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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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26話 交渉の決着点


 ガラガラと、車輪付きの檻は荒れた道を進む。


「おぉ、ここが孫家の根拠地、呉郡か。なんと活気のある都だ」


 大通りには華やかな商家が並び、まるで祭りが行われているかのような活気であった。

 江東には人口は少ないといったが、この城下町に至ってはそれには当てはまらないだろう。


 これが長江の恩恵を大いに受けた、三国が一つ「呉」の気風か。


 活気に溢れ、昼間から楽しそうに酔っぱらった男達が道を行き交い、帰還した孫家の兵を大いに迎えている。


「やはり、孫家は大きいな。人材が豊富で、当主にも器量がある。学ぶことは多い」


 街並みを楽しそうに見渡す捕虜は、まだ十五、六の子供。

 親があの妖怪だ。少し人と違っているのだろう。

 不気味な目で、周囲の兵士達はそんなシキを監視していた。





 引き出されたのは、文武百官が多く立ち並ぶ広い空間。

 最も高い位置に一人、腰を掛けてこちらを疎ましげに眺めるのは、やはり孫権だった。


 そしてその隣に立つのは、既に髭や髪は白いものの、歳は四十台後半であろうかという文官。

 体は細いが顔は厳めしく、そこらの武将達よりもよほど強情そうな気質が伺える。


 なるほど、あれが「張昭ちょうしょう」か。


 孫呉の内政の一切を取り仕切る、孫権の後見人にして、股肱の臣下。

 その強情さから孫権との衝突も多かったが、この張昭の発言や施策が誤っていたことはほとんどなく、間違いなく孫呉の柱石であった人物。

 先代の孫策も、孫権に地位を譲る際「内の事は張昭に、外の事は周瑜に聞け」との遺言を残している。



「シキよ、何故お前が囚われているか、理由は分かるか?」


 孫権はまるで虎が唸るように、静かに、牙を剥いて問いかける。


 ふと、武官の末席に立つ魯粛に目をやると、とにかく頭を下げとけ、といった風なジェスチャーを飛ばしていた。

 それを高座から張昭が睨んでいるが、とうの本人は全く気付いていない。


 二人は仲が悪かったって聞くけど、ホントだったんだなぁ。


「私が、李術の降伏を促すことが出来なかったから、でしょうか」


「違うな、二度の機会は与えぬ。正直に答えよ。お前はこの孫権に、嘘を吐いた。その嘘について、弁明しろ」


「このシキ、我が父、シショウの代理として使者の務めを果たさんとしております。士家の祖先に誓って、私にやましい点は御座いません。ただひたすらに、孫家の繁栄と、士家の安寧のみに全力を尽くし、父の名に泥を塗ることを恐れるばかりに御座います」


「よく分かった。このガキの首を斬って、あの妖怪に送り返してやれ」


「お待ちくだされ!!」


 前に進み出たのは、魯粛であった。

 僕を引き立てようとする兵士達を殴り飛ばし、孫権に頭を下げるように膝をつく。 


「えぇい、下がらんか! 魯粛! 貴様の様な末席の食客が、殿に物申す立場にあると思うてか!?」


「これは異なことを申されますなぁ、張昭殿。俺は末席なれど、盟友たる『周瑜』の代理として参内しております。我が言は周瑜の言、それでも下がれと?」


「もう良い、師父ちょうしょうよ。魯粛、発言を許す」


「使者殿は、交州のシショウが代理。彼に危害を加えることは交州に宣戦布告するも同じ。その場合、交州のみならず、南蛮も動きましょう。我らは仇敵『黄祖こうそ』との戦を前に、わざわざ敵を増やしてはなりません」


「交州が何だ。何を恐れることがある」


「まずは何の罪があるか、それを明言してくだされ。これでは使者殿も弁明のしようがありません」


「ふん……シキよ、お前は、シショウは病にてこちらへ来れないと言ったな。しかし、今シショウは曹操の下に向かっていると聞いた。何故、嘘を吐いた」


 この発言には、さすがの魯粛も押し黙る。

 孫家では以前に、重臣であり一族でもあった「孫輔」を、曹操との内通の罪で放逐したばかり。

 加えて李術も、曹操と示しあった上で反乱を起こしている。



 周囲の群臣もざわめき、疑いと怒りの目をこちらに向けた。

 しかし、だからこそ僕は胸を張る。


「はて、かような話を私は聞いておりません。何かの間違いでしょう」


「まだ白を切るつもりか?」


「しかし、万が一それが事実であったとして、何の罪があるのでしょうか」


「なんだと?」


「交州は、未だ孫家の物にあらず! 我が父、シショウの治める土地であり、漢室の所有する土地である。陛下は今、許都にあられる。その陛下のもとに馳せ参じることに、何の罪がありましょうや?」


「……分かった、良いだろう。その勇壮たる詭弁に免じて罪は許す。されど、誠意を見せよ。孫家に臣従を願い出た、その誠意をだ。我らはすぐにでも、交州など潰せるぞ?」


「士家による自治権を認めて下さるならば、なんなりと」


 今まで散々へりくだっていた小僧が、今度は堂々と、対等の交渉に踏み出した。

 張昭は顔に怒りを漲らせ前に進み出るが、孫権は何ら変わらない表情で、その歩みを制す。


「兵糧、財貨、人質を寄越せ」


「承知」


「加えて、そうだな。今の士家の支配域は交州の沿岸部のみだ。内陸は、劉表の手の者が赴任してるな」


「まぁ、そうですね」


「奴らを追い出せ。沿岸部は自治を認めよう。されど内陸の蒼梧郡、鬱林郡、この二つの地区を、差し出すのだ。これが成立しない場合、我が孫家は交州を滅ぼす。良いな?」



 僕は深々と頭を下げ、にやりと笑った。




史実にも、張昭と魯粛の不仲ははっきりと残ってますね。

簡単に言うと、張昭は魯粛に「何だその態度は!」って度々怒ってた、みたいな(笑)

完全に先生とヤンキー。張昭絡みのエピソード大好きです。


さて、次回は「呉」がどういう国家体制なのか、という話を絡めてとある人物に接近します。

タイトルは「蜜柑と暦」。もう、誰か分かったかな?(笑)



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

皆様の応援が作者の活力です! あとはお金も活力。嫌いな人はいない。


それでは、また次回。

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