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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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38話 天下のうねり


 それから、数日の出来事であった。


 蒼梧郡に赴任していた、呉巨、頼恭の二名は、シショウ政権へ降った。

 領地に居る複数名の豪族の嘆願によって腰を上げた形だが、これも、非公式に訪れたシキの説得が功を奏したのは明らかであった。


 武装を解き、多数の兵と従者を連れたまま、呉巨と頼恭は南海郡へ出仕。

 事前にその報を聞いていた士燮は、着の身のまま、苦手な馬に跨ってまで南海郡へ向かったという話は広く伝わった。



「我ら一同、蒼梧郡、鬱林郡をシショウ様へ差し出し、降伏いたします」


「何をおっしゃられる、将軍、それに頼恭殿も、どうかお立ち下され。この老骨に、どうかお二人のお力をお貸しいただきたいと、こちらがこいねがうほどです」


 シショウはその顔のしわを歪め、涙を流しながら二人の手を取る。

 すると周囲の兵士や民も含め、大いに歓声を上げ、一晩中のお祭り騒ぎであったという。


「呉巨殿、頼恭殿、申し訳ないのじゃが、鬱林郡と蒼梧郡は孫家へと引き渡すことになる」


「えぇ、存じております」


「本来ならば一郡をお任せしたいところなのじゃが、既に先任がある状態でそれも難しい。されど要地や要職をお任せしたいとは思っておる。まぁ、その任が決定するまで、この交州をごゆるりと楽しまれよ。十分にお持て成し致しますぞ」


「本来ならば捕虜として然るべき我らに斯様な待遇を、ただただそのご好意を裏切らぬようにと、恐縮するばかり」


 呉巨は貼り付けたような笑顔を浮かべ、シショウは涙を拭いながら何度も頭を下げた。

 心から感動の涙を流していたのは、この場では頼恭のみであっただろう。





 北方の冷え込んだ気候と、吹きすさぶ北風が肌を鋭く突きさす。


 曹操はその小さな体に何重もの衣を羽織りながら、一人、河北平定の図を脳内に描いていた。

 頭痛が激しい。眉をしかめる。


 現在、とある人物の蜂起により、河北どころか西方の「関中」まで巻き込んだ大規模な反乱が起きている。

 それが、頭痛のタネである。


「やはり動いたか。しかし、嫌な時に、周到に動くものよ。流石ともいうべきか」


 余裕の笑みを浮かべながらも、実際の曹操軍は窮地であるともいえる。


 その蜂起した人物は「高幹こうかん」。河北四州の一つ、并州を治めていた男で、袁紹の甥でもある。

 一時は曹操に降った男であったが、今、追い詰めた「袁尚」の討伐を起こそうとした瞬間、曹操軍の後方で大規模な反旗を翻したのだ。


 今でもはっきりと思い出せる。

 あの野心に溢れた、不敵な鋭い瞳を。


 一応後方には厚い備えを残しておいたが、高幹は予想以上の規模での反乱を起こした。

 今は多方面に将軍を派遣しており、これ以上割ける余力は残っていない。



「失礼いたします」


「おぉ、郭嘉かくかよ。良いところに来た」


 冷えた目をした、まるで鋭すぎる刃を思わせる風貌。

 荀彧に次ぐ軍師として、曹操の厚い信望を得ている男である。


 戦の先々のみならず、天下の情勢まで見えているその瞳は、まるで天高く飛ぶタカのようだと曹操は思っていた。


「殿、やはり高幹の件ですか」


「そうだ。どうも困っていてな。今や四方を敵に囲まれておる。北方は袁尚と烏桓族が、西方は高幹と関中軍閥が、東方は徐州の者達や黄巾残党が、南方は劉備が。敵が多すぎる」


「どこか一つを突き崩せれば余力は出来ますが、敵にしてみればどこか一つを崩せばこちらの軍を瓦解できます」


「頭が痛くてたまらん」


「一番厄介なのは?」


「劉備だ」


 忌々し気に、そう吐き捨てる。

 官渡の戦いの時もそうだった。こちらの後方を散々にかき回し、兵を向ければ逃げた。

 思い返すだけで腸が煮えくり返るような思いがした。


「では、これより殿の頭痛のタネを取り除いて見せましょう」


「何?」


「まず、その劉備ですが、動きません。絶対にです」


「ほう」


「蔡瑁はこちらに通じており、彼が断固反対すれば劉表が許可を出しません。それに劉表も重篤、劉備は中々荊州を離れることは出来ません」


「そうか、蔡瑁を動かすか。よし、荀彧に早速命を出そう」


「そして徐州の蜂起は、劉備の帰還を願う蜂起です。劉備が動かないと分かれば、それほど大きな動きにはなりません。于禁うきん将軍に任せましょう」


「なるほど。では、次」


「青州の黄巾残党は、泰山たいざん太守の呂虔りょけん殿に。あの地の守備兵は精兵です。十分に対応可能かと」


「分かった、すぐに命じよう。次」


「高幹はそのまま、楽進がくしん将軍、李典りてん将軍に引き続き抑えを任せ、耐えてもらいます。関中軍閥は、伝手の多い長安のショウヨウ殿に任せましょう」


「そして、袁尚か」


「はい、ここは我々の本軍で迅速に潰し、幽州を平定します。北方を破れば、全方位に援軍を向けることが可能。そしてそれは難しくないでしょう」


 曹操はひとつ、ふたつ頷き、大きく伸びをした。

 その顔つきはいくらかすっきりしており、晴れやかなものである。


「袁尚は難しくないのか。幽州は袁煕の土地だ。攻略に難儀すると思っていたが」


「その袁煕ですが、袁尚と行動を共にせず、後方へと退きました。何か仲違いがあったのか、よく分かりませんが、こうなれば袁尚は敵にあらず。袁煕は遼東の公孫康の下へ身を寄せて、こちらに恭順の意を見せています」


「……どういうことだ? 親の仇を、自分の妻を奪った相手を前にして、それほどの腰抜けなのか? 何か、臭うな」


「ただ、幽州を放棄し、遼東にまで後退してしまえば、独力での反乱は意味を成しません。行動に、敵意が見えないのが現状です」


「そうか、ならばすぐに袁尚を殺せ。そして高幹を討つ……劉備が、動かぬうちに」


 今立てた算段も、結局は劉備が動けば全て崩壊する。

 どうにかして蔡瑁に抑え込んでもらう他はない。



「片付き次第、すぐに南方を、いや、劉備を討たなければ」



 天下が再び、大きくうねりだした。




今回は「曹操包囲網」に関するお話でした。

この時に劉備を動かせていれば、劉表にも天下取りの好機が巡ってきてたんじゃないかなぁ、なんて思いますね。


まぁ、そもそも劉表自身がそういった野心を持っていなかった、という話もありますし、劉備の増長を恐れたのかも、なんて。


うーむ、ただ、どうなんでしょう。劉備を恐れていたのか、信頼していたのか。

このどっちつかずな感じも、まさしく晩年の劉表らしいといえば、劉表らしい考えではありますが。



さて次回は、交州に降伏した呉巨と頼恭の処置についてのお話。

そろそろ第二章も佳境です。引き続きお付き合いの程、よろしくお願いします!


面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


皆様の応援が作者の活力です! もう少しで十万字を突破! 頑張るぞい!(ぁ


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黄巾党対策だけ説明がないのは何で?
[一言] 200年前後に劉表が動けなかったのは官渡の戦いその後しばらくはまだ劉表と不仲な張羨が長沙・零陵・桂陽の三郡ごと劉表に反旗を翻して抵抗し、彼の病死後は張羨の子張懌を立て、劉表に対して抵抗を続け…
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