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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
四章 南越の小国

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88話 孫家の仇敵


 波のある大海原を進む、複数の船団。

 それを指揮するのは、孫家の勇将「呂岱」であった。


 彼自身は士家政権の理解者としての立ち位置もあったし、今回の強引な侵攻はあまり気の進むものではなかった。

 特に、士壱、士匡の親子とは個人的に仲良くしていた程であり、様々な恩や情もある。


 しかし、呂岱はそれ以前に、孫家の軍人である。命令を違えるわけにはいかなかった。


「何故、抵抗など。孫家に士家が敵う訳がないだろう……被害も少なく一瞬で終わらせねば、な」


 小舟で先行させて、士壱には降伏を勧める使者を出している。

 孫家への反逆をあの冷酷な主君が許すとは思わないが、せめて士壱の命だけは救わんと考えての行動であった。


「将軍、間もなく岸に着きます」


「全軍を陸に上げ、準備を整えよ。翌朝、日の出と共に合浦を囲むぞ」


 まさか海から渡ってくるとは思うまい。

 呂岱の指示通り、一万の兵が規律正しく船から降り、陣を構え始める。


 翌朝に、と言ったのは、それだけ士壱に準備を促す目的もあった。



 今回の騒動の首謀者と思われる、あの曲者の若造、士徽の顔がふと脳裏に浮かぶ。

 最も色濃くあの妖怪の血を継いだのは、恐らくあの小僧だろうと思う。


 以前、孫権と面会を果たしたあの時も、ふとした時に見せる肝の座り方には背筋が冷えたほどであった。

 その男が考えたであろう、今回の抵抗だ。無策だとは考えづらい。だからこそこちらも、打てる限りの手は打っていた。


「ただ、あの若造も今は、歩隲が封じている。動きたくとも動けまい」


 それこそ、闇夜に紛れる本物の「妖怪」でない限りは。


 日が傾き始めた頃、兵の全てが陸に上がり、進軍の準備を整え始めていた。

 後は明日、ゆるゆると威圧的に進軍し、降伏を促すだけだ。


 合浦郡の兵力は三千。

 南海郡は、動きたくとも動けないだろう。あの地は江東と交州を結ぶ要地、空には出来ない。

 更に歩隲の報告では、三千の精兵もこの攻囲に加わるとのこと。


 一万三千と、三千。更に相手は、戦を知らぬ弱兵だ。

 戦わずとも勝敗は決している。



「ほ、報告! 報告! 急ぎ、呂岱将軍に!」


「何だ?」


 あれは、先に士壱に対して降伏を促す使者として発たせていた兵であった。

 あの慌てようは、尋常ではない。呂岱はすぐにその兵を呼び入れる。


「どうしたのだ。まさか、士壱殿が拒否したのか?」


「き、拒否どころか、城にも入れませんでした。更に、大軍が城砦の前に陣を構え、今にも出撃をせんばかりの勢い」


 まさか、籠城ではなく打って出るというのか。

 確かに士壱は戦の指揮は取れない為、この地の軍権を握っているのは呉巨という猛将である。

 彼は野戦を得意とした将だが、この兵力差をひっくり返せるほどの名将ではない。


「呉巨は、本物の馬鹿なのか? 士壱殿は何故、このような無謀なことを……」


「い、いえ、城の外で陣を構える将は呉巨でもなく、士壱の兵でもありません。更に、その兵力は一万を優に超えると思われます!」


「何だと!? 一万の兵が、どこから! でたらめを言うな!!」


「本当に御座います! 確認の斥候を御放ち下さい! アレは恐らく、士家の兵でもなく、民兵でもなく、恐らく、山越族……異民族の連合軍です!」


「誰にも与せず、独立を保ち続ける異民族が、何故、士家に」


 権威に与しないからこそ、山越族は常に脅威なのだ。

 孫家の将兵ならばそれは痛いほどよく身に染みている。


 しかしそれが、連合を組み、士家を守ろうとしている。あり得ない事だった。



「すぐに、確認の斥候を放て! 我が軍も陣を組む、必要とあらば討ち果たす。それと、すぐに孫権様、歩隲将軍に伝令を飛ばせ!」



 氷の棒を背に突き刺すかの如く、呂岱は体が冷えていくのが分かる。

 もしや孫家は、手を出してはいけない地に、妖怪の縄張りに、足を踏み入れてしまったのかもしれない、と。





 いつもであれば、士徽の側に仕えている護衛の男「蝉」。

 しかし今、彼は交趾郡には居なかった。

 士祇の下にも、士壱の下にもいない。そんな彼の動向を探ろうとする者もいない。


 ただ、士徽はこの戦の命運を握る「一手」を、この男に委ねていた。


 確かに交州の、士一族の持つ兵力はあまりに小さく、そして弱い。

 だが、だからといって交州は小さな土地ではない。

 一昔前までは中華から切り離された一国であったほどだ。

 広大な領土を少ない兵力で維持できていたのは、勿論、士燮の穏便な政策のお陰である。


 孫権が交州の支配に手を伸ばし、呉の政権が揺らぎ始めた頃、この地に反乱が多発したことで国力は衰退した。

 士徽は、その歴史を知っていた。


 交州で最も恐るべき勢力。

 それは山越族や少数民族らによって成る、異民族の集団である。


 三国のひとつ、呉の国力の根幹を削り得るほどの力。

 蝉もまた、その異民族の出身である。だからこそ、この一手を委ねられていた。



「士徽殿の申し出、相分かった。我らも、孫権なぞに偉そうにされても腹が立つ。ヤツは、多くの異民族を殺し、捕虜としているからな」


 大柄な、虎髭の男はそう言って頷く。

 周囲に侍る、格好も、顔つきもまるで違う面々もまた、それに同調した。


「我らからの要求は二つ。前と変わらぬ、士燮政権と同様に我らと対等であり続ける事。そして、この前金とは別に、戦の後は報酬と酒を用意すること」


「承知しました。若殿は必ず約束を守りましょう」


「ならば、力を貸そう。孫家か、士家か。どちらが隣人として付き合いやすいかは、自明の理であろう。それに士徽殿は、本当に金払いが良い。相応の働きを期待してくれ」


 溢れんばかりの戦意。

 これが、自らの足で権威から独立し続けてきた男達の姿であった。


「この王金おうきんを始めとした、部族の連合は今ここに、士徽殿の指揮下へ一時的に入ることを宣言する。ぜんよ、お前も我らと共に戦うがいい」


「承知しました」


 山越族。それは、徒党を組まない戦闘のプロ集団。

 それが今、暗雲立ち込める交州の土地で、今は亡き妖怪を想い、肩を並べる。


 その兵力は、一万を超えていた。

 士一族の持つ総兵力に並ぶ程の規模。


「さぁ、出陣だ!」


 王金の号令で、部族の長達はそれぞれ思い思いに叫びながら、幕舎を後にした。



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それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、サンエツを味方に引き入れてのは大きいですね。 交州で孫権の軍を打ち破れれば揚州南部でも放棄して更にダメージがでかくなるでしょうし。 そうすれば劉備も動きやすくなると。
[一言] 展開がアツイ
[良い点] 山越を味方にしたのが一番大きい功績ですね。 [一言] 前話までの、劉備はもう少し野蛮なイメージが私にはあります。女性が飛び込んできたら遠慮なく貪りそうな感じです。
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