表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/102

36話 退屈な劉


 頬に少し肉を蓄えた大柄の武人は、城壁に腰掛け、くぁと大欠伸をかます。

 荒野では自分の軍が激しくぶつかり合い、調練にもかかわらず、ちらほらと死人も出ているみたいだ。


「殿、調練で死人が出ております。戦ではなく、調練で死んでしまう兵が浮かばれません」


「まぁまぁ、軍師殿。あれがウチの調練なんだ。ここで死ぬ奴は、実戦では仲間の足を引っ張りながら死ぬ。それを避ける為の調練だ」


「はぁ……実戦に関しては、とやかく言うなと、そういうことですね。承知しましたよ」


「いやぁ、物分かりが良い軍師で助かる」


 痛快なほどに、口を開けてケタケタと笑うのは、この戦乱で一気に天へ駆けあがった英雄「劉備」である。

 彼の隣に立つのもまた大柄の武人ではあるが、格好は文官。名を「徐庶じょしょ」といった。


 城壁の下。騎兵と歩兵の混合の部隊が二つに分かれ、実戦さながらの動きを繰り返す。

 ぶつかり、突き抜け、削り、揉み上げる。

 どちらの部隊も恐ろしいほどの練度であり、何よりも先頭を駆ける武将が一際目立っている。


 片方を指揮するのは「張飛ちょうひ」、もう片方は「趙雲ちょううん」が指揮をしている。


 優勢なのは、張飛であった。


 最初のぶつかり合いで敵陣を大きく押し込み、一気に揉み上げて擦り潰す。

 しかし趙雲は、ギリギリのところでその突撃をいなしながら、張飛の隙を見て、別動隊で痛撃を食らわせていた。


「どうだ、軍師殿」


「張飛殿の威圧は凄まじいですが、策を扱う身として、趙雲殿の様な正確無比の用兵が私は好みです」


「はははっ! 確かに俺や張飛は、策など無視して、好機を見れば一瞬で喰らいついてしまうからな」


 劉備はその重たい腰を上げ、近くに立てていた一対の剣を腰に下げる。

 今まさに調練は終わったようで、張飛の怒鳴り声がここまで響いてきた。


「張飛には損な役回りをさせてるよ。でも、これも兵を殺さない為の訓練だ。ほんとは優しいやつだからこそ、あの役を任せてる」


「殿が一言、兵達の前で張飛殿を叱ってくだされ」


「分かってるさ。俺は『徳の将軍』だもんな?」


 城壁を下りて、劉備は首を鳴らす。

 その鈍い音を聞きながら、後ろを歩く徐庶は、劉備に声をかける。



「現在、南方に不穏な動きがあります。蔡瑁と呉巨殿、頼恭殿が対立していると」


「蔡瑁は馬鹿なんか? 内輪揉めしてどーする。目の前に孫権の軍が迫ってるというのに。このままだと、今度こそ黄祖こうそは討たれるぞ?」


「あの派閥は、自分の領地と一族を守ることが第一ですので」


「それで、何を揉めてるんだ?」


「蔡瑁は南方から兵を引き抜きたいと、しかし二人はそれを拒否。挙句に蔡瑁の使者が殺されるなど、対立は深刻です。これには劉表様も怒り心頭で」


「あのさぁ、呉巨は良く知ってるけどさ、デカい図体のくせして小狡い男だぞ? あの小悪党が感情のままに使者を殺すかね? どうも臭うなぁ」


「頼恭殿から、劉表様への執り成しをしてほしいと書状も来ておりますが。どうしますか?」


「軍師殿は、どう考える?」


「確かに裏で何か動いている気はしますが、基本、南方は放っておいても良いでしょう。そもそも交州への侵攻は現時点で不可能です。一応、仲介をしたという形をとって、交州から引き揚げてもこちらの傘下として安全は保障する、とするのが無難でしょうな」


「下手に動けば、蔡瑁にまたとやかく言われる、ということか」


「はい。劉備様はあくまで『徳の将軍』としての仮面を持ったまま、民の心を掴むことに専念しましょう。汚い政争は、伊籍いせき殿にお任せを」


「やれやれ。早く曹操が攻めてこないかなー。退屈だぜ俺は。今度こそ勝てる気がするんだけどなぁ」





 劉備からの返書を受け、大きく肥った体の武人は、苛立たし気に頭を掻く。

 対面するのは、極めて温厚そうな顔立ちの文官。しかしその凛とした佇まいは、彼の意志の強さを感じさせる。


「あの劉備め……肝心なとこで役に立たん!」


 武人の「呉巨ごきょ」は、書状を投げ捨てた。

 書いてあった返事は、何とか劉表を説得して理解は得られたが、結局、蔡瑁の指示を中断させるまでには至らなかった、と。

 それでも、一度直接申し開きをすれば許してもらえるから、一度こっちへ来られよ、という内容。


 これには文官の「頼恭らいきょう」も落胆の色を隠せない。


「すでに荊州では、交州は捨ておいた方が良い、という結論の様ですな」


「ここを捨てろというのか? そして荊州へ戻れと? 貴殿は名士としての地盤があるから気楽でいられるが、俺はやっと手にした領土だ。捨てるわけにはいかん!」


「呉巨殿、私とて同じです。荊州に戻ったとして、危険な立場なのは同じ。共に蔡瑁に睨まれてるのですから」


「クソッ! 小賢しい鼠め、自作自演で我らを陥れおって。劉表様も、どうして分ってくれないのだ」


「今は現実に向き合いましょう。今、我らだけで、荊州兵に抗えるか。背後を士家に突かれないか。孫家が漁夫の利を狙ってこないか」


 そう言って、沈黙の空気が流れる。

 どう考えてもすべてに対処できるわけがない。

 劉備が頼りない今、荊州に戻っても、何らかの理由を付けられて処罰されるだろう。



「伝令です」


「今度は何だ?」


 苛立ちながら、呉巨は兵を招く。

 伝令兵は少し戸惑った様子のまま、頭を下げる。


「それが、その……士家の使者が来られております。使者は、シショウが三男、シキ」


「なんだと?」



 呉巨は不思議そうに首を傾げながら、丁重に、賓客として迎えよと指示を下した。



まぁ、交州なんて天下の情勢にはあまり関係ないですからね。

劉備は、曹操戦、及び蔡瑁との政争に忙しく、荊州としても敵は孫家です。


史実では呉巨も、荊州からの影響力の低さを良いことに勝手に独立してますし。

すぐに歩隲将軍に斬られちゃいますが(


次回は、呉巨、頼恭へシキが交渉を持ち掛けます。

だんだんと親父に似てきたなコイツ、みたいな。



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

皆様の応援が作者の活力です!


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 小説読み始めたら You Tubeで試験に出る動画おすすめされました。 ビッグデータ、恐ぇぇ~ww ということで、はじめまして、、、 ではないですね、あっちのコメがはじめましてだから…
[良い点] お~劉備のキャラをそういう風にしましたか 襄陽からの逃避行に難民が従ったのは確かなんで 人望あったのはガチっぽいしね(曹操が庶民から人望無かったとも言う)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ