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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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49話 旅立ち


 麋竺びじくからの使者団は、南海郡にてシシ兄上と面会をした。

 まぁ、事実上の主は親父だが、形式的に交州の中心を治める兄上と面会をするのが道理だ。


 流石に麋竺といったところか、贈り物の数々は珍品や高価な物が多い。

 特に北方に生息する狐の尾の毛皮など、こちらでは目にかかれないものまで多数だ。


 兄上もその使者達を賓客としてもてなしはしたが、彼らの贈り物に比べれば、とても冷たいものだっただろう。

 特に贈り物も送らず、手短に持て成し、食事を振舞うのみ。

 一つの群雄に対してというよりは、中小の豪族をもてなすような礼に近い。


「それでは、どうぞよろしくお伝えください」


 柔らかく微笑み、兄上は使者達を返した。

 これには彼らも拍子抜けであっただろう。少し、顔に怒りの色も見て取れた。


「あいや、お待ちくだされ」


 不機嫌な面持ちで屋敷を出る使者達を、雷家の主人と僕は呼び止める。

 こちらを向いた彼らは僕の顔を見て一瞬ギョッとした顔をしたが、すぐに主人へと目を向ける。


「予め、連絡をしておりました雷家に御座います」


「あぁ、そういえばそうでしたな。これはどうも、話は聞いております」


「今回の取引については、こちらの我が甥に任せておりますので、どうぞお見知りおきを」


雷豊らいほうと申します」


「その模様は、異民族の出身か? 雷氏の一族に?」


「いえ、自分は主に山岳部にて野草や鉱物の仕入れ、取引きを担当しております。異民族と関わることも多い為、彼らに合わせてこのようにしております」


「な、なるほどな」


 おい、その変人を見るような眼をやめろ。

 とはいえまぁ、特に疑われることもなく、結果オーライと言ったところか。


「我らの出立は明後日だ。その時にまた、お会いいたそう」


「かしこまりました」





 暖かな湯気が揺れ、ふわりと濃い茶の匂いが立つ。

 中庭の見える小さな一室。前には和やかな表情の親父が腰を下ろしていた。


「明日、交州を発ち、劉備の下へ参ります」


「おう。気をつけろよ」


 あまり多くの言葉を交わさず、二人で庭を眺めていた。

 蝶が飛び、鳥も鳴いている。これが、平和な交州の風景なのだ。


「曹操は軍を興し、進軍中だ。戦になるやもしれん」


「孫権の陣営では、張昭を始めとした臣下の九割以上が降伏を唱えています。劉備は、是が非でも交戦するでしょうが」


「必ず、孫権も動く。黄祖の戦で、勝利の味を覚えてしまった。あの若き男が、沸く孫家の血を抑えきれるはずがない」


「僕は、何をすれば」


「……やはり賢いな。いや、目敏いとでも言うべきか」


「単純に、劉備に会いに行け、というのはやはり不自然に思えまして」


 親父は笑いながら、髪のない頭をペチペチたたく。

 視線はまだ、庭の方に向いていた。


「交州は、先祖が住んできた場所で、天下でも稀なほど平和で、文化の入り混じった独特の地だ。俺は、この交州を愛おしく思っている。誰にも、渡したくないほどに」


「親父がこの交州を豊かにした、それは民の皆がそう答えるでしょう」


「大したことはしていない。豊かなのは民による力だ、そしてそれを守るのが、我が一族の役目だ」


 ようやく、視線が僕の方を向く。

 いつになく真剣な目であった。


「交州を、そして一族を守る為には、この戦で曹操に勝たせてはならん。天下が定まることなく鼎立ていりつし続ければ、交州はこのまま平和にあり続けられる」


「はい。承知してます。交州は、弱き土地ゆえに」


「この戦、十中八九、曹操の勝ちだ。器も、勢いも、兵力も、全てが上だ。しかし、戦に必然はあり得ぬ、そうだな?」


「故に袁紹は、曹操に敗れました」


「そうだ。お前には劉備を、そしてその天下の合戦を見てきてほしい。そしてその様子をこちらに伝えよ。十中の二か一を、こちらに引き寄せる。その裏工作を、この手でやって見せよう」


 これが、この親父なりの戦である。それが今、理解できた。

 もしバレてしまえば曹操に弱みをさらしてしまうことになる。

 まさに、僅かな可能性に賭けた「戦」だ。


「曹操は、天下を席巻する程の英傑です。裏工作も、簡単に通じる相手ではないでしょう」


「承知の上で、戦わねばならん。確かに曹操は英傑だ。しかし、この士燮も、負けてはないつもりでいる。戦は不得手なれど、戦だけが土地を守る訳ではない」


「分かりました。交州の為、天下の合戦をお伝え致します」


「おう、頼んだ」


 これが、交州を守り抜いてきた「妖怪」の意地なのだ。

 怪しく笑う親父に、僕は頭を下げる。


「お体にお気をつけて。もう、若くはないのですから」


「なに、心配はいらん。お前も自分の身を労われよ」



 これが、交州を発つ前に交わした、僕と親父の最後の会話であった。



いくら頭を下げようと、いくら周囲に侮られようと、決して譲れないものがある。

士燮の場合、それが交州と、一族の未来である、ということですね。


果たしてこの戦の行方は、どう転ぶのか。

天下をどう動かすのか。



さて次回は、劉備第一の臣下「麋竺」が登場します!


面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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