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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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44話 戦場の生き方


 その報は、すぐに交州にも届いた。


 孫権率いる江東の軍勢が、ついに長年の仇敵であった、黄祖を討った、と。


 届けられる戦況報告は、孫権軍の鮮やかすぎる戦運びを知らせるものばかり。

 黄祖配下の水軍都督「陳就ちんしゅう」は、孫権軍の水軍先鋒であった「呂蒙りょもう」に斬られるという大敗北。

 直接、黄祖が守っていた江夏城も、陸軍先鋒であった「淩統りょうとう」の猛攻で、一瞬にして落ちた。


 水陸で大敗を喫した黄祖は身一つで落ち延びたが、やがて追っ手に捕まり、その場で斬られたらしい。

 黄祖と言えば、荊州軍閥の中でも最も実力の高い将であった。決して、弱い将ではなかった。

 つまり、孫権軍があまりにも強かったのだ。孫策亡き今でも、烈火の如く江東を飲み込んだ精兵の命脈は、確実に引き継がれている。


 劉表はその一報に恐れおののき、劉備の進言に従い、自分の長子である「劉琦りゅうき」を「夏口かこう」に派遣。

 江夏郡を奪い返すことは諦め、放棄。夏口を固め、これ以上の進行を防ぐという策を取った。

 孫権もまた黄祖を討つという名分を果たしたので、そのまま呉郡へと帰還し、鮮やかなまでの戦は終結する。


「曹操の動きは?」


「特に、戦に関する動きはありません。河北の平定も落ち着き、曹操は丞相の位に任命されました。ただ、荊州は大きく揺れています」


「大きく? 詳しく聞かせてくれ」


 魯陰は報告書を一枚懐から取り出し、僕に差し出す。

 それは、現在の荊州内部の対立抗争についての内容が記されていた。


「地元勢力と、外部勢力の対立の激化です。そしてこれは言わば、曹操に恭順するか、否かといった構図になっています」


 外部勢力は言わば、曹操に追われて荊州に来たものが多い。劉備のように。

 だからこそ曹操に従うのを良しとしない。それに、劉表の意思もどちらかと言えばそちらにあるらしい。

 まぁ、劉表も朝廷から荊州に派遣された人間なだけに、自立の意志が強いのだろう。


 ただ、今の天下の趨勢を見れば曹操の天下であるも同然。

 孫権に土地を奪われるくらいなら、曹操に庇護を求めた方が良いとするのが地元勢力だ。

 守るべきものがある勢力なだけに、不要で勝ち目の薄い戦を嫌うのは当然だろう。


「恐らく、曹操が積極的に工作を仕掛け、蔡瑁を援護しています。戦わずして利を得る、そういう段階なのでしょう」


「劉表はもう抑えきれないか」


「いよいよ病が篤い為、曹操の工作に気づいていてもそれに対処できる力はなく、いっそ劉備に軍事権を委ねようかと小言を漏らした、とまで」


 軍を動かさず、謀略を徹底する。恐らく、いざという時の、劉備の逃げ道を消す為だ。

 しかし劉備もそれが分かっているのか、政争に加わらず、徳の将軍を演じ、確たる地盤を形成しつつあった。

 特に劉琦などは劉備を父のように慕っているらしく、これに関しては劉備の方が一枚上手と言ったところか。


 それにしても、まだ進軍の準備もしていない、という曹操の動きも不気味だ。

 これは恐らく、郭嘉を生かす方向に進んだせい、というのもあるだろう。


「分かった、ありがとう。引き続きよろしく」


「承知しました」


 天下分け目の合戦は、果たして。

 僕の予想もつかない所に、時代が流れて行っているような気がした。





 目の前には、少し不機嫌な親父。

 僕は固い床の上で正座をさせられていた。足が痛い。


 親父が言うのは、呉巨の件であった。


「結果としては良かった。だが、一歩間違えば死んでいた。呉巨ごときに命を張るな。あいつ一人で交州が保てるなら、差し出せばよかったのだ」


「しかし……」


「黙っとれい。おかげで歩隲に警戒されておるわ。全く、孫権の小僧め、憎い人事をする。はぁ……お前はこういうところが危うい。切れ味の鋭い剣を使うくせ、その切れ味の危うさをまるで分かっとらん」


「申し訳、ありません」


「若いから分からんだろうな。良いか? 正論だけで人は動かん。正論を振りかざすな。愚を演じよ。あの場で呉巨を助けたくば、みっともなく泣いておけばよかったのだ。それで斬られればそれまでよ」


 この説教は、流石に身に染みた。

 交州を保ってきた親父だからこそ、言える言葉だろう。


 孫子にもある。自分の真意を明かさず、敵に悟られてはならない、と。

 まさに「虚実」の心得である。敵を欺けば、こちらのペースで戦いを進めることが出来る。

 戦いだけでない、外交、さらには対人においてもまさにそうだ。


「年端のいかぬ小僧が出過ぎた真似をして功績を上げたという話は、未だかつて聞いたことがない。とにかく、勉学に励み、経験を積むのだ。交州を担える人材となれ、お前にはその義務がある」


「承知しました」


「ふむ、そうじゃな……これも良い機会やもしれん。うんうん」


 親父は何やら、名案だとでも言わんばかりに、何度も頷いている。

 大体こういう時は、あまりいいことは起きない。それは知ってる。


「そういえば今度、劉備配下の麋竺の使者がここに来る」


「はい、兄上から聞きました」


「お前はそれについていき、劉備という男がどんな男か見てくると良い」


「……へ?」


「勿論、身分を偽ってだぞ。そうだな、あぁ、雷氏の商家は北方と繋がりを持ってる。麋竺も知ってるだろう。お前は雷氏の人間として、劉備に会ってこい」


「し、しかし今、荊州の情勢は極めて不安定で」


「知っとる。だからこそ行くんじゃないか。交州は平和であり過ぎた。戦を知らん。だからこそ、戦場で生き抜いてきたあの男に会う、それに大きな意味がある」


「えぇ……」



 えぇ……?




平和に慣れた小僧が、乱世の申し子たる英傑に会いに行く。

そんな妖怪の突拍子のない提案に、シキはただ戸惑うばかり。


はてさて、この出会いが天下にどう関わっていくのか。



では次回は、お世話になる雷氏との会話、及び妖怪の企みについてです。


面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公、張飛の傍にいったら血の臭いで倒れるんじゃないか
[一言] 劉備の金庫ビジク登場ですか彼は下には優しくウ上には傲慢な人のせいで呉に亡命するという裏切り者扱いの可哀想な方ですよね
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