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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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40話 稀代の謀略家


 交州のシショウ政権は、争いを起こすことなく、謀略によって蒼梧郡と鬱林郡を手に入れた。

 その手並みは孫権でも唸るほどの鮮やかさであり、損というものが全くない、そういう謀略であった。

 証拠はないが、蔡瑁と呉巨らの確執はシショウが煽ったものだろう。

 その推測に至ったのも、つい先日、張昭ちょうしょうと言葉を交わしている時の事である。


 孫権は今日も文武百官の前に姿を現し、上座に腰を下ろす。

 隣に侍るのは、いつものように、文官の長「張昭」である。

 軍人を隣に置かないのは、議会の場では武官より文官の意見を重んじる、そういった意味を暗に伝える為だった。


「先日、周瑜が山越の賊を下し、千余りの捕虜を得た。程普ていふよ、今の我が軍の士気はどれほどだ」


 武官のもっとも上座に腰を据えるのは、父以来の宿将「程普ていふ」である。

 軍人としての位は周瑜よりも上で、周瑜が前線指揮官だとすれば、程普は全軍の長であった。

 老いてなお盛んな闘志を胸に秘める猛将であり、張昭と同じく、父のように慕っていた。


「申し上げます。孫家の兵は皆、天を貫かんばかりに士気を上げ、黄祖の首を取らんと燃えております」


「勝てるか?」


「勿論。今度こそ、必ず首級を上げることが叶いましょう」


「分かった。周瑜からも同じ進言が届いている。ならば、いましばらく待て。兵の士気を抑え、静かに、凛として戦に備えよ。時機を見て私自身で進軍を命じる。それを待て」


「御意」


「魯粛!」


「ハッ」


「お前は前線へ向かい、周瑜の指揮下に入れ。曹操の動向も見極めろ。お前の言で進軍の時期を測る」


「承知しました」


 皆、仇敵である黄祖を討つことに燃えている。

 いつもは戦時を嫌がる文官ですら、血が滾っていた。

 これならば成功するだろう。孫権は確信に近い思いを抱き、息を吐く。



 思考が切り替わる。次の議題だ。


「交州の報告を聞いているな? シショウが二郡を取り、約束通りこちらへと献上した。まだ、あの政権を心から信用したわけではない。その為、その二郡に抑えを置きたい」


 一同が一瞬、視線を下におろす。

 まぁ、それはそうだろう。交州は平和といえ、辺境だ。

 異民族が入り交ざり、独特の文化を形成する、いわば異国にも近い。


歩隲ほしつ!」


「ここに」


 歩み出たのは、武官の中でも末の方に並んでいた将であった。

 体は細く、長い。しかしその体から放つ重厚な威圧は、まさしく武官に相応しいといえるだろう。


 戦乱から逃れて江東へ移り住み、貧しい家の為、瓜を売った僅かな金で生計を立てていた過去を持つ。

 しかしその苦境にめげることなく、夜は勉学に励み、一角ひとかどの人間としての才覚を現し始めた。

 その後、孫権に見いだされ、山越族の討伐や統治を任され結果を出してきた男である。


「お前を、交州刺史に任じる。蒼梧郡に赴き、交州を治めよ。シショウが刺史の印綬を渡さなければ、有無を言わさず斬り捨てよ」


「承知しました」


 周囲がどよめく。抜擢といっていい。

 しかし、この男なら可能だろう。誰もがそう思ったのか、異論は一つも出なかった。


「あとは、鬱林郡、か……」


 交州の中でも最も辺境だと言っていい。土地のほとんどが山岳であり、領民のほとんどが少数部族。

 あのシショウも、呉巨も、半ば統治を放棄していた土地だ。


陸績りくせき、前に」


 鋭く、輝くような才気を放つ、青年が前に進み出る。

 杖をついているからか、どこかその足取りは重い。


「鬱林の太守に加えて、偏将軍に任じる。歩隲を補佐せよ」


「恐れながら、私は文官です。兵を率いたことなどありません。私にはその任は重いと考えます」


「分かっている。別に戦場に出ろというわけではない。治めよ、といっている」


 陸績は救いの目を張昭に向けるが、張昭は苦く眉を歪め、首を振る。

 役職だけ見れば大きな昇進だが、言ってみれば体の良い左遷であった。

 それも、孫権の皮肉が存分に込められた。


 名門「陸」氏の本拠である呉郡から離れ、学者であり文官である自分に兵を率いろと言う。

 加えて歩隲という成り上がりの武官の下に付けと。そこまでして自分が憎いのか。

 震える拳を必死に抑え、陸績は絞り出すように「承知しました」と答えた。



「報告! 交州より、シショウ殿、シキン殿がお見えになられました!」


「わかった。ここに通せ」


「はっ!」


 伝令兵と共に、将軍府へと足を踏み入れるのは、背の低い老人だった。

 その後ろに、彼の長子であるシキンが並ぶ。


「シショウ、並びに我が長子であるシキンが、孫権将軍へ拝謁いたします」


 孫権は椅子を立ち上がり、自らの手でシショウの体を起こす。


「貴殿を待っていた。先日の届けられた、兵糧、財宝、そして何よりも駿馬の数々。私はいたく感動した。貴殿を陣営に招けたことは、孫家の何よりの誉れだ」


「勿体なきお言葉。駿馬は、南蛮の地方から密かに取り寄せました」


「ほぅ、南海貿易だけでなく、西南にも貿易の道を持つのか。流石だな。あぁ、そうだ、此度新たに交州刺史に任じた歩隲だ、お見知りおきを」


 長身の武人は、浅く礼をする。

 シショウはにこやかに笑い、歩隲の目の前で地に膝をつき頭を下げて見せる。


「歩隲殿、これより交州を御頼み申す」


 何の惜しげもなく手渡されたのは、交州刺史の印綬である。

 これには群臣も、歩隲も、孫権でさえ驚き、誰もすぐには言葉を出せないでいた。

 ただ、にこやかにシショウと、シキンが微笑むのみ。


「い、いや、これはめでたい! シショウ殿、これより我らが孫家をどうか支えてくだされ! 酒宴を開くぞ! 皆、用意せよ!」


 孫権はシショウの手を取り、大げさに歓迎の意を示す。

 握手を交わした、稀代の謀略家である二人の手のひらは、ひどく乾ききっていた。



始まりました、第三章。

黄祖の討伐から、この章はスタートします。


そして、孫権と士燮。怪しきこの二人がついに、相対しましたね。

さてさて、この面会が交州にどのように働きかけるのか。


次回は、変わりつつある歴史に、シキが頭を悩ませます。

あと、他の事にも少し、頭を悩ませます。うーん、ヒロインの予感?(笑)


明日から再び、一日一話更新となります!


面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんと言うかこう、自分から攻め込んで返り討ちに会っといて それを孫家の仇敵!みたいに言われても黄祖としてはたまらんよね。
[一言] 陸績をうまく使えなかったりしたこういうあたりが孫権の限界だったんじゃないかって思いますね。 まあ孫権がだめっていうわけじゃなく、良い人材だったら積極的に登用、活用する人材マニアの曹操のほうが…
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