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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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31話 妖怪の帰宅


 交州は士一族の支配域とはいえ、それは沿岸部に限った話である。

 内陸部の「鬱林郡」「蒼梧郡」については、親父は統治を放棄していた。

 あまり統治しても旨味が無いと判断したせいだろう。加えて、劉表との明確な対立を避けるためでもある。


 昔、交州刺史であった「朱符しゅふ」が賊徒に殺されるという事件が起きた。

 その混乱を迅速に収め、要地の全てに一族の者を赴任させ、交州の安定を図ったのが親父である。


 ただ、この混乱に乗じて動いた人間がもう一人いた。それが、荊州牧の「劉表りゅうひょう」だ。


 劉表は配下の「頼恭らいきょう」と「呉巨ごきょ」の二人を混乱に乗じて派遣した。

 この二人が今、内陸の二郡を抑えているような状態であった。


 呉巨は武勇で知られる人であり、また頼恭も、史実における後年は劉備政権の高位を歴任する能吏だ。

 とてもこの郡だけに収まる器ではない。劉表が、交州を自分のものにしようという野心を持っていることがよく分かる人事である。

 ただ、親父はこの二人が大きく動き出す前に朝廷に働きかけ、正式に交州を治めるように、という言葉を受けていた。

 この二人が動ける「大儀名分」を奪い、今日の様な膠着状態にまで持ち込んでいる。それが今の現状であった。 



「まだ、起きていらっしゃったのですか? シキ様」


「あぁ、魯陰か。ありがとう」


 暖かな湯気が揺れるお茶を受け取り、僕は再び、書簡や地図に目を通す。

 実のところ、この二人を二郡から追い出すのは容易い。

 統治を放棄しているとはいえ、交州全域にまで士家の手は伸びているし、いくらでも豪族の協力は得られる。

 反乱を起こしたり、暗殺をしたり、金で解決する道だってあるだろう。


「だが、それじゃあ、意味がない。孫家の為に、損を被るだけだ。やるからには利を取らないと」


 この二郡を孫家に譲ることで得られる利益。最大限に利用すれば、今後も孫家から優位に立ち回れる。

 僕が成すべきことはそれなのだ。手を打ち間違えれば、一族は滅ぶ。それだけは、避けなければ。


「それで、間者の手配は済んでますか?」


「はい。おおよそ、シキ様の予想通りの報告が上がっています」


「聞かせてほしい」


「まず、確かに頼恭と呉巨の関係は良くはありません。知識人としての自負が強い頼恭は、勇壮で強情な呉巨の下に着くことを良しとしていません」


「劉表の目が届いているから、あくまで協力をしているということだろうな。ならば、やりようはある」


「さらに、劉表は病床に着いており、現在の荊州は外戚の関係にある蔡瑁さいぼうの一族が握っています」


「動かせたりする?」


「内容によりますが、恐らく動くでしょう。荊州は今、派閥争いが水面下で進んでいるようですので」


「分かった。じゃあ、親父に許可を得てから、頼むかもしれない」


「御意」





 数週間後、親父は牛車に揺られ、ゆるゆると帰還した。シキョウ従兄上はそのまま許都に留まっていた。

 そして、親父と入れ替わるようにシカンが許都へ出発することに。

 これから会える機会もめっきり減ってしまうのか。そう思うと、不意に涙が流れた。


「さて、と。シキよ、仕事は捗っておるか?」


陳時ちんじ殿の手をお借りして、何とかといったところかな」


 親父はその名を聞いて苦く笑う。


 交州において数少ない、兵を率いることのできる武人であり、親父の補佐役でもあるのが陳時ちんじ殿であった。

 若い頃から士家に従っており、交州の混乱時、実際に兵を率いたのも彼である。

 齢は四十後半、寡黙な人だ。文武に広く秀で、黙々と仕事をこなす、隙のないタイプ。


 親父が居ない間の政務のほとんどは彼が取り仕切っていたほどだ。


「俺がいない間、何か変な物とか見つけたりしとらんじゃろうなぁ、アイツ。怒ったら怖いからのぉ」


「特に、そういったことは聞いてないけど」


「陳時を表情で読むことは出来んぞ。岩みたいな男なんじゃから」


 小さな体で大きく伸びをして、親父はいつもの書室へ入る。


「うん、よく掃除してある。やはりこの部屋が落ち着くわい」


「お疲れさま」


「いやしかし、曹操は思った以上の巨人であった。この男が天下を統一できねば、きっと誰も統一などできるまい。そう思ったほどじゃ」


「では、曹操に臣従を?」


「お前が捕縛されたと聞くまでは、曹操に着いた方が良いと思った。交州に容易く喧嘩を売りながら、揺さぶりをかける。小僧のやることじゃないわい、可愛げが無さすぎる」


「……そうですね。シシ兄上と同じか、それよりも若い年齢で、既に王者の気質を持ってたように思う」


「その器を持ちながら、恐ろしいほど若い。それで孫家への臣従に比重を傾けようと思った。だからこそ、シキンを送った。孫権が大したことのない男であれば、言うことを聞かずとも良かったのだがな」


 わざわざ、後継者たる長子を派遣し、相手の予想以上の誠意を見せようと踏んだのだろう。

 親父は大きな溜息を吐きながら、その光る頭を撫で続ける。



「それじゃあ、目下の課題である鬱林郡、蒼梧郡への対処について、聞かせてもらおうかの。ちゃんと、考えておろう」


「はい……動かすのは呉巨、頼恭ではなく、蔡瑁さいぼう、そして、劉備りゅうびです」



 妖怪の親子は、互いに頷いた。




ついに出てきた、三人目の英雄の名前。

ただ、直接関わっていくのはもう少し先のお話、だと思う(ぇ


次回は、呉巨と頼恭への対応について、シキがある策を提案します。

何というか、地図とかそろそろあった方が良いよなぁなんて思ったけど、Web小説ってそこらへんが難しいね。


僕の手元には、三国志展で買った地図があるのですが……(笑)



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

皆様の応援が作者の活力です! あとは、サンマも活力。秋が旬。


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつの間にやらシキが妖怪化してきてるし笑 [一言] 次話を楽しみに応援しています。
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