表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/102

42話 新たな主


 シキン兄上は孫家へと仕えることとなり、それと入れ替わるように、孫家から二人の将が交州へと赴任した。

 五千の兵を率い蒼梧郡へ赴任したのは「歩隲ほしつ」将軍。

 そして、僅かばかりの家人を率いて鬱林郡へ赴任したのは「陸績りくせき」さん。


 正式にこの日より、交州の主は親父ではなくなった。

 親父は交趾郡の太守となり、交州全体を治める刺史となったのは歩隲将軍となる。


 まぁ、とはいえ名目上の話だ。

 ただの印綬ひとつで地位が揺らぐほど、親父がこの地に張った根は浅くはない。

 史実でも、親父は生涯この交州の実質上の主として生きた。


 つまり、歩隲はただの抑えだ。

 異民族の慰撫で功績を上げていても、士家の力なくばこの地を治めることは不可能だろう。


「確かに、前に見た。シキ殿、であるな」


「如何にも。シショウが三男、シキで御座います。以後、お見知りおきを」


「今は、我が交趾の郡治補佐を行わせております」


 歩隲が蒼梧郡へと赴任すると、僕はすぐさまこの地に訪れ、挨拶をした。

 シシ兄上、シイツ叔父上との面会はまた後日になるらしく、現地の士家の者としては僕が最初になる。


 体の線が細く、やけに背の高い将軍だった。それに、軍人特有の重厚な威圧に、押し潰されそうな思いがした。

 これから長いことこの人と上手くやっていかないといけないと思うと、少しだけ気が滅入る。


「以後、孫家へ忠誠を誓うように。あぁ、それと、ひとつ良いか? シショウ殿。やっておかねばならんことがある」


「はい、なんなりと」


「呉巨の処遇だ。アレは貴殿へ降伏した時、この地の物資を全てそちらへ移した。後に孫家に譲られると分かっていながら、だ。その罪を問う」


「されど、その分の兵糧は全て供出いたしましたぞ? 勿論、上乗せを加えたうえで」


「だから士家は処罰に問わん。呉巨の態度が、問題だと言っている。即刻アレの首をはねよ。出来ぬというなら我が軍でもって一戦を交えよう」


「お、お待ちくだされっ。それはあまりにも、急で、酷な話で御座る」


 なるほど、歩隲とはこういう人間なのか。

 どうして孫権がこの人間をこちらへ寄越したのか、それが分かった。


 まさに任務に忠実な、軍人らしい軍人。竹を割ったような性格とでもいうべきか。

 歩隲自身もきっとそれを分かっているからこそ、敢えて態度を硬化させ、こちらに揺さぶりをかけている。


 呉巨は最近こちらに降った男で、正直なところ、その性格には汚いところが多い。

 しかし、交州が持てる軍事力はこの男への比重が現時点で多いのは事実で、降伏した男をすぐに言いなりとなって処刑すれば、交州の自治権の定義も揺らぐ。

 できれば、可能な限り歩隲の干渉を最小限に収めたい。


「進言を、良いですか。将軍」


「シキ殿か。まさか、貴殿は孫家の軍規に異を唱える、そういうつもりではないだろうな?」


「いえ、将軍に国家の基盤、統治者の理というものを教えていただきたく、一つ、質問をさせていただきたい」


「詭弁が得意な者の話を聞けと?」


「簡単な質問です。かつて中華を統一した王朝は二つあります。それは、秦と、漢です。さて、どちらの国家が優れていたとお思いですか?」


「無論、漢だ。今なお、朝廷の威光は輝きながら、曹操の手中で殺されかけておる」


「なるほど。では、秦よりも漢の、何が優れていたのでしょう」


「……要件を言え」


「秦は、厳しき法治により滅び、漢は、緩やかな法治により栄えました。将軍が今からなさろうとしているのは、秦の法治です」


「なんだと?」


「呉巨殿は孫家への反発ではなく、降伏する相手に対して道理を果たしたのです。道理が通っている証拠に、損が生じていません。兵糧が少しでも、減りましたでしょうや?」


「相変わらず、弁の立つ小僧だ。されど、軍規は軍規だ。例外は許されん」


「軍規は、戦時においては兵の士気を緩めない為に必要です。されど、交州に戦はありません。戦のない土地で民は、誰を警戒し、気を引き締めればよろしいのでしょう?」


 歩隲の鋭く、細い目が僕を正面に捉える。

 きっと、目をそらせば斬られるだろう。ならば、こちらもそこから逃れるようなことはしない。


 少し時間が過ぎたとき、地面を強く、カツカツと叩く音が響く。


「将軍、いえ、刺史殿よ、そのあたりにされよ。道理はシキ殿にある。これ以上は貴殿の名を汚しますぞ」


 助け舟を出してくれたのは、陸績さんであった。

 彼は柔らかに僕へ微笑み、歩隲へキッと睨みを利かせる。


「それとも、私の方から孫権様へ処罰の是非を問いましょうか? 議会でどちらに非があるか、それを審議していただいてもよろしいが」


「……その必要はない。呉巨の件は、不問とする。しかし一度、私の前に出せ。意図だけは聞いておく必要がある」


「それでよろしいかな? シショウ殿」


「はい。早速、シイツと共にこちらへ呉巨を呼びましょう」


 ほっと、胸を撫で下ろす。

 後でちゃんと、陸績さんにはお礼を言っておかねば。


 正直、助かった。

 死ぬか思った。




おかげさまで、こちらの話で10万字を突破しました。

ありがとうございます!


少しお知らせなのですが、この話を区切りに数日間、更新をお休みさせていただきます。

ちょいと伸び悩んでいるというか、方向性を変えないとなと思っていまして、構成を練り直すためのお休みです。


とはいえ一週間も休む、ということはないと思いますので近いうちに毎日更新は再開しますよ!


そちらの報告は、追って「活動報告」「Twitter」等でお知らせしたいとも思ってますので、お気に入り登録など、気が向けばぜひ(;´∀`)



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誤字ですが、あとがきなのでここに記載します。 おかげさまで、こちらの話で10万時を突破しました。 →10万字? 急いでいたんですかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ