前日談① 覇王の血脈
「報告! 報告!」
「何だっ」
「夏侯淵将軍の部隊が、袁尚を追撃! 見事、討ち取ったとのこと! また、袁家の持つ大将軍の斧鉞も押収しました!」
「よし! よくやった! すぐに夏侯淵を呼べ!」
「ハッ!」
袁尚掃討戦は、終始優勢に事を運べた戦いであった。
報告通りに袁煕は後方へ退き、袁尚の勢力は僅かでしかなく、彼は高幹との合流を急いだ。
しかしそれを曹操が許すはずもなく、行く先々で戦を繰り返し、それを討ち取るにまで至った。
ただ、袁尚もよく逃げた為に、損耗は少ないものの時間は予想以上にかかっていた。
「よしよし、これで袁譚も袁尚も倒した。事実上の袁家勢力の滅亡だろう。しかし、どうも袁煕が気になる。袁紹の庶子だからとて、子であることには変わりない。出来れば殺したいが……」
袁煕の妻「シン氏」を奪ったのは、曹操の息子の曹丕である。
文武に秀でた非凡な息子であるが、どこか性格に暗いところがあり、曹操はこの息子を愛せなかった。
現在、この河北平定にも曹丕は参戦しており、奪った女の旦那が生きているのは気に入らないらしい。
袁煕の首を最も強く望んでいるのが自分の息子であるだけに、何らかの対処は必要だった。
本来であれば、袁煕に逆らう気が無ければ手打ちにしても良い頃合いではあるのだが。
こういう執着心がどこか自分と似ており、自分の嫌な面を鏡に映されたようで、不愉快でもある。
曹操は駆け足で幕舎を出て、弾むような足で後方にある軍営へと直接足を運ぶ。
「郭嘉よ! 袁尚を討った! これで危地は脱したぞ!」
「おめでとう、ございます」
横になっているのは、顔面蒼白な郭嘉であった。
ここ数日で病に倒れ、一向に回復しないと聞いている。
吉報があればきっと容体もよくなると思い、曹操も足を急がせたのだ。
「では、次は、袁煕です。公孫康ごと、一気に、滅ぼしてくだされ」
先日、袁煕は恭順を伝える使者を送り、貢物、官位の返還、軍の解体を約束している。
攻めれば容易く滅ぼせるが、ここまでされて首を出せとも言いにくい。
「戦はもう良い。逼塞した庶子に力はない。抵抗しないものを討てば天下に示しが立たん。ここは抑えを残し、都へ帰るぞ」
「袁煕が軍を放棄しても、烏桓の協力者が多い。それに今討たねば、将来に、禍根を残します」
恐らく、曹丕の事を言ってるのだろう。
それは分かっていた。しかし、まだ後継を曹丕としたわけでもない。
「もはやいつでも討てる。それより今は、お前を失いたくない。療養してくれ。お前には、荀彧の後を担ってもらわねばならん」
「……斯様に温情の言葉を受けてしまえば、何も言い返せませぬ。終生、殿へ忠誠を尽くす所存」
「よし、では帰ろう。すぐに華佗を呼び戻す。病もきっと良くなるであろう」
曹操は本軍を引き返し高幹討伐へ直行、郭嘉を別途、都へ送った。
徐州、青州方面も、夏侯淵の援軍を送ったので、すぐに片付くだろう。
こうして、河北平定は一つの小さな禍根を残し、終結した。
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読者の皆様のおかげです。本当に、心から感謝しております。
三章に入る前に、こうして一つ、大台に乗れたことに気の引き締まる思いです。
どうぞ、これからもお付き合いいただけますと幸いです!
あ、今日の夜にもまた、一本上がります。
次回のタイトルは「臥竜の下山」です。ついに、英雄が揃い踏みですな(*'▽')
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それではまた次回。




