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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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73話 赤壁の戦い 後編


 曹操の敗走。

 その一報が届いたのは、于禁、劉備、ほぼ同時であった。



「曹操軍敗走! 関羽将軍、劉封将軍は追撃を開始!」



「丞相の本軍、敵襲により撤退! 江陵へと逃げておられます!」



 于禁はその報告を聞き、狂わんばかりに叫んだ。

 劉備を、抜くことが出来なかった。あと一歩、そのせいで勝利を逃したのだ。


「命を捨ててでも、劉備に喰らいつけ! 決して、殿の下へ走らせてはならん!!」


 于禁軍は防御も捨て、命を捨てた突撃を開始。

 しかし、劉備軍もまた同時に突撃を開始。先鋒は、張飛。


「兄者! ここは任せろ!」


「張飛、死ぬなよ!!」


 劉備は半数の兵を割き、華容道へ進軍。目的はもちろん、曹操の首一つ。

 于禁は必至に追いすがるが、張飛の精鋭がそれを許さない。


「出てこい! 于禁! 曹操より先に、テメェを地獄へ落としてやるぞ!!」


 張飛がひとたび大刀を振るえば、一面が朱に染まり、数多の首が吹き飛ぶ。

 飛び交う怒号。于禁は、前に出て、矛を振るう。


 それは張飛の大刀とぶつかり、鈍い金属音を響かせる。


「そこをどけ、身の程を弁えろ……このクソ野郎がぁぁあああ!!」


「ようやく兄者が雲を掴み、天下へ飛ぶんだ。その願いは聞けねぇなぁ!?」



☆



 華容道にようやく出たと、思った瞬間だった。

 後方にはためく「劉」の旗。響く銅鑼と、馬蹄。


 何度も見た。忌まわしい程に脳に焼き付く、因縁の男。


「今、勅命によりこの劉備が、曹操の首を貰い受ける!!」


 烏林の方も、関羽と甘寧の軍が集結し始めている。

 曹仁と夏侯淵の姿は見えない。


「殿、このまま江陵へお急ぎください。劉備は、我らが虎豹騎が引き受けます」


 曹純はそう言うと、疾風の如き速さで駆け出した。

 響く喧噪と剣戟の音。曹操は曹純の方を見ず、ひたすら馬を走らせる。


 周囲を囲む兵は百も居ないだろう。

 段々と、弓矢も届く距離になってきた。

 恐らく関羽と甘寧が、追いついてきたのだ。


 許褚は自らの体を曹操の盾としながら、後ろを振り向き弓を放つ。

 その正確無比な弓矢は、敵の弓兵を馬から一人、また一人と落す。



「殿、ここからはお別れに御座います。何とか、お一人で江陵まで」


「虎痴、何を言う」


「長江を上った周瑜の軍が先に居るとの報告が。私がそれを引き受けます」


 周瑜は、もうそこまで。

 許褚は嘘を言う男ではなかった。


 気づけば賈詡もどこかではぐれたのか、姿が見えない。


「大丈夫です。江陵の曹丕様、襄陽の郭嘉殿が迎えを出しておられます。あと少しです」


 前方に、敵影が見えた。

 万を超える大軍勢。もう、逃げられない。


「丞相、お先に失礼します」


「ま、まて! あれは、あれは敵ではない!」



 高く振られるのは「曹」の旗。

 周瑜でも、劉備の軍でもない、あれは江陵に残していた曹丕の軍で間違いない。


 少数の兵が駆け寄ってくる。


「父上、御無事でしたか。もう、大丈夫に御座います」


「そ、曹丕、何故ここが分かった」


「郭嘉殿の言に従いました。既に河は封鎖し、周瑜本軍は曹洪将軍が足止めしております。もう、大丈夫です。後はお任せを」


 全身の力が抜ける程の安堵。

 曹丕はそんな曹操の体を抱きとめる。


 すると後方から馬蹄が響く。

 あれは、甘寧の部隊か。凡そ百を数えるほどの、少数の精鋭達だ。


「父上、さぁ、お早く。将軍も」


「曹丕様、兵を。私が追い散らします」


「いえ、許褚将軍のお力を借りるまでもありません。士幹(シカン)!」


「はい!」


 曹丕の側にいる、若い武人が声を上げる。

 まだ成人もしていない、十代も半ば程の少年であった。


「百騎与える。初陣だ、見事武功を立てて見せよ」


「三十騎で結構! 追い散らして見せましょう」


 そう言うと少年は、本当に三十騎のみを率いて、飛ぶように駆けだした。

 流石に少なすぎる。しかも、甘寧の兵は孫権の軍の中でも飛び切り勇猛である。


 許褚はたまらず飛び出そうとしたが、曹丕がそれを笑顔で留めた。


「よく見ておいてくだされ。あれは、私の武術の師範となる男です」


 士幹の三十騎は槍の様に尖りながら、甘寧の部隊に突き刺さった。

 しかし、敵も勇猛。貫くまでにはいかずそのまま囲まれ、三十騎は揉み上げられる。


 終わった。そう思った瞬間、いきなり敵部隊が蜘蛛の子を散らすように霧散。

 散り散りになって逃げ始め、士幹は矛先に一つの首を掲げて悠々と帰還した。


「敵の部隊長の首に御座います」


「よくやった。それにしてもよく敵の部隊長が分かったな」


「こちらが少ないと侮り、前に出てきておりました。部隊長ともなると質の良い馬に乗ってますから、一目で分かりました」


「流石だな。まさに天武の才よ」


 馬を見ただけで、敵の部隊長を見極める。

 許褚にはその理屈はよく分からなかったが、それを実現して見せた。それも、少年がだ。


 曹丕は文武に秀でた天才である。その曹丕が認めている。

 この少年もまた、天才なのだろう。許褚は、驚きの表情を浮かべたまま切り離された首を見て、それを確信した。



 曹操は曹丕の部隊と合流。これを旗印に、散り散りになっていた兵も徐々に集まりだした。


 虎豹騎に阻まれた劉備はそれを見てすぐに撤退。関羽もそれに同行。


 周瑜軍は曹洪軍と対峙を続けながら戦線が膠着。江陵の目の前で対峙を続けている。


 赤壁の戦いは、ここに終決。

 郭嘉の一手により、曹操は史実よりも被害を抑えて、帰還することに成功したのであった。



これにて第三章は終結です。

まだ物語は続きますので、今後ともよろしくお願いいたします!


次回は、郭嘉が最後の一手を残します。



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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[良い点] 弟くんすごい……大出世ルートやん…………
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