表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
四章 南越の小国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/102

81話 重い未来


 歩隲、やはり動いたか。

 孫権から派遣された交州を監視する将軍である。


 届いた書簡は短く、蒼梧郡へ来るようにという命令のみ。


「何を考えているのか……」


 流石の叔父上も顔色を曇らせる。

 ただ、何を考えているかは、分かっている。

 恐らく史実と同じだろう。


「この機を逃さず、我ら士一族から交州の自治権を取り上げるつもりでしょう」


 士祇兄上である。流石に良く見えている。

 そして口に出しにくいことも、はっきりと言ってのける。


「士徽よ、どうするべきか」


「まずは話さなければ手の打ちようもありません。ただ、兄上と叔父上に確認しておきたいことが御座います」


「何だ」


「交州を手放し、生き永らえるか。交州を固持し、故郷を戦火に包む覚悟があるか。極論ではありますが、どちらかといえば、どちらでしょうか」


 史実において、交州は親父の死後、孫権の直接統治が始まる。

 そしてそれを拒み、一族を扇動して反乱を起こしたのが、「士徽」だった。

 結果としては反乱は鎮圧され、一族は処刑。

 孫権側に着いた叔父上、士匡従兄上、士キン兄上も、理由を付けて庶民へと降格され、皆が死んでいる。


「私は、自治権を手放した方が良いと思う。それで生きることが出来れば、安いものだ。孫権の勢力は赤壁の勝利で強くなる一方。無駄な抵抗は危険を招くだけだ」


「兄上は、如何ですか」


「……父上は、この地に全てを捧げ守り抜いてきた。それを何故、急に他人に渡さねばならないのだ。戦火は避けたい、されど、この地を他人に踏みにじられるは耐えがたい」


 この答えには、正解はない。孫権に降っても、理由を付けて冷遇されるのは決まっている。

 孫権の統治は常にそうだからだ。あれほど功績を上げた周瑜でも、彼の死後、一族は冷遇されている。

 地盤や力を持つ臣下がいれば、孫家は覆されるという危険があるからこそ、そうせざるを得ないのだ。


 だからといって、抵抗して勝てる様な相手でもない。

 交州は戦火に遭遇したことはなく、戦になれば呉巨一人に頼るしかないだろう。

 それは、あまりにも役者が違い過ぎる。


「結局は、お前に任せるしかない。士徽よ、歩隲に会ってきてくれ。お前の決定に我らは従おう」


「親父ならどうするか。それを念頭に置いて、交渉を行ってまいります」





 細く、あまりに長い、キリンの様な体。

 ただその分の威圧は重く、鋭い視線が僕の姿を捉えている。

 装備を整えている兵士を並べているのも、歩隲自身が刀を側に置いているのも、こちらの威圧が目的だろう。

 親父ならここで平然と微笑み、茶菓子の一つでも土産として渡そうとするが、生憎、僕にはそんな余裕はない。


「士燮殿の逝去、誠に残念であった。天下を支える傑物の死に、孫権様も深く心を痛めておられる」


「父もそれを聞けば喜ぶことでしょう。遺族として感謝申し上げます」


「刺客はどうだ、捕まえたのか?」


「はい。捕まえましたが、死にました。父は誰かに恨まれる人ではなかった為、真相は闇の中に御座います。ただ、交州人ではありません」


「そうか」


 抑揚のない声色。どうも苦手だった。

 こちらのペースに乗ってこようとしない、命令を貫き通す頑なな軍人気質。


「それで、今後はどうするつもりだ。士燮殿の穴は、到底、埋め切れるものではあるまい」


「確かに、父はあまりに偉大でした。されど、おかげで交州に乱はなく、至って平穏に御座います。それに朝廷からの信頼も厚い士壱叔父上も存命です。御心配には及びません」


「本来であれば、士キン殿を戻すべきなのだろうが、彼の治める武昌は江東の要所。軽々しく変えることは出来ん。それに、今は良くとも、今後どうなるかは分からんだろう」


「国を治めるは、小魚を煮る様なもの。あまりつつき過ぎてはならないと申します。平穏な交州という土地、大きな変革もなく、このままお預けいただければ幸いです」


「士燮殿が死んだ今、小魚は崩れつつあると言っているのだ。長男ではない士祇が家督を継いでいる時点でそれは明白」


「では、士キン兄上をお戻し頂きたく」


「その必要はない。士キンには、息子がいる。それを交州に置き、我々で補佐しよう。貴殿らは波風の原因になる故にここを離れてもらうが、適格な他の役職を与えるから心配無用だ」


「兄上に、実子ですか。聞いておりませんが」


「妾との子だ。庶子ではあるが、息子に変わりない」


 やはり、蓮さんを握っていたのは歩隲、いや、孫権だったか。


 ならば恐らくこの一連の件は繋がっている。

 あまりの孫権の厚顔に、少し怒りを覚える程であった。

 裏で、曹操サイドと繋がっていたのだ。曹操自身は知らないだろうが。


 これで赤壁後、勢いを失っている曹操側は、孫権の目線を逸らして防備を固めることが出来る。

 孫権としても、合肥・徐州侵攻の失敗によって落ち込んだ権威を取り戻したいはずだ。


 いまや周瑜か孫権か、どちらが主従か曖昧になっているところがある。

 だからこそ「交州の直接統治」は、大きなインパクトになり得るし、南海貿易による益はあまりに大きい。



「まぁ、我らは仲間同士だ、協力しようではないか。士燮殿が亡くなり日も浅い、急な話で戸惑うこともあろう。一か月、猶予を与える。その間に準備を整えてくれ。話は以上だ」



 答えは、出せないまま。

 僕は一つ礼をして、その場を後にした。



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こうも翻弄されると本当に悔しいなぁ… せめて未来知識で技術チートでもできればゲリラ戦と海戦とかで勝てるかもしれないけど主人公はその方面の知識はなさそうだし、どう見ても詰んでるののに… ぶっち…
[一言] 郭嘉が士燮暗殺の黒幕であり、孫策を殺した毒矢が犯行に使われており、孫権は知ったうえで交州は実兄の庶子を傀儡として立てるとまで言うのなら、ノータッチの曹操はともかく孫権とは手を組めませんね。 …
[良い点] さて、ここからがifの世界、作者の腕の見せ所ですね。 ここまでの布石を生かすのか、はたまたあっといわせる手段に出るのか、楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ