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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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前日談② 臥竜の下山


「すまないな……劉備殿。貴殿の進言を容れていれば、今頃、曹操を討ち取れていたものを」


「今は乱世です。再び好機は巡ってきましょう。その時に、同じ後悔をされないようにしてくだされ」


 あれほど大きかった劉表の体は日に日に痩せている。

 声も力も弱々しいが、その瞳の奥にある猜疑心の光は、まだ衰えてはいない。

 いや、老いてむしろその色は強くなり、判断力を鈍らせているようにも思えた。


「では、私はこれにて」


「うむ。曹操の手からこの地を守れるのは、貴殿だけだ。後を宜しく頼むぞ」


 再び会うことはないだろう。

 そう思って劉備は頭を下げ、寝室を出た。


「散々あった好機を全て手放しておいて、いっちょ前に後悔してるような顔をして。それでいて、俺を殺す度胸もない、ってか」


 外に出ると、一人の若き文官がふわりと頭を下げる。

 服は貧しく手直しの跡があちこちに見え、正直なところ、見ていて気持ちがいいものではない。


「如何でしたか、殿。劉表殿の容体は」


「馬を走らせながら語ろう」


 この二十を過ぎたばかりの男は、名を「諸葛亮しょかつりょう」といった。

 劉表が出兵の許可を出してくれなかった間、徐庶からの推薦でこの男を軍師として招いた。

 ただ、よほど偏屈なのか、わざわざ三度もこの男の屋敷まで劉備自ら出向き、それでもなお渋るので、無理やり張飛が引きずり出した。


 しかし、その労力の甲斐があったほど、その頭脳は明晰で隙が無く、荊州の名士達の間でも顔が広い。

 能吏として、まさに一代の英傑と呼ぶにふさわしい人材であった。少し、性格に難はあるが。



「劉表は駄目だな。群雄としての気概はもうない」


「なるほど。それは良い知らせです。では、劉琦りゅうき殿には黄祖殿が孫権に殺されたとき、後任として江夏太守に向かってもらうよう進言しましょう」


「前から言ってるが、何故だ? 後継の旗印として担ぐなら、劉琦殿はこっちに留めとくべきだろ」


 劉備がそう言うと、諸葛亮は呆れるようにやれやれと溜息を吐く。

 こういう軍人を舐めた態度を取るから、関羽、張飛に嫌われるのだ。徐庶を見習え。

 と、心の内でつぶやいた。


「何を言ってるんですか。殿が、荊州を継ぐのです。その時に劉琦殿は邪魔でしょう? 殿が蔡瑁を討ち、荊州を取り、曹操に抗する。これが上策です」


「……んなこと急に言われてもなぁ」


「何の為に『徳の将軍』という仮面を被り、民の心を掴んで来られたのです!? 全ては荊州を奪い、あの曹操を、憎き曹操を討ち滅ぼす為でしょう!?」


「蔡瑁も馬鹿じゃない。それに、領土の統治は難しい。徐州で痛いほど経験してる。他の策を考えろ」


「殿は憎くないのですか!? 徐州大虐殺が、故郷が血に染まったあの日が、私は気も狂わんばかりに憎い!!」


「いや、戦争ってそういうもんだぞ? あれはちょっとやり過ぎだけど」


「折角、私は殿を天下人にしようと……なんで分かってくれないのですかぁあ!!」


 諸葛亮は涙を流しながら、馬を全速力で走らせた。

 若気の至りというか、文官の悪い気質というか。まだまだ磨く余地のある原石だろう。


「一回、死地を経験させた方が良いな。アレは。殺されかければ、ちょっとはマシになるだろう」



 臥竜は未だ、伏したままである。




本日二度目の更新。明日もこの調子で頑張ります。


さて、ついに現れた「諸葛亮」ですが、いやはや、何とも言えない若さゆえの才気の走り。

この原石をはたしてどのように劉備は磨いていくのか(*'▽')


どこでも諸葛亮って完璧な感じのキャラしてるから、ちょっと崩してみたくなった。僕もそういうお年頃なのです(ぇ


さて、次回も前日談です。次回まで、前日談です。

宿敵「黄祖」討伐を前にした孫権と、孫呉随一の大都督であるイケメンのお話。



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >臥龍は未だ、臥したままである ちょっと名文過ぎませんか?! ただ、最初の「臥」とって 「龍は未だ、臥したままである」の方がすっきりするかなとも思ったのですが、やっぱり「臥龍」って文節…
[一言] なるほど。 諸葛亮の曹操憎しが策の原動力というのはすごくうまいと思います。 それが北伐にこだわりすぎる原因にもなりそうですが。
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