表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/102

25話 嘘と思惑


 別に僕が使者で赴かなくても、すぐに皖城は降伏していた。

 だって史実でも李術は籠城に耐えられず、降伏しているのだから。


 降伏勧告は、ただのきっかけに過ぎない。

 別に嘘であろうと「城内の者は助かる」と外部の人間が言えば、それはやがて真実味を帯びる。

 まぁ、こんなに早く開城するのは意外だったが、それだけ切羽詰まってたということでもあるんだろう。


 孫権は早速、李術の首を晒し、その親族や側近を処刑。

 兵や、主となって降伏をしてきた者達を許す処置を取った。


 江東の地は広いが、大部分は反抗的な異民族で、孫家に従う民は少ない。

 つまり、人間は最も希少な資源なのだ。

 無駄に兵まで斬っては、自分の身を削ぐことになるのを、孫権もよく分かっていた。



「シキよ、ご苦労であった」


「恐縮です」


 軟禁状態から解放された僕は今、孫権の幕舎に一人で呼ばれ、一対一で面会を行っていた。

 近くで見れば見る程、孫権がまだ若いことを思い知らされる。

 この年で、父親以上に年の離れた群雄と、渡り合っていかなければならない。豪族をまとめなければならない。

 一体その重圧とは、如何程のものなのだろうか。


「皖城の陥落、あれはお前の思い通りか?」


「いえ、私は説得を行い、失敗しました。落城は孫権様の軍略によるもので、敵が根を上げたのだと思っております」


「わざと失敗させた。どうせ李術は処刑されるから、その他の者達が反旗を下ろしやすいように。違うか?」


「私に左様な才はありません。考えすぎに御座います」


「ふん、まぁ良い。結果として城は落ちた。これで、この孫権の後継に文句を言うヤツは消えた」


「おめでとうございます」


 とにかく、低く低く。目立つな、睨まれるな、上を見るな。

 交州は豊かだが、弱い。戦の経験も全く無い。


 少しでも目立てば、潰される。


「さて、シキよ。今日呼んだのは、お前の用件を聞くためだ。何用でこの江東に来た。通商か、同盟か、従属か、それとも、宣戦布告か」


「南蛮は益州の影響下の為、あくまで簡易的な同盟を。そして交州は、孫家に従属を願いたく参りました。士家による自治、それを保証して下さるのであれば」


「認めない、と言えば」


「軍拡を図り、独力で対抗する他ありません。野心を持たず、ひたすら交州を守ります」


「そうか」


 孫権は一つ頷くと、スッと手を上げた。

 突如、幕舎の外から現れる兵士達。

 僕の体はたちどころに押さえられ、槍先をずらりと突き付けられる。


「こ、これはどういうことですか?」


「こちらとしても交州との結びつきは望むところであった。しかし、交渉には信頼が必要だな」


「私に、信用がないと?」


「そうだ。お前は大きな嘘を吐いている」


 連れていけ。

 その一言で、乱暴に幕舎から引きずり出されてしまった。





 夜風が吹き付ける檻の中。

 軟禁が解かれた次は、監禁か。


 どうにも上手くいかない日々だ。


(シキ様、そのまま顔を上に向けたまま、お聞きください)


 魯陰の声だった。

 檻の外は兵士が並んでいる。僕は言われた通り、夜空を見上げた。


(まず、従者は皆、無事です。軟禁状態にはありますが、特に乱暴に扱われてはおりません)


 それは良かった。何よりの気がかりはそこであった。


(現在、雍闓様がこの処遇に異議を唱えておられますが、孫家に応じる気配はありません)


(孫権は「嘘を吐いている」と言っていた。心当たりはあるか?)


(意図は分かりかねますが、こちらの隠していることとすれば)


(……親父の居場所がバレたか)


(まず間違いないでしょう。聞けば、まだ許都には着いておらぬようですが、道中あちこちで遊んでいると。それが耳に入ったのやも)


(何やってんだよ、親父)


 ただ、こうやってあちこちを見て回り、直接、どのような統治が行き届いているか、親父は遊びながらそれを探る人だ。

 シキョウ従兄上あにうえも同様、遊ぶことで大いに人脈を広げている面もある。


 つまり、これがあの人たちの長所でもあるのだ。

 ただ、何もこんな時に、と思わないでもない。


(もし何かあれば、私が身を捨ててシキ様を逃がします。雍闓様と共に、交州へお戻りください)


(大丈夫だ、何もするな。孫権の狙いは交渉を優位に進めることで、これはその為の策に過ぎない。殺せば戦になる、そんな愚を犯す器ではない)


(しかし……)


(むしろ孫権のそばにいる方が安全なくらいだよ。それより魯陰さんは、例の贈り物を持って、先に呉郡へ行ってほしい)


(……承知しました。決して、危険なことをなさらないで下さい)


 ふっと、気配が消えた気がした。

 あぁ、肌寒い。くしゃみを一つかまして、鼻をすする。



 大丈夫だとは言ったものの、確信はない。

 孫権は別に、交州を武力行使で奪える立場にもある。


 史実で言えば孫権はこれから、父の仇である江夏こうかの「黄祖こうそ」を討つ準備に入る。

 まさか父の仇を前に、交州と事を構えるまい、と思っていると足元をすくわれるだろう。


(孫権が何を欲しがっているのか……焦点はそこだな)


 排気ガスも何もないこの世界の夜空は、とても綺麗に見えた。




親父と従兄が、遊び歩いていることがバレちゃうの巻き。

前回、荀彧相手にカッコよかった親父の詰めの甘さが、ここで露呈してしまうという。

そりゃあ士壱シイツさんも苦労するわな。


次回は、いよいよ孫権との決着。

あの名物おじいちゃんと、魯家のヤンキーの喧嘩も見れますよ!(ぇ



面白かったら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

皆様の応援が作者の活力です! あとはミスドも活力になる。ポンデダブショコ美味しい。


それでは、また次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ