャミンが言った。
「俺の雇い主がスミレを捕らえる事を目的としている。理由はわからない」
盗賊の1人が言った。この時、スミレはほとんど確信していた。
きっと雇い主はサトシだと。そうして、盗賊とベンジャミンが話している間に、綺麗な格好をした、美少女がベンジャミンの元に歩いてくる。
美少女はベンジャミンの前で止まると、ベンジャミンにこう語りかけた。
「スミレとあの男がくっついているのに居心地の悪さを感じるんでしょう。私が解決してあげるから、宿屋でスミレを襲いなさい。なんなら殺してしまいなさい。」
「そんな、友達であるスミレを襲うなどあってはならない」
ベンジャミンが言った。
「あら、私があなたとくっついてもいいのよ。望むものを与えるわ。なんでも」
美少女が言った。
「なんでもって、例えば女とかもか?」
ベンジャミンが食い気味に聞く。
「ええ。なんでも。お金でも、女でも。考えておいてね。私はこいつら連れて王都に戻っておくから。あ、私はラベンダーよ。勇者サトシの妹のね」
美少女が名乗った。ベンジャミンは迷っていた。友達は大切だ。だが、スミレとアルベルトを見ていると心がもやもやするのも確かだ。
しかも、あの美少女はなんでも与えてくれると言った。しかも勇者サトシの妹と言っていたので。アルベルトの幼馴染の妹のはずだ。
だから信頼に値するかもしれない。そんな迷いの間にも馬車は宿屋の前に着き、風呂に入り、食事をする。
今日の宿屋のご飯はピザ、ラタトゥイユなどの料理だった。これらはベンジャミンの大好物だが、ベンジャミンには味がわからくなっていた。というのもさっきのラベンダーのセリフが気になっていたからだ。
さて、食事も終わり寝る時間になった。もちろん全員同じ部屋で寝る。スミレの寝息が聞こえてきた。アルベルトも寝ている。彼女の寝首をかくには完璧な時間帯だった。
ベンジャミンは剣で、スミレの首を取ろうとした。しかし、手が震えて全然剣が動かない。まるで金縛りにあったかのように動けない。
そんな時カモミールと名乗るこれまた美少女が現れた。
「簡単じゃない。その剣を振り下ろすだけよ。私がしましょうか」
カモミールがそう言った。
カモミールは剣を取るとすぐ、なんの躊躇もなく、振り下ろした。だが、スミレには当たっていなかった。というのも、スミレはこっそりと、精霊をメイスに付与しておき、危険な事が起こるとアラームが鳴るようになっていたのだ。
よって、すぐにスミレが起き、メイスで剣を止められていたのだ。常人なら不可能だが、ほぼなんでもありのスミレにとっては簡単な事だ。
「あら、カモミールさんではないですか。どうされましたか。私に御用ですか?」
特に驚いた様子もなくスミレが言った。
「おほほ。剣を振り下ろす練習をしていただけよ」
カモミールは焦っている。
「でも、それベンジャミンさんの剣ですし、カモミールさんがここに入ってきているのも変ですよ」
スミレが正論で返す。
「わかりました。正直に話します。私はあなたが憎かった。勇者サトシを簡単に倒したその才能が。だからラベンダーに相談して、勇者サトシと共にこの計画を練ったのです。なぜ、ここにいるのがわかったかというと、馬車に解析魔法をかけて、スミレが乗っているのを確認したのよ。前に帰ることは聞いてたしね。で馬車の中を見たら、男とイチャついていたので、余ってそうなあなたに狙いをつけたのよ」
カモミールが自白した。
「なんだって。じゃあなんでもくれるというのは」
ベンジャミンも焦り出した。
「もちろん。嘘よ。そんな都合の良いことあるはずないじゃない。フーハハハ。こんなの信頼するとかありえないんですけど。マジ受ける。かかってくれてありがとうね。ベンジャミン君」
急に性格悪くなるカモミール。
「なぜ俺の名を」
ベンジャミン驚く。
「だって解析魔法で音も聞こえるんですもの」
カモミールが言った。
ちなみに解析魔法は無属性魔法である。そして、無属性は努力すれば誰でもできる。
「騒がしいよ。寝かせてよ」
アルベルトが起きた。
「心配しないで。ごめんね。おやすみ。さあ、もう用はないでしょう。帰ってください」
スミレは軽く怒っている。
「では帰ります。さようなら」
そう言ってカモミールは帰った。