33話 異文化交流
そういえば、連載始まってひと月が立ちました!
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先日、とりあえず当面の外交政策が固まった。
とはいえすぐに動けるようになるわけではなく、色々と準備や情報収集が必要だった。
それに親父は、南海郡で行われてるシキン兄からシシ兄への引継ぎに関しても手助けをしないといけない状態だ。
まぁ、今はみんな色々と忙しいってこったな。
魯陰が率いる、異民族混成による間者は既に荊州や、鬱林郡、蒼梧郡に広げてある。
当面はこの結果待ちということで、僕は今日も仕事にいそしむのだ。
「陳時さん、今日の分の陳情書のまとめです」
「うむ」
岩の様な顔は微動だにせず、節くれ立った指で、小さな筆を細々と走らせている。
なんとも不思議な光景だ。筆が今にも折れてしまうんじゃなかろうかと、ひやひやしてしまう。
彼が、親父の補佐官にして、この交趾郡の軍や内務を取り仕切る「陳時」さんである。
若い頃から士家に仕えている人らしくて、何でもこなせる万能人。
まぁ、ただなんでもそつなくこなせるからか目立った長所もないらしい。
親父曰く、それがこの人の一番の長所、だとか。
ただ、どうも無口であり、色々と手伝ってはくれるが、人に何かを教えるということだけは不向きらしい。
なんでも黙々と自分一人でやり遂げてしまう職人タイプ。
「こっちが、御屋形様へ。こっちが、役人で対応可能。よろしく」
「わかりました、っと」
日々、交趾郡のあちこちから湧き出る問題をまとめ、対応していく。
問題の大小を見極め、手回ししていくのが僕と陳時さんの仕事。簡単に言うとね。実際はもっと複雑。
まぁ平和だとは言え、異民族入り乱れる土地である。小さな問題は挙げればキリがない。
「特に、一番の問題はやっぱり、山越族だなぁ」
漢民族とは異なる民族で、山間部を自分たちの縄張りとしている少数部族を総称して、山越族と呼んでいる。
彼らは独立自尊の気質があり、こちらの言うことをあまり聞いてくれないのだ。
一応、ウチの政権は懐柔政策をとっており、表立った対立こそないが、まぁ色々と注文は多いのだ。
孫権は、山越族に関しては強硬的立場で、逆らえばどんどん潰していくスタンスだが、歴史を見ても分かる通り、結局、反乱を根絶することは出来ていない。
そう、その孫家でも手を焼くほど、山越族は戦闘のプロフェッショナルでもある。
縄張りの山間部からは鉱石が取れるので、それで装備を整え、得意のゲリラ戦術で大軍を苦しめる。
そもそも戦をほとんど経験していない弱小の守備兵しか持たない僕らが、彼らを押さえつけることはまず無理。
「陳時さんは、山越族とどう付き合っていくべきだと思います?」
「……御屋形様の言うとおりにするのが一番いい」
交州の人間、特に士家に仕える人達って、あんまりにも親父の事を敬い過ぎでないかい?
なんかこう、もう少し自主性というか、親父に意見するようなさ。うん。
親父のだらしないところを知ってる陳時さんですらこうなんだからなぁ。
「山越族と上手く連携できる仕組みが整えば、戦闘のプロ集団と、莫大な鉱石資源を手にできる。得しかないんだから、どうにか出来んものかねぇ……」
とはいえ、彼らは部族ごとに使う言語も、文化も異なる場合が多い。
意志の統一など、どれだけの時間がかかることやら。
「本場の人に、聞くしか無いなぁ」
☆
「お招きいただき、恐悦至極、感謝感激の嵐! 何なりと命令を御申しつけ下せぇ! 若旦那ァ!!」
「え、ちょ、うるさい」
「も、申し訳御座いません! かくなる上は、指を落として謝罪をぉッ!!」
「頼むからやめてくれ。ほら、お茶でも飲んで、ひとまず落ち着いて? ね?」
何というか、コイツら、こんなテンションだったっけ?
もうちょっとクールで怖いイメージがあったんだけど。
そんなわけで、僕の目の前で、がくがくと緊張で手を震わせながら、お茶をびちゃびちゃにこぼしあっている若者集団。
彼らは以前、合浦郡で開いたあの店に押しかけてきた、蓮さんの舎弟達である。
今はあの店の警護やら、食材の収集や運搬など、力仕事を担当してもらっていた。
ちなみに、この声がうるさい、リーダー格の青年は「蝉」という。蓮さんの甥っ子らしい。
まぁ、恐ろしいくらいに蓮さんに絞られてたからな。あの日以来、彼らは僕の前ではこんな調子である。
あのね、正直言うとね、すごくやりづらい。でも言っても聞きやしないから諦めた。
今日、彼らを呼んだのは他でもない、山越族についてのことだ。
彼らも縄張りを他の部族に奪われ、山を追われたとはいえ、山越族の者達である。
本場の事は、本場の人間に相談するのが一番手っ取り早いだろう。
「少し相談なんだけどさ、山越族とこれから仲良くしていくには、僕らはどうするべきなのかな?」
「若旦那は、また不思議なことを……ただ、難しい話っすね。山越族とはいえ、少数部族の総称です。全員が同じ考えを持ってるわけではないですし」
「じゃあ逆に、共通していることは何だと思う?」
「うーん……誰かの統治を望んでいない、という点っすかね。俺達は、山の恵みに生かされています。朝廷の力なんて無くても、生きていけますから」
「なるほどなぁ」
北方の騎馬民族は大規模な集団組織を作るから、反乱されたら手ごわいが、トップを通じての対話も図りやすい。
しかし、山越族は違う。皆が小さく、バラバラだ。力で抑えるのも、対話を行うにも、手間がかかりすぎるのが難点か。
力で抑える手段は避けたい、となると、こちらがどんな人間か、どんな立場なのか、それを理解してもらう必要がある。
改めて、雍闓さんの凄さが身に染みるよ。
「でもさ、山の恵みだけじゃ不足したり、困ったりするなんてこともあるだろ?」
「そうっすね。山を下りてから、海の魚や貝をあんなに美味しく食べさてもらえたのは初めてでした。海の恵みは今や、山の民にとっては高級品ですので」
「となると、塩か」
「確かに。でも、山でも塩が沸く場所はあり、それを保有する部族もいます。保有しない部族は彼らとの交易で貰ってるような感じっすね」
そういえば益州は、山間部の地域であるのに大量の塩を保有し、優位を持っていたと聞いたことがある。
山でも塩は沸く。海塩は海水から、山塩は温泉水から。
「じゃあ交易での交流は、不可能じゃない、か。ただ、長期的視野としては少し弱いかもしれない。何か、もっと、核に近づくような……」
「あの、そういえば……いっすか?」
「うん、何でも言ってほしい」
「一番辛かったのはやっぱり、頭領が、死んだことでした。落石で足が潰れて、いくら祈祷をしても治らず、そのまま。姉御も、一番後悔してるんじゃないかな、って」
「……医学か。うん、ありがとう! すごく参考になった。蓮さん達にもよろしく伝えてくれ」
「う、うっす!」
床に頭を付けて見送ってくれる彼らの姿に苦笑いを浮かべ、僕は自分の部屋へと駆け込んだ。
いやぁ、異民族統治なんてそんな簡単にいかないべや。
って思ってる人、言いたいことは分かります。僕もそう思います(ぇ
そんなもん出来れば世界平和が完成できますもの。たぶん。
イギリス首相のチャーチルは言いました。
民主主義は最悪の政治体制だ。これまでの体制に比べればまだマシだけど。
まだまだ人類は進化の途中ってわけですな。
さて次回は、医学の天才、頑固おじいちゃんがちらりと登場。
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皆様の応援が作者の活力です! あとは、牛肉も活力。滅多に食べれないUR。
それではまた次回。




