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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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29話 覇王と妖怪


 荀彧との交渉もひと段落が付き、互いに同じタイミングで息を吐く。

 ひとまず、良いところに決着がついたといっていい。


 交州と曹操政権が、直接的な対立関係になることはほぼありえない。

 それはお互いに分かっていたことで、あとはどう協力していくか、そこが重要である。


 曹操政権の当面の敵は、袁家の残存勢力、次いで劉表、孫権と言ったところだろう。

 そして、交州に迫りつつある脅威は、孫権との折り合いである。


 荀彧としては、これから先の戦になるであろう、劉表、孫権の力を削ぐ為に、交州を離しておきたい。

 交州としては、豊富な経済力を武器に、直接、政権の主から自治を認める言質を取りたい。


 互いの思惑を理解したうえで、決着を置いた形だ。



「最終的な判断は、殿に決めていただきますが、まぁ、概ねこれで良いでしょう。さて、と」


 荀彧は膝を叩き、腰を上げる。


「先生、まだ荷解きも終わってない中、何かと不便でしょう。我が屋敷でささやかながら、宴をご用意しています。もしよろしければ如何でしょう?」


「ほぅ、よろしいのですかな?」


 生来の遊び人気質である、シショウの目が子供のように輝く。

 中華の都の、それも政権随一の実力を持つ男の屋敷で、宴。

 心が躍らない訳がない。


「しかし、我が甥のシキョウが今、不在でしてなぁ。後学の為に少し、都を見学させておるのですが」


「では、私から使いを出しておきましょう。さすれば間もなく、屋敷へとお迎えできますよ」


「それは、何から何までお心遣い痛み入る。それでは、お言葉に甘えて」


 曹操は今、河北に居て帰りがいつになるかも分からない。

 長い滞在になるかもしれないのだ。だとすれば、荀彧と仲を深めておくのも重要だ。

 とかなんとか自分に言い訳をしながら、老人に思えぬ弾んだ足取りで、荀彧の後についていく。


 そして、促されるがまま、馬車に乗り込む。

 馬はどうも苦手だが、この際は仕方ないだろう。


 そうしてふと乗り込んだ馬車。違和感があった。

 本能が何故か、ここは危険だと激しく訴えかけてくる。


 しかし、おかしなところはない。荀彧は、前の別の馬車に乗り込む。

 この不安は何だろうか。馬車はゆっくりと前に進み始める。


「貴殿が、交州の妖怪、士燮シショウ殿か。なるほど、老獪な顔をしておられる」


 手綱を握る御者が、こちらを振り向いた。

 小柄で髭が濃い。しかしその肌はよく日に焼けて、軍人の肌そのものであった。


「俺が、曹操そうそうだ」


 呼吸をすることすら忘れ、シショウはたまらず、体をへし折るように頭を下げた。





「別に気にするな。今の俺は、河北に居ることになってる」


「何故、ここに」


「決まってるではないか。貴殿に会う為だ」


 曹操は気丈に笑い、馬を進ませていた。


 天下を手にかける男に、馬を御させている。

 シショウはまともに前を向くことが出来ず、嫌な汗が顔中に滲むのを感じた。


「しかし袁譚は流石、あの袁紹の長子である、といった男であった。戦の呼吸を知る、まさに君主の器だろう。ヤツに家督が渡っていれば、俺も危なかった」


「佞臣に耳を傾け、強情な性格であったと、聞き及んでおります」


「強情さは人の上に立つ上で必要な要素だ。佞臣が誰を指すかは知らんが、荒れに荒れていた青州をまとめた手腕は非凡だ。南皮で一度、我が軍を破るほどに」


「なんと」


「しかし、勝った。首も取った。ひと段落着いたところで、貴殿に会いに来た」


 何と答えるべきか。シショウはただただ、深く頭を下げる。



「そういえば貴殿にも、息子が多くいたな。皆、優秀であると聞くが」


「一長一短です。それぞれが補い合ってくれれば、嬉しいのですが」


「俺も子が多い。やはり親というものは、皆、似たような悩みを抱えるものだな。袁紹がはっきりと後継を定めきれなかった、その思いも何となくだが分かってしまう」


「曹操様でも、悩みまするか」


「あぁ、悩む。俺は後継と思い定めていた長子を、失っているからな」


 悲しげな声であった。

 宛城の戦いにて、曹操は自らの過ちにより、長子の曹昂そうこうを亡くしている。

 そしてそれがきっかけで、正妻であった「丁夫人」から離縁を叩きつけられてもいた。


「未だに、思い出すだけで胸が張り裂けそうだ。この傷はきっと、一生癒えることはない。士燮殿よ、子は大切になされよ。乱世と言えど、子は宝だ」


「左様ですな。交州は戦火に遠き地なれど、身を守る為にやるべきことは多い。その為にも、我が身を粉にするつもりです」


「交州の妖怪も、身を粉にするのか」


「えぇ、老い先短き命ですが、今まで怠けていたツケがどうやら、今頃になって押し寄せているようです」


 再び、曹操は笑う。今度はシショウも笑った。

 そうだ、今は非公式の会話。ここではただの親バカ二人が、会話をしてるだけに過ぎない。



「また再び、こうして共に馬車に乗る日が来ると良いな。共に、漢に仕える臣下として」


「有難きお言葉。私も、その日が来ることを楽しみに待ちましょう」



 覇王と、妖怪。共に乱世を生きる二人は、怪しく微笑んだ。



曹操って優秀な軍事面や、戦い続けた生涯なんかの、為政者的な面に目を向けられがちですが、自分が好きな曹操像って、こういう情に厚いところなんですよね。

特に、離縁を叩きつけられた丁夫人のもとに直接訪れて「もう一度考え直してはくれないか?」とまで言ってるのなんて、滅茶苦茶にグッときます。

城や戦場にさっさと妻子を置いて逃げまくる劉備も、あれもあれで好きですよ(笑)

とことんライバル関係的な立ち位置にあるよなぁ、この二人。三国志面白いなぁ。


さて、次回は士家の四兄弟が集まって、今後について話し合います。



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

皆様の応援が作者の活力です! あとは、コーヒーも活力。ミスドによく合う。


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 劉備が義の人とか聞くと、私は劉備が義の人<苦笑>という感じに聞こえますな。 妻子を見捨てて逃げ延びるとかいろいろとあれなエピソードがあるんで劉備さんと曹操さんと孫権さんのどれかに使えなきゃい…
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