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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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41話 多き悩み


「どうだ? 魯陰。シカンとシキョウ従兄から何か、変わった様子などは聞いているか?」


 魯陰は、首を振った。

 息を吐き、地図に目を落とす。


 少しずつだが、やはり歴史が変わり始めている。


 孫権はついに、黄祖打倒の為に兵を挙げた。

 史実通りであれば、この戦で黄祖は討たれる。そして、劉琦が黄祖の後任に就き、実質、荊州の跡継ぎは劉琮になるはずだ。

 あと少しで劉表は没し、時を同じくして、曹操は自ら荊州攻略の兵を率いるはず。


「しかし……曹操に、兵を挙げる気配がない。やはり北方の袁煕が気がかりになってるんだろうな。そうなると、赤壁は、どうなる?」


 曹操は河北を平定した後、すぐに荊州攻略を行うはずであった。

 しかし、動かない。袁煕への抑えには、夏侯惇を残しているとか。

 連戦の疲れを癒すように。今まで戦い続けてきた覇王が、不気味に腰を据えている。


「聞けば、重用している軍師の郭嘉が病であり、それを深く案じていると」


 確かに、曹操は郭嘉を重用している。

 河北平定の最中に倒れた郭嘉の墓前で、曹操が嘆き悲しんだという逸話は有名だ。


「いや、いくら重用していようと天下統一を目前に、一人の臣下の為に時勢を見誤る男じゃないはずだ」


 このまま膠着してくれれば、赤壁を経る間もなく天下の情勢に動きは無くなる。

 そうなれば、交州としては嬉しい。士家一族の価値をまだまだ活かすことが出来るからだ。


「時間がかかるなら……その間に、異民族の懐柔、孫家の名士との交流、朝廷との関係強化、色々と出来ることは増える」


「シキ様は、他の群雄と同じように、天下を、治めるおつもりで?」


「ん?」


 魯陰が僕を見つめるその瞳は、いつものように感情が読めない。

 でも、まぁ、いっか。だからこそこうして、色んな相談が出来るんだから。


「まさか。僕は、人の血を見ることが出来ない。この中華の片隅で、何とか一族を守っていく方法を、暗中模索するだけさ」


「すいません。おかしなことをお聞きしました」


「ただ、天下を統一するよりも、交州と一族を守り続ける事の方が案外難しいかもね。親父は、本当に凄い人だよ」





 慌ただしく、シキン兄上と親父を見送ったシシ兄上。

 これからシシ兄は、交州を治める中心の郡「南海郡」を治めることとなる。


 というのになぜか、今、シシ兄はこの交趾郡へと訪れていた。


「急にどうなされたのですか?」


 湯気の立つお茶を入れ、シシ兄の前に差し出す。

 兄上は、その丸々とした顔を綻ばせ、ゆっくりと啜った。


「いや、なに。父上には言っておいたのだが、お前にも伝えておこうと思ってな。というのも、近いうちにとある客人が来る」


「客人? 確かに、聞いてない話ですが」


 聞いていない、というよりは、貿易に関する商家の客人なら毎日のようにひっきりなしに訪れる。

 だからこうして意識することもないんだけど、兄上が直々に口に出すということは、商家、というわけでもなさそうだ。


「話すと少し回りくどいのだが、とにかく、来るのは徐州の家、といえば分かるか?」


「……まさか、あの、麋竺びじくですか?」


「そうだ。そこの一族の手の者が来る」


 徐州で莫大な資産を持っていたとされる豪族「」氏。現在の当主「麋竺びじく」。

 何を隠そう、あの劉備の第一の配下として有名だ。文官筆頭と言っていい。


 劉備が徐州を陶謙とうけんから継いだのも、この豪族の後押しが大きかったとされる。

 それに、劉備が曹操や呂布に追われた時も資財を投げ売って助け、彼の協力がなければ劉備は今頃、山賊に成り果てるしかなかっただろう。


 何故、この劉備配下第一の使いが、交州に訪れるのか。

 少し話すと複雑になるが、劉備はもともと、荊州において曹操との決戦に敗れた際、交州の呉巨の下へ身を寄せようと考えていた。

 しかし今、呉巨は親父に降伏。その地盤を失った。


 だからこそ、万が一の為によしみを通じておこうと、使いの者を送ってきた、という流れらしい。


「親父は、使者を出迎えるくらいなら別に構わないと言ってた。ただ、その真意が俺には読めん。あまり、好ましく思ってはいないのだろうか?」


「まぁ、今この交州は、曹操と孫権に従属している形です。劉備といえば、曹操の最も憎む相手であり、劉表の勢力下の将なので、孫権にも睨まれるでしょう。それを危惧してるんじゃないかな、と」


「なるほど、それなら合点がいった。では、追い返した方が良いか?」


「いや、従属したとはいえ自治権は親父にあるから、そこまで気を使う必要もないでしょう。多少の交流ならば大丈夫、しかし、受け入れとなると話は別、と考えてると思いますよ」


「度々、この交州が天下の辺境で、小さな勢力に過ぎないのだと、忘れそうになる。財だけでなく、兵も人も土地も合わせ、勢力か」


 胸のつかえがとれたように、兄上は笑う。

 シカン兄上が居ない今、交州の代表は今やこの人だ。

 まだまだ、僕らは長兄の様なバランス感覚は持ち合わせていない。悩むことも、多い。



「そういえばシキ、最近はあの商家のヤツと一緒に居ないんだな」


「あぁ、雷華ですか。度々来てはくれますが、生憎、僕が忙しいので、以前の様には会えていませんね」


「しかし不思議だよな、あの家には別に美形の人間はいない。ヤツだけがあまりにも美形すぎる。養子なのか? 聞いてはないのか?」


「いや、そういう話は、とくに」


「そうか、少し興味があるな。あの人相だと、どこかの高貴な令嬢に違いないのだが」


 兄上はそういって、重い腰を上げた。

 すでに器の茶は飲み干しているようだ。


「馳走になった。じゃあ、俺はこれで」


「お気をつけて」



 ……あれ?

 なにか、さっき、兄上、結構重要なこと言ってなかったか?


 雷華が、令嬢?



「聞き間違いかな?」




実際、赤壁で劉備が負けて曹操に追われて交州に入っていたら、どうなってたんでしょう。

まぁ、呉巨の客とはいえ、士家に十中八九捕らえられて曹操に送られてたでしょうね。

士家もそれで、曹操に恩を売ることできますし(笑)


次回は、ついに歩隲と陸績が交州に赴任。

史実では呉巨は歩隲に斬られているが、はたして、どうなることやら。



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 郭嘉が死ななければ死なないで彼は不真面目な態度でも有名なので早々陣営な真面目な参謀の人達は面白くないかもしれませぬな。 そうなるとますます史実とこれからは外れていきそうです。
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