表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/102

57話 龍の喧嘩


「ただ、呼ばれただけだ。別にお前がついてくる必要はなかったんだが」


「だってこの前、あんな顔色で戻ってきたんだもん。シ……従兄にいさんは目を離すとすぐに、危ない目にあってるから心配なんだよ」


「あの日は、その、酒を飲み過ぎただけだ」


「だったら猶更、付き添いは必要だね?」


「うぅむ」


 夏口に戻って、支度を整えたのちに城へ向かおうとすると、雷華が僕に付いてきた。

 正直、徐庶さんとの関係性はまだ伝えていない。知ってるのは、麋竺さんくらいだ。親父にも伝えていない。

 あんまり無理を言って引き離すことも出来ず、結局、雷華を連れての入城となった。


「あぁ、雷豊、待っていたぞ。ん? そちらは?」


「徐庶様にはご紹介しておりませんでした。こちらは、雷家当主が四男、我が従弟の雷華らいかに御座います」


「雷華と申します」


「ほぅ、本当に同じ血族なのか? 素晴らしい人相だ」


「よく言われますので、肩身の狭い思いをしております」


「ハハハッ! お前も奇抜さでは負けておらん。あ、そうだ、少し良いか?」


「はい?」


 徐庶さんに手を引かれ、耳打ちをされる。

 小さな、雷華にも聞こえないだろうなと思うほどの小声だった。


(烏林の下見の報告は後でで良い。急で悪いが今からお前には、我が殿に会ってもらう)


(な、え? どういうことですか?)


(身構えることはない。先日の葡萄酒のことだ。殿が礼を言いたいと仰ってな、その面会だ。頭を下げとけばすぐに終わる)


(わ、分かりました)


(私がお前を側に置いているとも言うなよ? 昨日、軍師の諸葛亮が戻ってきたが、奴はこういうことに五月蠅いのだ)


(承知しました)





 雷華を連れ、徐庶さんの案内の元、僕らは奥の一室まで連れられる。

 これから会うのって、あの、劉備だよな。

 心臓の高鳴りがハンパない。まさに、三国志の主人公たる、あの男と相見えることが叶うのか。

 ファンだとか、そういう感じではないが、三国志を知る人間として興奮しない訳がない。


「殿、言っていた商人を御連れしま──」


 扉が開き、徐庶さんがそう述べる声を遮るように聞こえてきたのは、怒号であった。


 怒号というか、喧嘩だ。口喧嘩。

 ワーワーギャンギャンと、いい大人が罵り合ってるような、そんな感じ。


「良い加減にしてくだされ! 私が目を離している隙に、どうしてこのような素性もしれない男を側近に置く様なことを!」


「帰ってきてからお前は小言しか言わねーな! 俺はお前の主だぞ! 口の利き方に気をつけろや!!」


「主を正すのが忠臣の役目でしょうが! それよりもこの男は、どこから拾ってきたのです!!」


「丁度、関羽の調練を見に行った帰りに、山で狩りをしてるのを見つけたんだ。どうだ、凄いだろ! 見ろよこの巨体! 頭の大きさ! これは良い軍人になる、間違いない」


「まさか得体の知れぬ民を側に!? 何をやってるんですか! 貴方はもうお山の大将では無いんですよ!?」


 僕らに気づく様子もなく、耳の広い壮年の軍人と、若き文官は言い争いを繰り広げていた。


 まさかとは思うが、あれが「劉備」と「諸葛亮」。

 水魚の交わりの様な親密さとはかけ離れ、犬と猿の様な険悪ムード。

 親子ほどの歳の差があるのに、劉備の方が子供っぽいのもまた、うーん、らしいっちゃらしいけどさ。


 そして二人の間でしどろもどろに困惑しているのは、巨大な体と、大きな頭をした青年だった。

 あの体の大きさで、まだ顔には幼さが残っている。僕と同じくらいか、それよりも少し若い感じだろうか?


「それで、この男の名は?」


「知らん」


「はぁ!?」


「こいつは吃音持ちでなぁ。喋れんのだ。まぁ、そのうち筆談かなんかで聞いとくよ」


「何を暢気なことを……」


「あ、今度の戦でこいつを部隊長にするから。いやぁ、あの魏延とかいう荒武者と良い勝負をするぞ」


「吃音持ちを部隊長になど、何を考えておられるのですか!?」


 しばらくほとぼりが冷めるまで待っていようと見ていたが、一考に冷めやらぬ気配なのを感じて、徐庶さんが仕方なく呆れた顔で二人に近づいていく。


「あのー、殿? 客人がいらしてる前で、それはちょっと」


「ん、あぁ、徐庶か。聞いてくれよ、この堅物泣き虫がまた俺に文句を」


「今、私の悪口を目の前で言いましたね!?」


「お止め下され! 客人の前ですぞ!!」


「え? あ、すまん」


 ようやく僕らの存在に気づいただろう劉備は、居住まいをビッと正し、大きく胸を張る。

 切り替え一つで、ビリビリとした威圧が部屋に満ちた。

 これが、劉備か。静かに絡め捕られるような孫権の威圧とは異なり、周囲の全てを圧倒するような派手さがある。


「私が、劉備だ」


 その言葉と共に、思わず僕と雷華は、これでもかと額を床に押し付けた。

 いや、押し付けたというよりは、押し付けられた。そんな感じがする。


「殿、彼らが先日、あの葡萄酒を届けてくれました、交州の商人で御座います」


「雷家の、雷豊と申します」


「同じく、雷華と申します」


「あれは旨かった! 酒なのに果実の様な甘みがあった。大事に飲もうと思ったが、将兵に振舞ってしまい、一晩であっという間に無くなってしまった」


「ありがとうございます」


「顔を上げていいぞ。目を見て、直接礼を言いたかったのだ」


 促され、顔を上げる。

 まるで子供の様にワクワクとした顔つきをしていた。


 なんだか年の離れた人だという気がしない。

 まるで今まで一緒に過ごしてきた様な、それこそ兄の様な、そんな気持ちにさえなってしまう。


 僕と雷華の顔を見た劉備は、小さく「ほぅ」と呟いて、その目を真ん丸に開く。

 一瞬の間。それに、どうしようもなく緊張してしまう。


「よし、徐庶、孔明もだ。お前らみんな下がれ。この二人と直接、話がしてみたい」


「殿、相手は僻地の商人ですぞ? しかも異民族の。殿の名に傷がつきます」


「ったく、五月蠅いなぁ。良いから引っ込め。この程度で傷がつく様なら、勝手に傷をつけておけ」


「諸葛亮、命に従え。我らは出るぞ」


「はぁ……」


「あ、それと趙雲を呼んどいてくれ」


 徐庶さん、そして諸葛亮と、例の青年は部屋を出る。

 残ったのは、僕らと、劉備が一人。

 劉備は不思議そうに、眉をひそめながら口を開く。



「お前ら、商家の生まれじゃないな。どうして嘘を吐いた? ん?」



 心臓が、跳ね上がった。




劉備と諸葛亮は、実際、普通に仲が悪かったって言われますよね。

特に「劉巴」の処遇に関してよく喧嘩をしてたとか。

だからこそ、劉備は臨終の際に諸葛亮へ「乱命」を伝えて、反乱を未然に防ごうとしたとか。

うーん、悲しいお話。


さて、次回については、まぁ、あまり多くを語りますまい。

どうぞお楽しみに(笑)



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 吃音持ちが仲間になる…これもしあの人なら三国県立してワンチャン蜀滅ばないのでは…? 遠征マンがいるから無理かな…? [一言] 三英雄の描写が多くて嬉しい!身バレ寸前ですがどう乗り越え…
[一言] 鉄火場で生きてきただけあって、劉備の人を見る眼力は凄いからなぁ 諸葛亮は人事のやらかしがアレコレあって、結局自分で全部やる羽目になって過労死した感がw
[気になる点] 吃音持ち・・・いや、彼は年代がもう少し先なはず。 まさかね。 [一言] あ、やっぱ一発でばれたw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ