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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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35話 大きな一石


 とりあえず、華佗さんをこちらへ呼ぶ、という件は保留になった。

 今は帰郷しているとはいえ、まだ曹操の従医であることには変わりない。

 長期に有給休暇をもらっている他社の社員を勝手に引き抜いたら、そら怒られるよねっていう話ね。


 袁煕への援助は他勢力が対象だからまだ、足を付かないようにすればいくらでも言い逃れは出来る。

 でも、華佗の件は状況が異なる為に、一旦、親父からストップがかけられた。

 曹操が完全に華佗を手放すときを狙うしかないだろう、ということだった。


 でもなぁ、史実では手放すどころか、牢獄に入れて殺しちゃうんだよなぁ。

 みすみすあの「神医」を殺すのは、人類にとっての大きな損失だ。


「だが、お前の言いたいこともよく分かった。医者の招致は認めよう。妖術と医学がどう違うのか、それを明晰に区分させる。優遇の話はそれが成立してから、であるが」


「分かりました。陳時さんと相談したうえで、詳細を決めていきます」


「うむ」


 ただ、親父のこういう柔軟でしっかりとした思考を目の当たりにすると、この人の子で良かったなぁと常々思う。

 比較する様で申し訳ないけど、シイツ叔父上だったらこうはいかないだろう。

 あの人の官僚としての能力や知見の高さは恐らく親父を上回るが、僕のこういった提案は話すら聞いてくれないだろうから。



「あ、そうじゃ。シキよ。劉表への謀略の件じゃが、こっちで勝手に色々仕掛けてみたぞ」


「いつのまに……手が早いね」


「孫権から遅いだのとは言われたくないからな。それで結果じゃが、やはり、劉表は老いたな。あれではもう先も長くないじゃろ」


 少し呆れたように、どこか寂しそうに、親父はそう言って笑う。


 やはり、この交州の長年の仮想敵は、荊州の「劉表」であったのだろう。親父の頭の中では。

 互いに見知った中で、表には出さないまでも水面下で動き続けた、長年の敵があっさりとこちらの仕掛けに食いついた。

 その事実に、どこか落胆にも似た寂しさを感じているのかもしれない。


「まず蔡瑁じゃが、あれは完全に曹操と裏で通じておる。中々に顔の広い男よ。抜かりないというか、何というか」


「二人の姉は、一人が劉表に、もう一人は、荊州を代表する名士『黄承彦こうしょうげん』に嫁いでいるとは聞いています」


「とにかく婚姻で顔を広げ、情報網は荊州に留まらん。曹操をとかく敵と見る劉備と馬が合わんのは、まぁ当然じゃな」


「それで、蔡瑁にはどのような謀略を?」


「お前の言ったとおりだ。呉巨と頼恭が荊州南部で、劉備陣営の囲い込みを始めていると見せかけた。蔡瑁は辺境だからと侮ったのだろう、真偽を確かめようとはせず、呉巨らの兵力の大半を寄越すようにと指示を出した」


「曹操に孫権、荊州は南方に力を割いている暇はない、ということですね。しかし、劉表はそれを見ているだけ、ですか?」


「だから言っただろう、老いた、と。未だに迷っているのだ。劉備に荊州を与え、曹操に抵抗するか、蔡瑁に荊州を与え、曹操に屈するか。迷っているから、蔡瑁に何も強く言えん」


 昔は、温厚な仮面を被りながら、地元の豪族の首を躊躇なく跳ね、自分の兵力を増強するような狡猾で果断な策謀家であった。

 しかし今は、自分の死後と、息子達がどうなるか、その不安に苛まれながら病床で横になることしかできない状態。

 劉備も、蔡瑁も、抑え込む力はもうとっくになかった。


「それで、次じゃ。困ったのは呉巨と頼恭だ。ただでさえ交州はこの士家の力が強く、それに異民族も多い中、これ以上の兵力低下は勢力維持すら難しい。そこで二人に一つ、石を投げてみた。蔡瑁は裏で曹操と繋がっている、と」


「なるほど」


「二人は劉備派閥に近い考えを持っておる。これで余計に、蔡瑁の命には従えん。二人は蔡瑁の命を断り、これ以上の兵力削減を行えば勢力維持が難しいと返答した」


 これで蔡瑁と呉巨、頼恭の対立は明確なものになった。

 まさに今が「大きな一石」を投じる機会だろう。


 そう考えていると、妖怪はその通りだと言わんばかりに、怪しく微笑んだ。


「もう、何か手は打ったのですか?」


「あぁ、何だと思う?」


「分かりません」



「……蔡瑁からの使者を、帰りの道中、密かに殺した。そして蔡瑁に、これは呉巨らの仕業と伝え、呉巨らにはこれは蔡瑁の自作自演だと、匂わせた」



 なんてことをやってるんだこの人は。

 これが、妖怪と言われる由縁なのか。あまりの意外な一石に言葉が出てこない。

 まさかこの人は、交州に戦火を呼び込もうとしてるのか?


「そ、そのようなことをしては、戦になります。交州での、戦に」


「それを何とかするのがお前の仕事じゃろ。俺はもう、やるべき仕事は終わった、後は任せるぞ」


「え、えぇ……?」


「呉巨らの持つ兵力は、精兵なれど、乏しい。それに鬱林郡は半ば放棄しておるからな、蒼梧郡一つで対抗せねばならん。それに比べ荊州兵は数が多い。不安じゃろうなぁ」


「そこを煽って、降伏を促す、ということですね」


「まぁ、やり方は任せる。ただ、士家が後ろに付くとなれば、蔡瑁も果たして出てくるだろうか。まぁ、劉表があれじゃ。お前は好きにやれ。後の事はこっちで適当にまとめておくからの」



 一歩間違えば、戦の舞台にならなかったこの交州に、死体が溢れる。

 それだというのにこの親父は、へらへらと笑うばかり。


 まだまだ、この人には届かないか。

 僕は頭を下げて退室し、さっそく魯陰を呼んだ。



いよいよ荊州に不穏な影が。

交州が戦火に巻き込まれるか否か、という話に進んでいきます。


次回は、もう一人の英雄がちらりと姿を現します。

オマケで「最初の軍師」も、ですね(*'▽')



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それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黄承彦ってことはそのうち孔明も出てきますかなぁ 引き抜ければでかいですが引き抜いたら目立ちすぎるしジレンマがw
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