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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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27話 蜜柑と暦


「良かったぁ~、無事だったんだな! 心配したぞ!」


「何とか生きて帰れたよ」


 ようやく自由を許された僕と、雷華を含めた従者達。

 特に不自由な思いをしたわけではないとのことで、とりあえずは安心だ。


「こっちは雍闓さんと、呂岱将軍が色々と融通してくれたんだ」


「へぇ、将軍が。後で礼を言いに行かないとな」


「それで、もう用は済んだんだろ? すぐに帰るのか?」


「いや、もう少し滞在する。むしろ、本当の用事はこれからだ」


「え? 殺されそうになったんだろ? 早く帰ろうよ」





 江東の孫家は、決して強権的な、中央集権の政治体制ではない。

 複数の名族や豪族による連合国家と言った方が正しく、孫家はそれらのまとめ役という立場なのだ。


 三国時代、呉が外ではなく、内の反乱や異民族の対処にばかり目を向けていたのも、この体制が大きく関係していると考えられる。

 あくまで江東の平穏を保つために、孫家は担がれているに過ぎない、といったところか。

 しかし、孫権もそれが十二分に分かっているから、自分への権力集めを虎視眈々と狙っているのだ。


「だからこそ交州の生存は、この名士達とどれほど誼を通じておくか、が重要だ」


 根拠地である呉郡を代表する名族は、次の四姓と言われる。

 それが「りくしゅちょう」氏だ。


 氏であれば、顧雍こよう

 りく氏であれば、陸遜りくそんと言えば分かりやすいだろう。

 言わずもがな、いずれも孫呉を代表する名臣達だ。


 そしてしゅ氏と、ちょう氏だが、それぞれを代表する人物と言えば、朱氏は朱桓しゅかん朱拠しゅきょ、張氏は張温ちょうおんが挙げられる。

 間違えやすいのだが、朱治しゅち朱然しゅぜん張昭ちょうしょう張紘ちょうこうは別の筋の名士にあたる。


 孫家への交渉と同じくらいに、名士達との交流は、今回の遠征において必要不可欠なものであった。



「いや、それにしてもこういう挨拶周りだと、本当にお前が居て助かるよ」


「へへへ」


 先に挙げた名士達以外にも、多くの豪族らとの交流を図ってみたが、予想以上に雷華に助けられた。

 やはり交州の士一族はどうも、金儲けなどの汚いイメージが強かったり、親父の狡猾な一面が強烈なことから敬遠されがちであった。


 きっと僕一人であったら、門前払いの嵐であっただろう。


 そんな時、雷華が表に出て取次ぎをしてくれると、結構、快く受け入れられたりする。

 まぁ、外見の善し悪しが評価に直結するような時代だ。雷華はその点、申し分ない。

 だって名士さん達、僕よりも雷華の方を見て話すもんね。うん、そろそろ泣いていいですか?


「でも、連日連夜の挨拶回り。流石に疲れたよ」


「まぁな。でも、次で最後だ」


 最後に訪れるのは、その四姓の一つ。陸家。


 ただ、陸遜りくそんへ会いに行くのではない。

 というか、陸遜は確かに名門「陸」氏ではあるが、直系ではないのだ。

 前任の当主、陸康りくこうが没した当時、直系の息子が幼かったため、代わりに従孫の陸遜が家督を継いだ流れになっている。



 今日会いに来たのは、その直系にあたる人物、陸績りくせきだ。


 幼くして、明晰な頭脳と、豪胆な気概の持ち主であり、孫策や孫権を恐れることなく諫言を行った人物。

 その才気を、孫家の臣下は皆大いに評価し、若くして名声は極めて高かったとされる。


 また、幼少の頃、袁術に招かれた宴席で蜜柑を盗もうとし、その理由を袁術に聞かれると、病の母に持って帰りたかったと答え、袁術はその孝行にいたく感心した、という話は有名だ。


 彼は三国志の中でも、最も正確な暦を作ることに成功しており、これは呉に多大な恩恵をもたらしている。

 というのも、暦を作ることは皇帝の専売特許であり、より正確な暦を持つ国が正当に近いとまで見られたほどだ。


 漢室から帝位を献上された魏、劉の血統を持つ蜀、これらに対抗する正当性を持たない呉の孫権が帝位につけたのも、この暦が大きな一因としてあったことは間違いない。


「そういえば、陸家って名門なんでしょ? 良かったの? 最後の最後に回しちゃって」


「名門だが、一族が先代の孫策にほとんど滅ぼされてる。没落寸前さ。それに、これは孫権への配慮でもある」


「どういうこと?」


「陸績は高い名声と人望を持っているが、孫権には疎まれてると聞いている。まぁ、直接、君主の耳に痛いことを諫言する人間は、往々にして嫌われるものだよ。だから最後に回してみた」


 ただ、没落寸前とはいえ、それでも名門。

 陸遜は孫策の娘を妻としている為、婚姻で懐柔されているが、陸績はまだ名族同士とのつながりが強い。

 それに陸家にとって、孫家は仇敵も同然。警戒されて当然だ。

 早めに会いに行こうものなら、間違いなく睨まれてしまうだろう。


 でも、だからこそ、接触の価値がある。


 孫権の要求である、鬱林郡と蒼梧郡の明け渡し。

 史実にもある通り、陸績が鬱林郡へ、左遷の形で赴任する可能性は高い。



 孫権に疎まれ、交州に縁深い。そして、極めて優秀。



 価値が爆上がりする予感溢れる人物だ。

 今のうちに、投資の手を打っておかねば……。


「なんか、楽しそうだね、シキ」


「え、あ、そうか? まぁ気にするな!」


 馬車に揺られること数刻。

 ようやく、陸績の屋敷が見えてきた。




長々と解説失礼しました。陸績の登場は次回になります……

こんなはずじゃなかったのになぁ……(笑)



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

皆様の応援が作者の活力です! あとは、焼き鳥も活力。やげん軟骨が好き。


それではまた次回。

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